学園に到着しました
車窓から見える景色が変わった。それは、一旦王都を出たからなの。
ポーラット王立魔法学園は、王都内に建設されていないからね。学園自体が独立していて、王都に隣接する一つの街を形成しているの。だから、大半の学生は寮生活かな。王都に家がある人は週末だけ、外泊届を出すって聞いた。
更に馬車を走らせること、二時間。学部と学年毎に入寮日が決められているおかげで、さして混むことなく、学園の門を潜った。門番の兵士さんにも軽く会釈したよ。
「なのに、なんで建物一つないの〜!!」
また車窓を全開にし、身を乗り出して叫んじゃったよ。
目の前にあるのは、綺麗に整備された一本の道。その両横には、これまた手入れされている芝生。
そして、森。
林のレベルじゃない。建物一つ見えやしない。
『【認識操作】の魔法だよ。ちゃんと機能してるよね』
「【認識操作】?」
『そう。簡単に言えば、ユーリアは幻覚を見ている状態かな。特別な通行書がなければ、永遠に学舎には着かないよ』
(あ〜なるほど、防犯ね。王族や高位貴族、それに【希少スキル】持ちもいるしね)
ハクアが解かりやすく教えてくれた直後だった。思わず「あっ」と声を上げてしまった。なんか、全身がザワッとしたの。例えるなら、始めて魔力回路が繋がった感じを、何倍に薄めた感じに似てるかな。
『うんうん、さすがユーリア。よく感じたね。ほら、窓の外を見てごらん』
ハクアに促されて、車窓の外に視線を向ける。さっきまで、森と芝生だけの景色が消え、噴水と重厚な建物がデンッと建っていた。
「……ここが、学園なの?」
『そうだよ!! ようこそ、ポーラット王立魔法学園へ!!』
ハクアが満面な笑顔で教えてくれた。
ハクアの笑顔を見ると、不安な気持ちがスーと消えて行く。ほんと、いつも不思議に思う。ハクアもそうだったら嬉しいな。
そう。ここが、これから六年間、私が本当の意味で聖女になるために学ぶ場所。
ポーラット王立魔法学園――
ポーラット聖王国最高ランクの学習機関。他国の王族がわざわざ留学する程の、超エリート校。
就学期間は基本六年。最大八年までは在学可能。飛び級制度あり。入学年齢は七歳以上(魔力回路が完全に開き繋がった者に限る)。
元は魔法を専門に学習し、極める事を目的としていたけど、今は魔法だけでなく、聖女育成、騎士養成と領主教育などにも力を入れていて、名称は魔法学園だけど、総合的な分野に特化している。まぁでも、やっぱり魔法関連が一番強いよね。聖女育成も一応、魔法関連だし。
なので、入学試験は超難しいらしの。
まず、座学のテスト。次に学科事に実技、そして面接。学科にもよるけど、魔法科は百人受験して合格するのは平均五人くらい。他の学科は、もう少し合格率が高いらしいけど。なので、自然と少人数体制になるってわけ。それから、最初に受験してから三年間は試験資格があるけど、三年を過ぎれば受験資格を永久に失うそうだよ。
そこまでして入学したいのは、この学園に入学し卒業すれば、将来は約束されたものだって言われているから。
実際、ポーラット聖王国の要職に就いている方々は、大概、この学園の卒業生だからね。学生案内書にそう書いてあったよ。
(そりゃあ、力入るよね〜特に貴族様は)
自分の子供を、どんな事をしても入学させたいと願うわ。卒業するかしないかで、家の格が変わるからね。それもどうかと思うけど。
因みに、聖女科は魔法科の中にあるわ。
【聖女スキル】持ちは、必ず入学しなければならないから、私は軽い書類審査だけで入学出来た。とはいえ、融通されたわけじゃない。
つまり、他学科の、合格者並みの実力を有してなければいけないの。
無試験とはいえ、馬鹿でいることは許されない。貴族様なら、幼少期から家庭教師を付けているから大丈夫だけと、平民の私にはね……だから、教皇様が家庭教師を手配してくれたの。なければ、絶対、授業についていけないからね。
馬車が静かに停車する。
御者さんがドアを開けてくれた。私は御者さんに支えてもらいながら馬車を降りた。手際よく御者さんが、トランクとリュクを私の横に下ろしてくれた。頭にはハクア。
「ありがとうございました」
お礼はちゃんと言うよ。礼儀だから。
「頑張って下さいね、ユーリア様」
応援してくれた御者さんに手を振り見送る。一人ポツンと残されて、少し不安になった。周囲に誰一人いないから。
「確か……ここで待っていれば、来てくれるんだよね」
そう呟いた時だった。
「君がユーリア様。待たせたね、迎えに来たよ」
やけにイケメンな台詞と、可愛らしい声が耳に届いた。
(無事合流出来てよかったよ〜)
別に、泣いてなんかないからね。




