魔法学の実技授業でやらかしたようです
(朝からピリピリしてるね……ハクアもセシリアも)
警戒度マックス状態。
当然といえば当然かな。だって、今日だったと思う。停学開けの例の公爵令嬢が登校するの。取り巻きたちは一日早く登校しているけど、接触はしてこない。セシリアの所にも謝罪には来ていないって聞いた。それもどうかと、正直思うけどね。
教室に入った途端、一瞬静かになったが、すぐに元に戻る。私たちは特に気にせず、いつもの定位置に向かう。途中、何度も何度も、セシリアを制止しながらね。
(ほんと、あれが淑女教育を受けた令嬢ね……)
内心呆れながら、完無視する事にした。まぁそれでも、公爵令嬢の視線がめちゃくちゃ突き刺さる。ほんと、うんざりする。
少しは学習したのか、私やセシリアにちょっかいを掛けてくることはなくなったけど、その代わりに睨む睨む。視線だけで人を傷付けられるのなら、私は数時間で何度も瀕死状態になってるわね。
取り巻きたちも、かなり両親から怒られたのか、公爵令嬢から離れようと足掻いているようだけど、それを私のせいにされてもね……
(もう、好きに思ってくれてもいいよ。関わりたくないし。別にどうでもいい)
それよりも、今は授業に集中しないといけないよね。神経を使う授業だから。
「では、魔力、聖力の基本操作である、魔力循環から始めましょう」
教壇に立つ魔法学の先生が言った。
この学園に来て、始めての魔法学の実技授業だよ。新入生の数が少ないから、一部の座学以外は、ほぼ合同授業なの。といっても二十人もいないし、先生は三人いるからね、細かい所まで見てくれるって定評があるんだよ。授業も必須授業以外は選択制だからね、他の学科と被ることもあるよ。
まぁ、どこに行っても、陰口と遠巻きは付いて回るけどね。全然平気。
あと、基本、魔力と聖力は同じものなの。【スキル】によって使える魔法に偏りがあるせいで、別物のように言われているけどね。
【聖女スキル】持ちは攻撃魔法が不得意で、ほぼ使えないレベル。代わりに、【聖魔法】に特化しているの。浄化や治癒魔法が有名ね。魔物系に関しては、最強の魔法らしいけどね。因みに、【聖魔法】が使えるのは【聖女スキル】持ちだけ。だから、国や神殿が保護してるの。
「他者との魔力循環は、皆経験していると思います。なので今日は、個人で出来るようになりましょう」
先生の言葉に、生徒は「はい」と返事する。
一応、私もジュリアス様とライド様に手伝ってもらって、魔力循環は終わらせている。というか、魔力回路を開く時に、他者の魔力に触れる必要があるの。それで一番使われている手が、他者との魔力循環。循環する事で、自分の体内に眠る魔力を知る事が出来るの。循環しなかったら、一生、自分に魔力があるとは気付かなかったと思う。
一人での鍛錬の仕方も習ってはいるよ。
ジュリアス様やライド様がいない時に、魔力操作の勉強をするように言われたからね。むらなく魔力循環が出来れば、発動する魔力量も少なくてすむし、時間も短縮出来る。少量の魔力で高難度の魔法も使えるようになるから。ハクアからアドバイスをもらいながら、時間があったら練習はしていた。
(まず、息を深く吸う)
「想像するのです。血液が体中に行き渡るように、爪先から頭の先まで」
深呼吸を何回か繰り返すと、先生の言葉が遠くで聞こえいるような感覚がした。
(次にするのは、心臓に魔力を集めること。そして、想像するの。そこから流れる力を。体中に張り巡らされている血管と流れる血液を。想像しやすいように、人体学の本を読んでいてよかったよ)
身体がポカポカしてきた。それは、魔力が全身に行き渡り始めたから。これが、頭の先から爪先まで温かくなったら成功。
更に、集中を深くする。結構、やっている時は気持ちいいんだよね。やったあと、どっと疲れるけど。
『はぁ〜〜ユーリアの魔力、最高〜』
頭上に前脚を乗せながら、ハクアもご満悦。
「……で…す。そこまでです、ユーリアさん!!」
急に、間近で声が聞こえた。集中が途切れた途端、全身を包んでいた温かさがスーと消えて行く。目を開ければ、驚愕したセシリアと先生の顔があった。
「……上手くできていましたか?」
自分では出来てると思っていても、実際はそこまでじゃない事もあるからね。
「はい、ここまで出来ていれば、問題なく次に進めるでしょう。時間も、どの学生よりも最短でしたよ」
先生は驚きながらも、ちゃんと評価してくれた。
「凄いよ、ユーリア!! 全身が黄金色に光ってたよ!!」
セシリアが興奮しながら言う。
「えっ、黄金色に?」
(目閉じてたから、全然気付かなかったよ)
「黄金色に光るのは、おかしな事ではありません。【聖女スキル】を持っている方、つまり、聖女科の生徒は【聖魔法】に特化しています。魔物や穢れが漆黒の魔力を纏うように、【聖魔法】の使い手は黄金色の聖力を纏うのです」
(黄金色の魔力ね……私、本当に聖女なんだね)
「そこまで詳しくは知りませんでした。ご教授ありがとうございます」
(目上の人に対する礼儀作法、習っててよかったよ)
「ユーリアさん、そしてセシリアさん、貴方がたは次から、魔法学の実技は二年生と一緒に学びなさい。座学はこの教室で。先生がたには私から言っておきます」
(…………はい? 今、先生、なんて言ったのかな?)
「凄い!! ユーリア、やったよ!!」
呆然としている私に、興奮したセシリアが抱き付いてくる。セシリアはとても喜んでいるけど、私は一気に不安が押し寄せてきた。
「あの……私、魔力回路が開いてから二か月程しか経っていません。なのに、二年生と一緒というのは……」
私の台詞に教室内がざわつく。
先生も驚いているみたい。セシリアだけが満面な笑みを浮かべていた。
「……ユーリアさん、【鑑定】を受けてから魔力回路が開くまで、どれくらい掛かりましたか?」
「だいたい、一か月掛かるか掛からないかぐらいです」
「そ、そうですか。では、【鑑定】を受ける前に、魔法に触れる機会はありましたか?」
(なんで、そんな事を訊く必要あるのかな?)
不思議に思いながらも、隠す事でもないので素直に答える。
「触れる機会はありませんでした。ただ、治癒師様が冒険者に治癒魔法を掛けている所は、遠くから見た事はあります」
教室内がまたざわつく。特に気にもとめずに流した。
「そうですか……分かりました。日数は関係ありません。安心して、二年生と学びなさい。一年生で学ぶべきものは、実技についてはありませんから」
お墨付きをもらっちゃった。先生が良かったからかな。ジュリアス様やライド様、教え方上手かったからね。勿論、ハクアもだよ。皆が褒められたみたいで、とっても嬉しかった。
この一件で、私の周囲でいらぬ噂が流れ始めたの。
ほんと、マジ止めて……




