神官様
「失礼します」と声を掛け、王都から来た神官様が一人入室してきた。儀式の時、水晶の後ろに立ち聖獣様を肩に乗せていた人だ。儀式を執り行っていたのも、この神官様だ。結構、高い地位にいる方なのかもしれない。聖獣様も見えてるし。
どうやら、私とお父さんの応対はこの神官様がするみたいだ。神官様は、私と聖獣様を見て、満足気な笑みを浮かべている。
(仲良くなったのが、伝わったからかな)
「お待たせ致しました。申し訳ありません。紅茶のおかわりをお持ちしましょうか?」
優しげな表情と声。それがかえって、緊張感を増した。
「大丈夫です」
お父さんが、代わりに答えてくれた。
私たちの向かいのソファーに腰を下ろした神官様は、改めて、私と聖獣様を見詰めた。
入室した時から変わらない優しげな表情、なのに、ピリッとしたものを肌で感じた。
(見定められてる感じがする。露骨じゃないけど、嫌な視線)
自然と身構えてしまう。それに気付いたお父さんが、私の肩に手を伸ばし抱き寄せてくれた。触れ合った腕が温かい。それだけで、ホッとして息が吐けた。
『おい、ジュリアス、僕の大事なユーリアを怖がらせるな』
さっきまで、私の膝の上で座っていた聖獣様は、テーブルの上に移動すると、牙を剥き神官様を威嚇した。
「申し訳ありません。怖がらせるつもりはありませんでした」
飄々と答える神官様。
『僕が選んだユーリアに不満があるの?』
聖獣様の口調は乱暴じゃないけど、かなりご立腹のようだ。その姿も、すっごく可愛いけど。私は手を伸ばし、怒られるかもしれないけど、威嚇する聖獣様を抱っこした。
「駄目だよ、聖獣様。牙剥いたら。とっても可愛いのに。神官様が私に不信感を持つのは当たり前だよ。こんな田舎娘が聖女様なんておかしいでしょ。貴族様や裕福な家の子ならまだ分かるけど」
怒られはしなかったけど、その代わりに、物凄く驚かれた。神官様と聖獣様に。目をまん丸くする聖獣様って、超貴重だよね。
「これはこれは、とても度胸のあるお子様ですね。頭の回転も早い。この歳で、ものの分別も付いています。聖獣様がお選びになられたのも頷けますね」
『そうだろう、そうだろう』
神官様の台詞に得意げに答える聖獣様。
和やかな空気が漂う。もう嫌な視線は感じない。少しは、神官様に認めてもらえたのかな。
「さっきから気になってたんだけど、聖獣様が私を選んだから、聖女の【スキル】が与えられたのですか?」
何度も、聖獣様が『僕が選んだ』って言っていたから。
神官様は首を横に振る。
「それは違います。ユーリア様は元々【聖女スキル】をお持ちでした。複数人存在する【聖女スキル】をお持ちの方々の中で、聖獣様はユーリア様をお選びになられたのです」
そう教えられて、私は聖獣様に視線を移す。大きなクリクリとした目で、聖獣様は私をジッと見上げている。その目が、私には不安そうに揺れているように映った。
(大丈夫だよ)
心の中でそう告げると、聖獣様の頭を撫でる。そして、神官様に視線を戻しお願いした。
「そうなんですね。あの……神官様、私に様を付けるの止めてもらえませんか。それに、敬語も」
居た堪れない。背中がムズムズするよ。だって本来は、私が様を付けて敬うべき地位の人だからね。
「貴女様の願いでも、それはできません。聖獣様がお選びになった聖女様に、敬意を表すのは当然のこと。慣れて下さい」
「それは無理です」
私は根っからの平民です。
「慣れて下さい、ユーリア様」
神官様の笑顔の圧に、とてもじゃないけど反論出来なかった。仕方なしに、私はそれた話を元に戻す事にした。
「聖女様って、何人いるのですか?」
「そうですね、現在確認されている人数は、ユーリア様を含めて十人ですね」
「十人……それは、多いのですか? それとも、少ないのですか?」
私の質問に少し考えてから、神官様は答えた。
「そうですね……これは、私の考えになりますが、少ないと思います」
そう言われても、全然ピンと来ない。存在は知っていても、私にはお伽噺の世界だったのだから。返答に困っている私に、神官様は言った。
「それでは、聖女について、軽くですが説明致しましょう」
(それは、すっごく助かる)
「宜しくお願いします」
私は軽く頭を下げた。いくら、聖女で聖獣様に選ばれたとしても、教えを乞うのだから当然だよね。