初給料日です
今日は待ちに待った初給料日。
正直、なんの仕事もしていないのに、聖女だからっていう理由で貰っていいのかなって、後ろめたい気持ちもあったんだけど……そこは、気持ちを切り替えて、貰えるものは貰っとかないとね。お母さん働けないし、家族増えるし、収入がガクンと減るけど出ていくお金はグンッと増えるしね。
家には、生まれて間もない弟がいるんだから。手紙に書いてあったの、名前はユースにしたって。可愛いんだろうな。会いたいけど、今は目の前の事を頑張らないとって思ってたけど、これは……
「…………こんなに、貰ってもいいのですか?」
ずっしりと重い麻袋を受け取って、私はとても戸惑っている。っていうか、固まっていた。
だって、見た事がない金額だったんだよ。村だったら、四人家族で一年は楽に暮らせる金額なんだから、そりゃあ固まるよ。自然と、麻袋を持つ手がブルブルと震えてきたよ。
そんな私を、ジュリアス様とハクアはニッコリと微笑みながら見ている。完全に保護者目線だ。
「正当な金額ですよ。といっても、ユーリア様はまだ聖女見習いです。なので、一番低い金額となっております」
(マジで!?)
「えっ!? これで、一番低いんですか!?」
「はい」
「…………」
言葉が出て来ない、なんか、怖くなってきた。
「ユーリア様?」
『ユーリア、どうかしたの? 疲れたの?』
黙り込んでしまった私を気遣い、ジュリアス様とハクアが声を掛けてくる。
「……見習いでこれだけ貰えるって事は、聖女様たちは、とても重要な仕事をしているって事ですよね……危険な場所にも派遣されるって聞きました。私に、この金額を貰えるだけの働きが出来るのでしょうか?」
(聖女の責任と重圧が、こんな形で、身にしみて知る事になるとは思わなかったよ)
今まで、ジュリアス様やライド様から聞いてはいた。勉強もしていた。でもどこか、現実味に欠けていたというか……実感が持てなかった。
「怖くなりましたか?」
ジュリアス様の問い掛けに、私は小さく頷く。
「それでいいのですよ、ユーリア様。無理に分かろうとしなくていいのです。ただ、その気持ちを忘れないで下さい」
ジュリアス様の言葉が、温かさと一緒に私の心に浸透していく。
「はい」
「それで、給料は送られるのですか?」
「そうですね、半分は家に送って、残りは手元に。でもこんな大金、持って歩くのは怖いですよね」
(スリや強盗に狙われるのは嫌だよ。私、恰好の餌でしょ)
王都に来るまでは、三分の二を家に送ろうかなって考えていたんだけど、物価が高過ぎて、念のためにある程度は手元に置いておこうと思う。必要な時に手元にないのは不安で避けたいの。怪我や病気になった時とかね。まぁ実際、どれくらい使うか分からないから多めにね。
『僕が一緒なんだから、心配いらないよ』
(うん、大丈夫だといいな)
「ありがとう、ハクア」
ハクアにお礼を言ったのだけど、考えが読めるハクアはちょっと拗ねてしまった。
「ユーリア様、この前、ライドにプレゼントして貰った斜め掛け鞄がありましたね。それを、少しお貸し頂けませんか?」
ジュリアス様が訊いてきた。
「分かりました」
不思議に思いながらも、素直にジュリアス様に鞄を手渡した。ジュリアス様は鞄を開け内側を覗き込んだ。何かを確認しているみたい。
「やはり、魔法を付与出来る素材で作られてますね。これならば、付与出来るでしょう」
そう言うと、ジュリアス様は鞄の上に手を置き、小さな声で「収納」と呟いた。鞄がほのかに光る。光が消えたら、私に鞄を返してくれた。
「これで、その麻袋が入りますよ。【収納】と唱えながら入れてみて下さい」
「えっ、ほんとに!?」
試してみると、本当に入ったよ。魔法って凄い!! でも、鞄の中には何も入っていなかった。
(お金が消えた!?)
「収納魔法で亜空間に収納してますので、鞄の中には入っていないように見えます。あと、この鞄の所有者はユーリア様になっておりますから、他人が開ける事は出来ません。取り出したい時は、【管理】と唱えて下さい。【収納】されている物の一覧が出ます。あとは選択するだけです」
(なるほど)
さっそく、やってみた。すると、空中にリスト表が浮かんでいる。麻袋三個と合計金額が記載されていた。あとは、灰色の文字で書かれた品が。
(これって、【収納】していないものじゃない)
「凄っ!!」
感嘆の言葉しか出ないよ。
「項目を押して、取り出す量を指定すれば取り出せます。誰にも知られずに取り出したい時は、頭の中で指示を出せば取り出せます。【隠匿】を覚えたら、私がしたように掛けて下さい。そうすれば、外でもリストを見ても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、ジュリアス様!!」
感謝感激。思わず、ジュリアス様に抱き付いちゃったよ。あとで、はしたないって怒られたけどね。でもね、それくらい嬉しかったんだから。
すると、またハクアが拗ねちゃった。ライド様の時もそうだった。ジュリアス様が仕事に戻った後に、モフモフしプラッシングしたら、どうにか機嫌をなおしてくれたよ。私からしたら、ご褒美だけどね。
その日の昼過ぎに、ライド様にお願いして配達屋に連れて行ってもらった。
「無事に届きますように」
くすねられたり、野盗に襲われたら困るもの。
『大丈夫。ちゃんと届くように細工しておいたから、安心して』
(なら、何が起きても大丈夫だね)
「ありがとう、ハクア」
私はニッコリ笑って、ハクアの頭を撫でた。
後日談。
辺境行きの荷馬車を襲った野盗さんが、晴れなのに雷に打たれ、違う街に住む配達屋の係員さんは、室内にいながら雷に打たれたそうです。




