オリエンテーション始まりました
〈オリエンテーション編〉始まりました。
こういう大事な催しの日って、天気が崩れたことないんだよね。これも皆、神様とハクアのおかげだよね。
今日はオリエンテーション当日。
朝から快晴です。
(……でもここは、極寒過ぎて凍えそうです)
理由は簡単。私とセシリアは、王女殿下とレイティア様と一緒に、学園長による開始の挨拶を聞いていたから。
(どんなに気に食わない相手でも、さすがに、留年は嫌だよね。王族関係なく、恥だもの)
無事に終われば、それにこした事ないし。どのみち、私はどちら側にも付く気はなかった。それは、セシリアも同じだった。まぁでも、急遽交代した理由は、王女殿下も理解してそう。誰の差し金かもね。それを表には出さないのを見ると、やはり、公爵令嬢とは違うと思った。
オリエンテーションは、四人一組で、学園内にある実習の森で行われる。
要所要所に置かれた課題をクリアして先に進む、遊戯みたいなものね。学園内だから、魔物は当然いない。でも、野生動物はいるよ。でも、凶暴なものはいないはず。それに、先生たちが待機してるから、安全面は大丈夫かな。
オリエンテーションの課題は全部で六つあって、答えごとに進む道が違うみたい。チームワークが試されるやつだよね。
(チームワークね……この組に、それを求めるのは無理だと思う)
現に、今も意見が割れて収拾つかなくなってるし。騒いでいるのは王女殿下だけど、レイティア様もはなから聞く気がないみたいだし……どっちもどっちだよね。
「私は、こちらの道を進むべきだと思いますわ!!」
(何故、喧嘩腰)
「そうでしょうか? 私は、こちらの道を選びます」
完全に意見は真っ二つに割れていた。
(第一課題でこれって……)
「言い合ってもらちがあきません。セシリア様、ユーリアさん、貴女はどちらの道を選びますか?」
レイティア様は私たちに意見を求めた。
王女殿下は面白くなさそう。まぁ、そうだよね。彼女の中では、自分以外敵だと思ってるから。
「第一課題は、迷子の子供がいて、兵士の詰め所まで連れて行く事になった。近道するか、遠回りになるが大通りを通るかですよね。なら、私は近道ではなく、大通りを通る方を選びます。セシリアは?」
「私も遠回りの方を選びます」
因みに、これはレイティア様の方を選んだ事になる。別に、レイティア様だからそっちを選んだわけじゃあない。課題を読んで決めたのだけど、納得出来ない人が一人。
「どうして、そっちなの!? レイティアに懐いているから、そっちを選ぶのね!!」
(いや、違うけど)
レイティア様は呆れたように、溜め息吐いてるわ。冷めた目で王女殿下を一瞥すると言った。
「三対一で決まりですね。では、行きましょう」
王女殿下を無視して、そのまま進もうとしている。
(この二人、会話がなさ過ぎる!! それじゃあ、駄目だよ)
「少し待って下さい、レイティア様」
私が止めた事にレイティア様は吃驚したのか、目を丸くしている。何故か、王女殿下も。
「まず、訂正を。私は、レイティア様の意見だから選んだわけではありません。反対にお訊きしますが、王女殿下は、何故近道を選んだのですか?」
「それは、早く子供を親元に返してあげたいからですわ」
(子供のためか……)
「私も、王女殿下の気持ちに同感です。でも、その近道が安全と断言できますか? もし、人攫いに会ったら、子供と一緒に逃げ切れますか? 逃げ切れなければ、子供は一生親元には帰れません。当然、近道を選んだ王女殿下もです。だから、私は遠回りしてでも、危険性が低い、人通りがある道を選びました」
途中遮る事なく、王女殿下は私の答えを聞いている。王女殿下は人の話を聞ける人だ。
「王都は安全ですわ」
「そうかもしれません。しかし、この課題に場所指定はありません。例え、王都と場所指定していたとしても、私は遠回りを選びます。一度、メルセの街で攫われ掛けましたから」
あの時の恐怖は、一生忘れない。
用心深くなるのは、自分の身を護るため。以前の私なら、あまり深く考えずに、近道を選んだかもしれない。
「攫われかけた!!」
「本当に!!」
「それで、犯人は!?」
三人に詰め寄られた。近い、近いって。
「犯人は未だに捕まってはいません。配達屋さんにライド様と一緒に行った帰り、はぐれてしまって……大通りに向かって歩いていたら、狭い路地に入り込んでしまって。知らない男に腕を掴まれそうになって、怖くて一目散に逃げ出して、空樽の中に隠れました」
「……よかった、無事で」
セシリアがギュと私を抱き締める。その背中を、私はポンポンと叩く。これは、暫く離れてくれないわね。
「だから、ライド様が、王都でユーリアさんの手を握っていたのですね」
レイティア様が言った。私は小さく頷く。
「あの時、恥ずかしがらずに、素直にライド様と手を繋いでいたら、あんな怖い想いをしなかったし、皆を心配させる事もありませんでした」
そう答えると、レイティア様は王女殿下に視線を向け、静かな声で言った。「これでも、羨ましいですか?」と。
「分かったわよ。行きますよ!! 私に付いてらっしゃい!!」
私たちが選んだ答えを選び、先頭を歩き出す王女殿下を見て、レイティア様は苦笑している。
「分かった」って声らとても小さかったけど、はっきりと聞こえた。なんか、嬉しくなったよ。
やっぱり、王女殿下は思い込みが少し激しいだけで、根は悪くない。反対に、とても温かい人だと思った。




