天使様はとても美しい女の子でした
「着いたよ。ここが、私とユーリアの部屋だよ」
(天使様、疲れてるのかな? 変な事言い出したよ。同室なんて)
「…………絶対、無理」
完全に敬語忘れちゃたわ。思わず、心の声が出てしまった。声は小さかったけど、すぐ傍にいたセシリア様には聞こえたみたい。
セシリア様は唇を噛み締め、とても悲しそうな、辛そうな表情をしている。
(私のせいだ……)
友だちにそんな顔をさせて、胸がズキッと痛む。
「私と一緒は、そんなに嫌? ごめん、ユーリアの気持ちを無視して勝手に決めてしまって。でも、我慢してくれないかな」
(セシリア様、論点がズレてるよ!!)
「違います!! セシリア様が嫌じゃなくて、根本的な問題がありますよね!!」
「根本的な問題?」
(本当に気付いてないの!? っていうか、貴族様の方がこの手の話に敏感なはず)
それにしても、天使様は首を傾げても様になるわ。取り敢えず、誤解だけは解いとかないといけないよね。
「……まだ子供ですけと、さすがに、異性と一緒の部屋はちょっと……」
「異性? 私が? 私、性別女だけど」
(……ん? 女? 誰が? セシリア様が?)
頭の中が疑問形で一杯になる。
「誰がです?」
「私が」
「セシリア様が女?」
「そう、生まれた時から女だよ」
そう照れくさそうに笑う姿は、何処からどう見ても、可愛い美少年にしか見えない。もしくは、天使様。少なくとも、私が知る女の子には見えなかった。
「ほ、ほんとに女ですか!?」
すっごく無礼な事を訊いてる自覚はあるけど、訊かずにはいられなかった。
「そんなに、驚かれて念押しされると、結構傷付くものだね。でも、間違いなく、私は女だから安心してほしい」
そこまで断言されたら、信じるしかないよね。間違いを自覚した途端、サーと血の気が引いた。
「すみませんでした!! てっきり、男の子だと思っていました」
土下座しそうな勢いで謝る。何度も頭を下げた。だって、考えなくても、とても失礼で酷い事を言ったから。悪意はなかったけど、傷付けた事には変わらない。
「別に怒ってないから、頭を上げて。初対面の人は皆間違うから、気にしなくていい……でも、セシリアって、女の名前だと思うけど」
(天使様、優しい。そうだよね、そこ、突っ込まれると思ったよ)
「貴族の方々の中には、男に女の名前を付ける事もあるのかなって……勝手に思い込んでいました」
正直に答えると、セシリア様はとても困った顔で苦笑する。
「……生まれつき身体が弱い男子を、成人するまでの間、災から身を護るために女として育てる慣習があるって話を聞いた事があるけど、私は健康体だよ」
(うん。何処からどう見ても健康体だね)
「間違えた私が言うのは違うと思いますが、セシリア様は中性的で、とても美しいです。天使様です。なので、自分に自信を持って下さい」
励まし方なんて分からない。昔から苦手だったし。傷付けた私が励ますのも、ちょっと違うと思うけど、それでも、自信を持っていてほしかったの。
「天使様って……」
キョトンとした顔をした後、セシリア様はおかしそうに笑い出した。
(なんにも、おかしな事を言ってないのに。セシリア様の笑いのツボは特殊なのかな?)
「今まで、本当に失礼な事を言ってすみませんでした。こんな私ですが、これから先のご指導ご鞭撻、宜しくお願い致します」
気持ちを切り替え、再度、私は頭を下げた。
「私の方こそ、宜しく頼むよ。分からない事があったら、なんでも言ってね」
右手を出されたので、私は頭を上げるとその手を摑んだ。
私のルームメイト兼家庭教師は、美少年で天使様。でも本当は、とても美しい女の子だった。
〈セシリア・オルコット(女/10歳)〉
金髪で蒼眼。
髪も短め。フワフワなボブスタイル。
ユーリアの家庭教師兼補佐役として、ポーラット王立魔法学園に入学した。




