王太子殿下が回収してくれました
後半、王太子殿下目線があります。
王太子殿下の登場に食堂は違う意味でざわつき、王女殿下はすっごく焦っている。
(王太子殿下はどっちなのかな? 雰囲気的から見れば、王女殿下を諌めに来たような感じだけど)
「何をしてるんだ!!」
同じ台詞を二回言ったよ。
「……私は、オリエンテーションで一緒に組む下級生に、挨拶しに来ただけですわ」
(彼女の中では、あれが挨拶になるんだね。怖い怖い)
「挨拶? 怒鳴っていただろうが!!」
王太子殿下は盛大な雷を落とした。
(あ〜王太子殿下、縮こまってるわ。意外と打たれ弱いのかな)
「せ、生活態度が悪いので、上級生として注意しただけです!!」
(いやいや、勝手にいちゃもん付けてきただけだよね。ここで、引けばよかったのに)
「……生活態度ですか。さっきも申しましたが、私は校則を破ってはいません。授業も真面目に受けています。遅刻もしたことはありません。それなのに、生活態度が悪いと? 【聖女スキル】を不正で手に入れたと一方的に罵られ、反論したら、暴力を振るわれた。それでも、私が悪いと仰られるのですね。理解しました。こうやって自分の意思を、意見を示すことが悪だと仰るのなら、私たち平民は、人権すらないのですね」
私がそこまで述べると、王女殿下も王太子殿下も何も言えず、厳しい表情を浮かべる。
私はそんな二人を冷めた目で見ると続けた。
「今もセシリアと、いえ、セシリア様と邪魔にならないように、端で昼ご飯を食べていた途中でした。平民は人権すらないのですよね、なら、食堂を利用するのも避けなければなりませんね。食器を片付け、購買でサンドイッチでも買います。残っていればいいですが……」
そこまで、噛まずに言い切ると、私はセシリアに視線を向けた。
「そういうことなので、私は購買に行きますね。セシリア様、一緒に昼ご飯食べられなくてすみません。これからは、寮の食堂も同席出来ません」
落ち込みながら、セシリアにそう告げ、私は食器を片付けようと手を伸ばした時だった。王太子殿下が慌てるように私を止めた。
「すまない、ユーリア嬢。平民関係なく、食堂を利用するのは学生の当然の権利だ。それに、平民だからといって、我々貴族に媚へつらう必要はない」
(この場をおさめるためとはいえ、結構、凄いこと言ったね、王太子殿下)
正直、驚いた。綺麗事とか言われて、鼻で笑われるようなことを、はっきり口に出すなんて。
「お兄様!!」
王女殿下が悲鳴を上げる。
「お前は、こっちに来い!!」
厳しい声で王女殿下を咎めると、王太子殿下は妹の首根っこを掴み引きずって行った。
連れ帰ってくれて万々歳。
でも、去り際に言っていた事が気になるんだよね。「近いうちに、謝罪の場をもうける」って。そんなのいらない、面倒くさいから。
やれやれと思いながら、私は席に着く。
そこで、ふと気付いた。
公爵令嬢の時はあんなに怒って歯を剥いていたハクアが、王女殿下に関しては全く怒っていなかった事に。
(もしかして、ハクアは王女殿下のことを認めてるの?)
僕に腕を掴まれ、王族用の食堂に連れて来られた妹は始終静かだった。少しは、自分の行動に恥じているのだろう。
「噂を鵜呑みにしてた結果がこれだ」
険しい声で妹を叱責する。
(入寮日前に、散々、父上と一緒に言い聞かせていたのに、全く)
「学園は貴族社会だ。平民には非常に厳しい。白でも黒と言われてしまう。今回の件でよく分かっただろ」
明らかに非は公爵令嬢側にあった。
「……はい」
僕は落ち込む妹を見て、溜め息を吐く。
「ジュリアス殿やライド殿が自分の教育係に付かなかった事を、未だに根にもってどうするんだ?」
「…………」
その通りだからか、妹は何も言えない。ただただ羨ましかっただけだ。夢にまで望んだ場所に、平民がちゃっかりいるのだから。
(公爵令嬢の件もだが、ユーリアという少女にとっては、逆恨みもいいところだな)
「……分かればいい。少しは、その頭で物事を考えろ。おそらく、あの少女が一番、聖女に近い位置にいる」
(聖女は国王陛下に意見が言え、命令出来る立場だ。あのユーリアという少女は既にもう……)
「ありえませんわ!!」
「認めたくないだけだろ? 平民という理由だからか? なら、その狭い視野をどうにかしろ。このままだと、痛い目に合うぞ……いいか、貴族連中を凌ぐ魔力を持ち、あのジュリアス殿とライド殿が教育した。その上、教皇様が可愛がっていたセシリア嬢を付けた。ましてや、教皇様が後見人だ。その意味を、よく考えろ」
ここまで言って分からないのなら、実力行使しかないな。実の妹に手荒な真似はしたくない。少し気が強くて我が儘だが、僕にとっては可愛い妹だ。
「お兄様なんて大嫌い!!」
怒りで真っ赤な顔になった妹は、乱暴に部屋を出て行った。
やれやれと、僕はまた溜め息を吐く。
(どうしたものか……)
オリエンテーションの相手を、王族とはいえ横槍を入れる事は出来ない。なら、妹と同調しない者を慎重に選ばないといけないな。となると、一人しか思い浮かばない。小さい頃から妹が苦手な相手。彼女を付ければ、多少は大人しくなるだろう。




