想像していた通りの展開が待っていました
ちょっとした行き違いはあったけど、無事入寮出来た。
落ち着いて考えてみれば、ここ女子寮なんだよね。セシリア様が咎められていない時点で、女の子って容易に想像出来たのに。よほど、混乱していたみたい、恥ずかしな。
セシリア様は、既に荷解きが済んでいたので、私の荷解きを普通に手伝ってくれた。本当に天使様だよ。それに良い匂いもするし、貴族様の中には、こんなに出来た人がいるんだって、実は内心驚いていた。だって、大半は――
「噂、耳にしていませんか? 今年の聖女科の新入生の中に、平民が紛れ込んでるんですって」
「平民が!? 驚きですわ。平民ごときが聖女になろうとは、神を愚弄しているとしか思いませんわ」
(何が愚弄よ。【スキル】を与えたのは創生神様でしょ。矛盾してるわよ)
想像通りの展開にうんざりする。
それにしても、結構過激な事言ってるわね。そこまで過激じゃなくても、皆似たような意味の陰口を囁いてる。あまり目立ちたくないから、端っこの席に座ったのに、ここまで聞こえてくるよ。
(もう、囁くのレベルじゃないわね。まぁ、覚悟はある程度していたし、腹も決めていたから、ダメージはないけど)
当事者の私が聞き流しているのに、向かいに座るセシリア様が、完全に怒っていた。抗議しようとするセシリア様を、私は慌てて「下手に目立ちたくないから」と言って止めた。セシリア様はすっごく不本意そう。
隅の方に座ってて正解だったわ。私たちのやり取りを聞かれなくてよかった。内心、ホッと胸を撫で下ろす。貴族様が平民の言う通りにするなんて、陰口を叩いている生徒たちには想像出来ないからね。火に油を注ぐようなものよ。
(それにしても、完全に針の筵状態ってこの事よね)
セシリア様の気持ちは嬉しいけど、落ち着いて食べれやしない。こんな空気の中ではね。そもそも、そんなに食べれないけど。味も半減するわ。美味しいのに、残念。
そう、今私とセシリア様は寮の食堂で遅めの昼ご飯を食べていたの。セシリア様が手伝ってくれて、あっという間に荷解きが終わったからね。
(わざわざ、時間を少しずらしたのに……)
学費の費用の中に、寮費も含まれている。テーブルに並べられている豪華な食事は、基本無料なの。相手はそれが嫌なんだよね。
だって、貴族様と同じ食事を、同じテーブルで平民が取ってる事になるからね。それに、結構な量を皿に盛っても追加料金はなし。おかわり仕放題。それも勘に障るんじゃないかな。
一緒の食事が嫌なら、特別メニューを注文すればいいのに。まぁ、それなりに料金は掛かるけど。
「やっぱり、許せない」
持っていたナイフを、セシリア様は強く握り、今にも飛び出しそうだ。反対にハクアは始終無言のまま、冷たい目をして、私が切り分けたおかずを食べていた。因みに、セシリア様はハクアの姿が見えている。
「セシリア様、怒っても状況は変わりません。更に酷くなりますよ」
「ユーリアは悔しくないの?」
怒りを露わにしないどころか、平然としている私に対し、セシリア様は怒りの矛先を私に向けてきた。
「悔しいですよ。悔しくてたまりません」
(腸が煮えくり返るくらいにね)
「だったら!?」
本当に、セシリア様は真っ直ぐな人だね。天使様のような容姿だけど、心もそうなんだと思う。正直、怒ってくれて嬉しかった。胸の奥が温かくなったよ。
(でもね、やっぱり、セシリア様も貴族様なんだよ)
「抗議して、何か変わりますか? それとも、抗議をする事に意義があると思っているのですか? 多勢に無勢。私たちに勝算は欠片もありません」
(勝てない喧嘩をするのは、馬鹿がやる事だよ)
「…………」
セシリア様は悔しそうに唇を噛み締める。
「それに、彼女たちが言っている事は間違いではありません。悲しくて腹立たしいですが、それが、この大陸での常識です」
「でも!?」
「常識に勝てる見込みはありません。だからといって、卑屈になるつもりもありません。それに、つけ入る隙を与えたくないですし……」
私がそう告げると、セシリア様の目が更に大きく見開かれた。悪手だって気付いたようだ。私は続ける。
「セシリア様、怒ってくれてありがとうございます。私は私が今出来る事を、一生懸命するだけです」
「……ユーリアは賢くて、心が強いね。私も見習わなくてはいけない。ユーリアと友だちに慣れて、本当に良かった」
とっても眩しい笑顔で言われて、今度は私が焦る。
「ほ、褒めても、何も出ませんから!!」
(顔に血がすっごい勢いで登ってるよ。絶対、真っ赤になってるよね、私。あ〜恥ずかしい)
セシリア様って天使様だけど、こんな恥ずかしい台詞を普通に言えるなんて、免疫がない私には処理出来ないレベルだよ。
この会話の後、食事がとても美味しく感じたのは、やっぱりセシリア様のおかげだよね。
(私の方こそ、友だちになれてよかったよ)




