竜の愛し子
(強引だって分かってくれてるならいいかな。でも、なんで?)
理由を尋ねようとしたら、今まで聞いたことがない程の真面目な声で、ハクアが黒竜王様に詰め寄った。
『ユーリアに何の用だ?』
「単刀直入に言おう。ユーリアに〈竜の愛し子〉になって欲しいのだ」
(竜の愛し子……? 何、それ?)
どうも、厄介なものにしか思えない。どう考えても、避けるべき案件だよね。
『なっ!? ユーリアは僕の愛し子だ!! 他を探せ!!』
ハクアが怒鳴る。めっちゃ、起こってるよ。全身の毛を逆立てて、黒竜王様を威嚇している。
(う〜ん、ハクアの台詞で〈竜の愛し子〉がどういうのか、なんとなく理解出来たよ。正直、これ以上、加護や称号が付くのは嫌かな)
ハクアだけでも、かなり持て余しているからね。明らかに、分不相応っていうか……何にも出来なくて力がない私が、選ばれる事自体、可笑しい気がするんだよね。そもそも、自信なんてないし。
「それが出来たら、始めからそうしておる。しかし、残念ながら出来ないのだ。理由は、聖獣、お前なら分かるだろう」
ハクアの抗議を予想していたのか、黒竜王様は小さく溜め息を吐いている。
(あっ、可愛い)
声には出さないよ。一応、空気を読んで。まぁでも、考えが読めるハクアと黒竜王様には意味がないけどね。
『それは、分かるが!!』
それにしても、私が関係しているのに、私抜きで話が進むのはちょっと嫌かな。なので、参加することにした。
「どういう事ですか? 詳しく教えてくれませんか?」
「そうだな……まず、ユーリアは〈聖獣の愛し子〉だ。聖女のスキルを持つ者から選ばれる。それは理解しているな」
黒竜王様にそう念押しされて、私は小さく頷く。
「だがな、スキルを持っていれば誰でもよいわけではない。最低限、聖獣の加護を受け入れる事が出来る身体を持つ必要があるのだ。行き過ぎた加護は、身を滅ぼす猛毒になるからのう」
「……つまり、いくら良薬でも、身体が弱っていたら薬負けして、反対に毒になるってことですか?」
「まぁ、大まかに言えばそうだな」
さすがに、加護を薬に例えたのがいけなかったからかな、黒竜王様の眉間に浅く皺が寄っている。
「受け入れ可能な身体って、私が人よりも魔力が多い事が関係していますか?」
魔力の多さは、学園に通うようになって知った。内緒だけど、教職員やどの生徒よりも多いの。
「それもある。だがそれよりも、我ら神族に属する者に、直接触れる事が出来るか否かが重要なのだ。〈愛し子〉が我らに触れれなければ、話にならないだろう。とは言っても、我らに触れれる者など、なかなかいない。ここ数百年は現れなかった」
(じゃあ、数百年越しに現れたのが、私ってわけ!? そんな、凄い人間じゃないけど。ただの田舎の小娘だし)
「あ〜だから、ハクアが黒竜王様に触れるのを嫌がったわけですね。でも、それなら可笑しいよね。ジュリアス様やライド様の肩に、ハクア乗ってなかった?」
『それは、僕が神気を抑えていたからだよ。それに、あの二人は神官だからね、問題はないよ。あの二人と教皇以外は無理だけど』
思い返せばそうだね。私に一番近い場所にいるセシリアも、ハクアには一切触れようとはしないし。
それにしても、ジュリアス様とライド様って、ほんと凄いよね。離れていても、名前は至る所で聞くしね。知ってたけど、改めて再確認したよ。
(ていうか、あれって、黒竜王様のテストだったの?)
「そうだ。何も言わずに試してすまなかった」
シュンとする黒竜王様も、何か可愛い。私、爬虫類系苦手だったのに。
「〈竜の愛し子〉を求める理由があるんですね」
「ああ。理由を述べる前に、〈竜の愛し子〉について話しておこう……〈竜の愛し子〉とは、我ら古竜と現世、つまり、この世界を繋ぐ存在なのだ」
「繋ぐ存在……?」
話が段々大きなものになっていく。遂に、世界まで広がったよ。
「そうだ。聖獣とは、また違うものだがな。我らは、この世界に関わらずに生きている。下手に関わると、人の世を混乱に導いてしまうからな」
「……力を求めてですか?」
古竜様たちは、この世界の信仰そのものだよ。その力の一端でも与えられたら、世界は大きく変わる。もし、古竜様と名乗らなくても、その姿が人の目に触れれば、古竜様を連想して恩恵を求めて群がると思う。
私は別に人嫌いなわけじゃないけど、そういうものだって知ってるからね。現に、私が〈聖女スキル〉持ちだと知った途端、村長さんも領主様も、私を手に入れようと突撃して来たからね。
信仰は、本体が存在しないから成立してるんだよ。
「我らの影響力は計り知れないものだ。だからといって、我らがこの世界との関係を断つわけにはいかぬ。もし断てば、緩やかだが、確実にこの世界は滅ぶだろう」
(マジか!? 滅亡宣言きたよ!!)
あまりにも突飛なことを言われると、却って冷静になるもんだね。なんか、一周グルッと回った感じ。
「……それを回避するために、〈竜の愛し子〉か必要なんですか?」
「そうだ。〈竜の愛し子〉がいれば、愛し子を通して幸福を分け与えることが出来る」
黒竜王様の説明に、私は首を傾げた。矛盾してる点があったからだ。なので、素直に訊いてみた。
「だとしたら、可笑しいですよね、この数百年間は〈竜の愛し子〉はいなかったんでしょ」
いなかったのに、世界は滅びていないし、その兆しもない。
「愛し子がいなくなったから、直ぐに世界が滅ぶわけではない。愛し子とは、我らとこの世界を繋ぐ扉のような存在だ。扉は閉まるが、閉まる速度も遅い。それにその間は、失いつつある幸福を補う者がいるからな」
(補う者……それって?)
私は隣に座るハクアに視線を向けた。視線が重なり、ハクアは小さく頷く。黒竜王様は話を続けた。
「その聖獣も代替わりの時を迎えている」
「ハクアが小さいのは、そのせいなの?」
『……僕が与えられる幸福は、限られているからね』
力ない声でハクアは答えた。私はその姿を見て、胸の奥がギュッと締め付けられた。
(ずっと頑張っていたんだね。ハクアも古竜様たちも……)
私はハクアに手を延ばし、抱き上げ、抱き締めた。
「ありがとう、ハクア、古竜様……」
「……礼を言われるのは嬉しいものだな。ユーリアよ、〈竜の愛し子〉になってもらえないだろうか? このままだと――」
(世界が滅ぶとは、言わないんだね)
「黒竜王様って優しいですね。ハクアみたいに、強引に契約を結ぶことも出来たのに、私に訊いてくるなんて」
この時点で、私の答えはほぼ決まっていた。
「その身に掛かる重圧を承知しながら、強引に結ばせては、さすがに非人道的過ぎる」
(確かに、そうだね。でも、強引に連れて来た時点で、私に逃げ場がないのも事実だよね)
ハクアと黒竜王様の表情が曇った。
「つまり、ハクアと古竜様たちから与えられている幸福が、ギリギリになって来たから、私を強引にここに呼んだんですね」
「そうだ。強引な手を使ってしまい、申し訳なかった」
確認する私に、黒竜王様は謝罪を口にする。
爬虫類系って表情が分かりにくいけど、黒竜王様は分かりやすい。とてもとても偉い方なのに。
謝罪の後、ハクアも黒竜王様も言葉を発しない。
沈黙が重い。重過ぎる。
二柱が、まだ子供の私の言葉を待っているのがヒシヒシと伝わって来た。ハクアと黒竜王様が私をジッと見詰めている。その姿を見ていたら、何故か口元に笑みが浮かんだ。
そして私は、ゆっくりと口を開いた。
二か月以上更新出来なくて、本当に済みませんでした。
その間、別の所で一冊書き上げていました。タイトルは、「もし明日世界が終わっても、私は君との約束だけは忘れない」です。両片想いの幼馴染の物語となっております。読んでもらえると、すっごく嬉しいです。
これからは出来る限り、時間をあけずに更新していきますね。




