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神様からの贈り物


 ここから先、保護者は入室出来ない。


 心配そうに私を見ているお父さんに手を振る。お父さんは微笑んで送り出してくれた。


【鑑定】を受ける子供たちが全員入室すると、いつも教会にいる神官様が扉を閉めた。私たち全員の【鑑定】が終わるまで、その扉は開かない。


 王都から来た神官様の一人が、私たちを見渡した後、簡単な流れを説明する。それが終わると、いよいよ【鑑定】が始まる。進行役の神官様が、子供たちの名前を一人ずつ呼んでいく。


 一番最初は、村長の息子だった。次はリナリー。


(ふ〜ん、権力がある順なのね。だったら、私は最後ね)


 名前を呼ばれたら、あの水晶に手を(かざ)せばいいのね。ここからはよく見えないけど、水晶に【スキル】が浮かぶのかな? それを魔法紙に転写して渡してるみたい。「どうだった」って、終わった後、訊いてくる子がいると思ったけど、さすがに空気を読んだみたいね。とてもじゃないけど、訊ける雰囲気じゃない。だって、誰一人喋らないから。


(神聖なものって感じなのもあるけど、それだけじゃないよね。神官様たちの(まと)ってる空気だよ)


 凛としているの。たぶん、それに圧倒されているんだと思う。それだけ、この儀式を真剣に執り行っているのね。


 私が職人系の【スキル】を願っているように、この場にいる皆にも、それぞれ希望する【スキル】があると思うの。


 でもそれが、必ずしも、贈られるとは限らない。


 【職人系スキル】の親を持つ子供が、【職人系スキル】を得られる確率は高いけど、絶対じゃない。あくまで、確率の話。


 お母さんは、どんな【スキル】でも、神様の贈り物だから大事にしないといけないって言っていたけど、【ハズレスキル】ってあると思うんだよね。


【スキル】自体がハズレじゃなくても、育った環境と全く接点のない【スキル】はハズレだと思うの。それによって、大きく人生が変わる事もあるって聞いた事があるし。嫌な思いをする事もあるんじゃないかな。


 例えば、喧嘩が嫌いな子供が【剣士スキル】を得たらどう思う。親は当然、剣を持たせるよね。本人の性格と意思を無視して。だって、この世界には魔物がいるんだから。討伐の担い手は必要でしょ。


 それが、この世界の現実。


 悲しいけどね。小さな村では、魔物に対抗出来る【スキル】を持つ人は英雄だもの。


 だけどね、私は【スキル】を一つの資格だって(とら)えてる。あったら、あったらでいい程度のもの。なんの責任もない平民だから言える事だけどね。そんな事を口に出したら、絶対、お父さんとお母さんに怒られるわ。罰当たりだって。


 最悪、【職人系スキル】じゃなくても、私が職人を目指してもおかしくはないし、【スキル】を得られない分、頑張ればいいって事でしょ。


 そんな事を考えていたら、私の番が来た。


 名前を呼ばれて水晶の前に立つ。


 手を(かざ)そうとした時だった。ふと、頭上から声が聞こえてきたの。私と同じくらいの子供の声。知らない声だった。


『君って、面白い考えしてるよね』


 反射的に顔を上げたら、声の主らしき者と目が合った。同時に、指先が水晶に触れた。


「えっ!? 何!?」


 驚愕と戸惑いから、大きな声を上げてしまう。


 今まで変化がなかった水晶が光ったの。目を(おお)うくらい強く。光は直ぐにおさまったけど、私は腰を抜かして座り込んでしまう。


 何が起きたか分からない私の足元に、声の主がちょこんと座り、とっても可愛い声で話し掛けてきた。


『やっと会えたね、僕の聖女。名前を教えてくれる?』


 ここが教会ではなく、ましてや、【鑑定】の最中じゃなかったら、悲鳴を上げてたよ。そして、そのフワフワなお腹に顔を埋めていたかもしれない。


 でも、この時の私は完全に混乱していた。許容オーバーでね。それでも、ちゃんと否定だけはしたよ。


「せ、聖女!? この私が!? ないない」


 必死で訴えるけど、誰も聞いてはくれない。


 王都から来た神官様たちが、とても興奮してて、私を凝視している。


(子供に、そんな圧を掛けないでよ〜)


 マジで逃げ出したい。だけど、真っ白でフワフワな生き物は私の膝に片足を乗せて、私を見上げているので無理。その足を払いのける事なんて、尚更出来ない。


(お願いだから、沈黙は止めてよ)


「…………あの〜帰っていいですか? 出来れば、帰る前に、再鑑定をお願いします。間違いって起きるんですね。知らなかったなぁ。あははは……」


 笑って、穏便にこの場をやり過ごそうって思ったけど、無理みたい。もしかして、詰んだ?


(私、帰れるのかな……)




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