基礎が一番大事です
食堂で王女殿下が私に突撃し、王太子殿下に回収されてから、何故か人の視線を前以上に感じるようになった。授業中でも、廊下を歩いている途中も。さすがに、魔法学の実技授業中はないけどね。
まぁ、見てるのは私じゃなくてセシリアだけど。さすがに、誰に向けられてる視線か分かるわよ。なんというか……視線の種類が微妙に違うから。言葉にするのは難しいのだけど、熱いんだよね。
(セシリアのかっこよさと魅力が、益々上がってるのよね……)
そりゃあそうよね。本物の王子様に全然引けを取らないどころか、食ってたからね。キラキラ度が比べ物にならないほど違ってたよ。セシリア、女の子なのに。
声を掛ける勇気はなくて、チラチラと熱い視線を送ってくるだけだから、可愛くていいんだけど……絶対、ファンクラブ出来てるよね。ジュリアス様やライド様並みの逸材だもの、当然だよね。
「……牽制しあってくれればいいけど」
過激なファンの行動力は斜め上だからね。
「ん? ユーリア、どうかしたの? 何か言った?」
セシリアは今日も優しい。
天使様の笑顔プラス王子様の笑顔のダブル攻撃。眩しすぎて完全に視界が奪われる。慣れてる私でも、一瞬、息を飲むくらいには威力があるよ。真正面からのせいだけど。
「な、なんでもないです。ちょっと、ぼぉっとしただけだから」
「疲れた? 魔法学の実技授業、結構難しいよね」
(勘違いしてくれてラッキー)
でも、疲れているのはほんと。さすがの私も、色んな意味で警戒していたからね。二度ある事は三度あるって言うでしょ。そういう意味で肩に力が入っていたけど、いざ授業が始まると場の雰囲気が変わった。超真剣モード。だから、私も安心して授業に集中出来た。
それで分かったの。私とセシリアが飛び級をした理由。
二年生は、全身に魔力を行き渡らせた状態から始まるの。つまり、最低限、これが出来ないと話にならない。一年生はその前準備ね。私とセシリアは、それが出来ていたから飛び級出来たってわけ。反対に出来なかったら、留年になるみたい。
全身に魔力を循環させた状態で一時間キープ。
これ、結構地味にキツい。精神的にも肉体的にも。ゴールのない持久走を永遠に走っている感じかな。実際、授業の途中で倒れる生徒がチラホラ。吃驚したよ。やっぱり、二年生になると大きく違うんだね。
二年生は、魔力循環ではなく、魔力操作を徹底的に学ぶらしいよ。その前に一時間キープ出来るようにならないと先に進めないんだって。出来たら、次の段階に進めるの。最終的には、身体の一部に魔力を多く流せるように訓練するみたい。要は、魔法を習うのはまだまだ先だってこと。
授業を受けてみて思ったんだけど、意外や意外、結構躓いている子が多い。十分に魔力があっても、集中し続けるのは難しいみたい。
私もセシリアも、なんとか途切れる事なく、一時間キープ出来たよ。ほんと、ギリギリだったけど。これも、ある意味ハクアのおかげかな。だって、ハクア、私がいつもの自主練をしていると、必ず邪魔してくるからね。
『わかった。僕はちゃんと、ユーリアのお勉強の手伝いをしてたんだよ』
その割には、楽しんで邪魔していたようだけどね。
『ありがとう、ハクア』
『お礼なら、ブラッシングでいいよ。今晩して』
それは、私にとってもご褒美だよ。なので、返事は決まってる。『喜んで!!』一択だよ。
ハクアの声が聞こえるセシリアは、ニコニコ顔で私を見ている。私が奥の席に座ってて、ほんとによかった。
「ちょっと、疲れました。魔力量的には問題はないけど、意識し集中し続けるのって、意外に大変ですね」
「そうだね。でもそれが、魔法の基礎だから」
「うん、それはよく分かります。何事も基礎が一番大事ですから」
基礎を疎かにすると、いずれしっぺ返しをくらうのは自分だもの。魔法もそうだけど、座学もそう。影で、私とセシリアは天才だって言われてるみたいだけど、なるなら、私は努力の天才になりたいと思う。だって分かってるから、関係なさそうな本が意外に役立つって事をね。
「ほんと、ユーリアって何歳? 背中にチャックでもあるんじゃない」
セシリアは背中に手を伸ばす。くすぐったいから止めて。
「何、馬鹿な事を言ってるんですか? セシリアは。それよりも、この講義で分かりにくい事があったので、教えてもらえますか?」
教科書の一文を指で押さえる。
「どこ? あっ、これなら、魔法力学関係の基礎の本を読んだら分かるよ」
セシリアもそうだけど、ジュリアス様もライド様も、いきなり答えを教えてくれない。いつも、答えに導くヒントをくれるだけ。だから、答えを導き出すのは私。そして間違ったら、また新しいヒントをくれる。大変だけど、身に付くにはこれが一番の近道だよね。
「放課後、図書館寄ってもいいですか?」
「もちろん、いいよ」
私の家庭教師はいつも丁寧で優しい。あの王女殿下が言っていたけど、ほんと、私は人に恵まれているとつくづく思うよ。
これも皆、ハクアが私を見付けてくれたおかげだね。ハクアと巡り合わなかった未来なんて、もう想像出来ないよ。
投稿遅れてすみません。
夏風邪を引いて、体調を崩していました。今はだいぶん良くなってきたので、再開しますね。




