入学早々ブチギレました
常識が全て正しいとは思わない。明らかに理不尽だったとしても、それが常識の範疇内なら勝てないと思っている。
おかしな話だけど、非常識には悪いイメージが付き纏う。少数派だから。ましてや、私は平民。もはや、諦めてるって感じかな。
(だけどね、腹が立たないわけじゃないの)
現に私は、今猛烈に、目の前のクラスメートに腹が立っていた。
(確か……公爵令嬢って言ってたわね)
華やかな入学式もつつがなく終わり、一旦新入生が教室に戻った時に、それは起きたの。目立ちたくないから、一番後ろに座っていたのにね。
「平民が【聖女スキル】を持っているなんて、ありえませんわ!! さぁ、今直ぐ白状なさい!! どんなズルをしたのですか!? 恥じを知りなさい!!」
わざわざ私が座る席の前に立ち、取り巻きを引き連れてヒステリックに怒鳴るのが、公爵令嬢ね……淑女教育は何処行った? マジ、呆れるわ。他のクラスメートは見て見ぬ振りしてるし。侯爵令嬢はいないわね。
(しょうがないか……彼女が一番高位貴族なんだから、下手に正義感出して、目を付けられたくはないよね、家巻き込みそうだし)
昨日から似た台詞を聞いていたので、溜め息が吐きたくなった。
ここまでは我慢出来た。
言われている内容は、昨日とほぼ変わらないし、言われる覚悟があったから。それに、セシリア様が席を外した途端にいちゃもんを付けて来るなんて、小者だって思ったからね。そんな相手に、感情をぶつけるのが馬鹿らしくて、私は淡々と返したの。
「平民である私に、どんなズルが出来るのですか? そもそも、神官様が自らの手で【鑑定】を行うのですよ、不正など出来るわけないでしょ。それに、過去、平民が【聖女スキル】を得た事は報告されています。それでもお疑いなら、直接、大神殿に問い合わされたらどうですか?」
(煽ったつもりは、なかったんだけどね……)
顔色を一切変えず、平然と正論で言い負かしたのが、公爵令嬢の癪に障ったみたい。顔を真っ赤にして、私を睨み付ける、睨み付ける。取り巻きたちも一緒に。
彼女たちが、悪い方に抜き出てるわけじゃない。多くの貴族が平民は口答えしないと思っている。私も学園の外ではしない。学園内でも、陰口ぐらいなら訂正しようとは思わなかった。
でもね、直接言われたら話は違うでしょ。
ここは学園。私は聖女になるための勉強じゃない、聖女としての基礎を勉強しに来たのだ。その邪魔だけは、誰であろうとも許さない。
いつの間にか、机に降り立っていたハクアが唸り声を上げ怒っている。威嚇音なのか、空気がバチバチと音を立てた。
『ハクア、抑えて。問題を起こしたくない』
覚えたての念話でハクアを止めた。止めないと、当てる気はないとはいえ、公爵令嬢に雷を落としそうな勢いだったからね。
『セシリアは何処に行った!!』
『セシリア様に、怒りの矛先を向けないで』
私がハクアを止めたので、バチバチという音が消えた。すると、怯んでいた公爵令嬢が復活。更に、!難癖を付けてきた。
「平民風情が、この私を脅そうなど生意気な!! これは教育が必要ね」
(嫌な笑み。ハクアの事はバレてないわね)
「教育が? 自分より年下の子供に対して、大勢で詰め寄るような方に、教えてもらうことなどありませんが」
冷笑しながら、言ってやる。
「なんですって!!」
(ヤバい、煽りすぎた)
公爵令嬢は手を上げ、私を殴ろうとしてきた。止める者はいない。ハクアには絶対、手を出さないでってお願いしている。
(これは……殴られるしかないかな)
内心、溜め息を吐いた時だった。
「ユーリア!!」
その声と同時に、私は誰かに抱え込まれた。振り下ろされる手。乾いた音。何故か、痛みは襲ってこない。
「…………セシリア様?」
知っている匂いがした。
「大丈夫、ユーリア? 怪我はない? 痛い所はない? 一人にしてごめんね」
目を開けると、右頬を赤くしたセシリア様が、私の顔を心配そうに見詰めている。
「……私をかばった…………セシリア様が」
ポツリと呟いた声が聞こえる。頭の中が真っ白になった。
まさか、貴族であるセシリア様が、平民をかばうとは考えていなかったのだろう。公爵令嬢は見る見るうちに青くなっていく。でも、自分がこのクラスで一番高位だと思い出したのか、直ぐに復活した。
(身分、それがどうした!!)
私はセシリア様を抱き締め、立ち上がる。セシリア様の頬に拙いながらも、回復魔法を掛けた。そして、セシリア様に微笑み掛け、彼女の前に立った。
「……貴女、セシリア様をぶったわね!! 私の親友をぶったわね|! 私なら何を言われても聞き流してあげるわ。平民である事に間違いはないから。だから、今はいくらでも我慢するつもりでいた。でもね、セシリア様をぶったことは許さない!! 例え、貴女が公爵令嬢だとしても許さない!! 正式に抗議するから、覚えておきなさい!! 平民だからと蔑み、意に沿わないからといって手を上げる人間が、聖女になんてなれるわけないわ!! 恥じを知れ!!」
完全に敬語忘れてたわ。
「……ユーリア」
この時、完全にキレていた私は、教師が来ていた事に全く気付いていなかった。




