問題児扱い確定です
私が完全にキレ散らかした様は、バッチリと担任の先生に見られていた。結構、最初の方から。
学園って、貴族社会を小さくしたものだと考えていたから、てっきり私が処罰を受けるのだと思っていたのだけど、実際は軽い注意だけで済んだ。
代わりに罰を受けたのが、公爵令嬢の方だ。これには驚いたよ。公爵令嬢は入学早々三日間の停学処分、取り巻きたちは二日間の停学処分となった。かなり、重い罰だと思った。
さすがに、いい気味とかは思わないよ。そこまで性格悪くないし、歪んでもないからね。
それに、入学早々での停学処分って、それだけで、かなりの痛手を既に払っているでしょ。取り巻きたちも付く相手を間違えたよね。
自業自得とはいえ、掲示板にも貼られるからね、家の体面的にも、貴族令嬢としても、恥をかいた事になるよね。親が猛抗議したそうだけど、殴られた相手を告げたら静かになったんだって。
ということは、つまり、セシリア様は公爵令嬢よりも偉い立場にいるか、後見人の力が強いかのどちらかだよね。セシリア様は男爵家の出身らしいから、おそらく後者だと推測できる。
となると……誰が、セシリア様の後見人が気になるよね。でも、それは直ぐに判明したよ。ちょっと考えれば分かる事だった。
「私の後見人は教皇様だよ」
にっこりと微笑みながら、セシリア様はおしえてくれた。
(だよね。うん、手を出したら即アウトだわ。でも納得したよ。国王陛下より偉い人だからね、教皇様は)
「……そうですよね」
「因みに、ユーリアの後見人も教皇様だよ」
セシリア様の台詞に、教室内がシーンと静まり返る。そんな中、私は反射的に答えた。
「えっ!? 聞いてないけど」
「ジュリアス様やライド様から聞いてないの?」
「聞いていません!!」
『言ってたけど』
ハクアはあっけらかんとした口調で否定してきた。
『だったら、なんで教えてくれなかったのよ!?』
一応教室内だから、念話で詰め寄る。セシリア様はニコニコ顔だ。
この会話、実はセシリア様にも聞こえているの。といっても、念話の場合はハクアの声だけだけどね。それでも、話の内容は薄々分かるでしょ。元々、ハクアの事は見えてはいたけど、ジュリアス様やライド様のように会話は出来なかった。でも、それって寂しいでしょ。だから、聞かれて困らない話なら聞いてもらってもいいって、ハクアに言ったの。お願いはしてないよ。あくまで、その判断はハクアに任せている。
『ジュリアスもライドもちゃんと言っていたよ。学園に行っても大丈夫。強力な御守りがありますからって』
確かに言っていた。
(でも、御守りって教皇様のこと!? いやいや、もっと分かりやすく例えてよ。てっきり、セシリア様だと思ってた)
「気付かないですむなら、気付かなくていいって考えたんだね。あの二人らしい」
御守りと言ったのは、ジュリアス様とライド様なりの優しさだ。出来れば、御守りが効力を発揮しないよう願っていた。離れていても、二人は私の事を気に掛け、護ってくれてるのだと、改めて実感したよ。涙が出そう。
「……知るのが早過ぎましたよね」
だとしたら、私に食って掛かってきた時点で、公爵令嬢たちはアウトだった。
「そうだね。でも、厄介なことになったね」
そう告げるセシリア様の顔が、若干強張っているのに気付いた。
「厄介なこと? あぁ、平民の私に教皇様が後見人として付いてくれてることを、セシリア様がバラした件ですね。いらない憶測が飛び交いますね。でも、これでよかったと思いますよ。少なくとも、私とセシリア様の関係性がはっきりしましたから」
何故、セシリア様が平民である私に優しくするのか、その疑問に答えを提示出来たからね。私からしたら勝手に噂してれば、と思うけど。
「ごめん、そう言ってもらえると助かるよ」
「セシリア様は気にし過ぎです。私は今知ってよかったと思いますよ」
「……会った時から思っていたけど、ユーリアって、本当に七歳なの?」
「七歳ですが」
「落ち着き過ぎじゃない? 十歳の私より、かなりかなり落ち着いてるよ」
そう言われても、ピンとはこない。
「慌てても仕方ないから。それに、今のように遠巻きにされている方が心地良いので、結果オーライですね。それに、私にセシリアという親友がいますから、寂しくはありませんし」
私はにっこりと微笑みながら、セシリア様の願いを叶える。意外と早く叶ったよね。
「ユーリア!!」
嬉しいのか、セシリアが勢いよく私に抱き付く。そして、私の頬に頬擦りしだした。やり過ぎじゃない? って思ったけど、内心は嬉しかったので放置。後に、ちょっと後悔することになる。
「分かったから、少しだけ離れて下さい」
抗議したら、なんとか離してくれたよ。手櫛で髪をなおす。
「……でも、これで問題児扱いされるね」
セシリアの台詞に、私は小さく頷く。
私はこの教室で完全に浮いた存在になっている。それは前からそうだったけど、質が変わった。それに、担任もどこかぎこちない。当然よね、対処に困るわ。
「そんなの、特に問題になりませんよ。私はここに勉強をしに来たのですから」
問題児扱いされても、平等に教えてくれるならいい。停学中の公爵令嬢たちのように、理不尽ないちゃもんを吹っ掛けられるよりは断然マシ。
それに、セシリアに二度と私の身代わりにはなってほしくはない。
「ブレないね、ユーリアは」
「そりゃあそうですよ。私には、立派な聖女になることを望んでくれてる方がいますので」
皆の顔が頭に浮かぶ。
「その中に、私は入ってるかな?」
「勿論、セシリアも入ってますよ。でもそれよりも、一緒に卒業して聖女になりたいです」
人を庇える勇気がある、優しい人だから、セシリアには聖女になってほしいと願う。でも、それは口には出さない。そこら辺は分かっているから。
ハクアが家の結界を張ってくれた時にね、私は「お願い」の危うさと怖さを知ったの。だから、私に関する事は願わないことに決めた。他者に関してもそうしようってね。
それに、そもそも、夢って誰かに叶えてもらうものじゃないよね。自分の力で勝ち取るものだと思うの。そうじゃないと、駄目なる気がするんだよね。




