私は今日も元気で学園に通ってます
図書館はパラダイスだよ。本を読むのが楽しくて大好きな私にとってはね。
古い書物の独特な匂いも大好き。紙とインクと埃の匂いが混じったのを嗅いでると落ち着くの。ハクアとは違う癒し効果があるんだよね。
子供でも簡単に抱えられる大きさの中に、色んな世界が詰まっていて、多種多様な知識が詰め込まれている。本って本当に凄いと思うの。冒険小説なら、ハラハラドキドキの冒険世界に飛び込めるしね。でも、ここ最近は冒険小説は読んでないかな。もっぱら読んでいるのは、学術書。
それはそれで、とっても楽しいの。
「これなら、ユーリアでも理解出来ると思う」
数多くある書物から、セシリアが選んで持って来てくれたのは、学術書にしては厚みのない、魔法力学の基礎本だった。
「ありがとう」
私は受け取り基礎本を開く。ふと、視線を感じる。無意識に視線を向けると、めっちゃ睨まれてた。慌てて、本に視線を戻したよ。
(……あ〜原因は、これね)
私が座っていて、セシリアが立っている。それだけでアウトなのに、私が読む本を取りに行かせてるって……ファンから見れば、そう映るわね。なら、私は完全な害虫だね。
(まぁ、どう思われようと構わないけど)
意識を基礎本に向ける。一頁、目を通して、書かれている内容がすんなりと頭に入って来た。
(毎回感心するわ。セシリアが選ぶ本って、ほぼ当たりなんだよね)
「分かりそう?」
セシリアが訊いてくる。
「はい。これなら、私でもなんとか分かります」
基礎本から顔を上げ、笑顔で答える。
「なら、よかった」
隣に座るセシリアも、いつの間にか、自分用の学術書を持って来ていた。時間を忘れ、並んで一緒に本の世界に浸り込んだ。
「……そろそろ、閉館の時間ですが」
そう声を掛けられて顔を上げたら、窓の外は夕暮れだった。声を掛けてくれたのは、図書委員のお姉さん。王太子殿下ぐらいの年齢かな。セシリアより、三、四歳上だと思う。
「えっ!? もう、そんな時間ですか!?」
(三時間も読んでたの!?)
気付けば、ハクアは本をベッドにして爆睡中だ。顔が緩みそうになるから、今は視線を向けれない。
「ええ、あと十分で閉館ですよ。その本、借りのなら手続きお願いしますね」
「借りますので、手続きお願いします」
「分かりました。貴女は?」
図書委員のお姉さんはセシリアにも訊いた。
「私もお願いします」
そう答えると、セシリアは私に借りる本を手渡した。そして、ハクアのベッドになっていた本を引き抜くと、他の本と一緒に本棚に戻す。すぐに、ハクアを抱き私の隣に立った。
「返却は一週間後です。遅れないようにして下さいね、セシリア様、ユーリアさん」
「はい」と仲良く答えて、私たちは図書館を出た。寮へ戻る途中、私はポツリと呟く。
「セシリア……あの先輩、普通でしたね」
本を借りる時、学生証を提示するから、私があの噂の問題児だって知ったはずなのに、表情も声も全然変わらなかった。セシリアと同じように扱ってくれた。それが私にとって、とても新鮮に映ったの。
「そうだね。よかったね、ユーリア」
「うん、嬉しいです。ちょっと!?」
いきなり、セシリアが抱き付いてきた。腕の中にすっぽりおさまる私の頭上で、セシリアは優しい声で言った。
「……ユーリアの頑張りを見ている人は、私以外にも結構いると思うよ」
噂ばかりが独り歩きしている中で、色眼鏡もなく、本当の私を見てくれる人がセシリア以外にもいるって知れて、やっぱり嬉しいな。
「うん。先生とか、ちゃんと評価してくれるし……でも、私が一番頑張っている姿を間近で見ているのは、ハクアとセシリアです。セシリアの頑張る姿も、きちんと見てますから」
「ありがとう」って言葉の代わりに、私はそう答えた。途端に、セシリアの腕に力が入る。ハクアが本と私の胸の間で身体を擦り寄せてくる。
(あったかいな……)
不安な気持ちが溶けて消えて行く。
口には出さずに平気な振りをしていたけど、内心は不安で一杯なの。色んな事を知る喜びや楽しみよりも、不安が勝って行った。平民で聖女というプレッシャーに、日々圧し潰されそうになる。
私は私と割り切っても、そう口にしても、心の奥では割り切れなかったの。思い込んでも、無理が出て来て苦しい時もあった。
でもね……私は一人じゃないの。いつも、この温かさに癒やされる。
色々やらかしたけど……私のために本気で怒ってくれる仲間たちがいるって幸せだよ。私のために、一歩前に進み出てくれるの。
今みたいに抱き締めて慰めてくれる、大事な親友なの。どんな時でも寄り添ってくれる、家族なの。
だからね、心配しなくていいからね、お父さん、お母さん。私は今日も元気で学園に通ってるよ。




