皆で食べた方が美味しいでしょ
学園に入学するまで、ジュリアス様とライド様が、そのまま私のお世話係を引き続き見てくれる事になった。教皇様に感謝。安心出来る大人が傍にいてくれるだけで安心だもの。
ポーラット王立魔法学園入学まであと一か月。
毎日が忙しくて、今日の昼は制服の寸法を計りにお店に行ったの。制服以外にも、十着程服を買った。ライド様に選んでもらったの。
制服以外は既製品。それで十分だよ。それでも、私にとってはドレスを着ている感覚なんだけどね。普段着にこれらを着るのには勇気がいるよ。
(汚せないよね、これ……)
一応、商会のお嬢様並みの洋服らしいけど、これを平民が普段着にしてるんだったら、王都って凄い所だよ。さすが、この国の中心だよね。
あとね、お菓子のお店も一杯あるの。村では、干した果物かクッキーぐらいだったのに。それも贅沢品だった。こんな種類のお菓子があるなんて、王都に来て始めて知ったよ。
(村の贅沢品が、ここでは普通以下なんだよね……)
つくづく思う。この生活に慣れ切ったら、村に戻った時が怖いって。王都に出稼ぎに行った人が帰って来ないの、少し分かる気がするわ。
そんな事を考えていると、ライド様とハクアが心配そうに声を掛けてきた。
「疲れましたか? 適当な場所で休憩しましょう」
『ずっと動いてたから、疲れたよね。休憩しよう』
ライド様もハクアも過保護だよね。でも素直に、その気持ちが嬉しい。
ライド様と一緒に出掛ける時は、ハクアはいつもライド様の左肩が定位置になっている。繋ぐ手が右手だから。私一人や神殿とかでは、普通に抱っこしたり膝の上だけどね。たまに、重力無視で私の後頭部に張り付いてるよ。
「……何もかもが凄くて、まるで別の国に来た感覚になりました。正直、やっていけるか不安です」
素直にそう答えると、ライド様が笑った。
「始めは、皆そうですよ」
「ライド様もですか?」
訊いて失敗したと思った。ライド様の顔が一瞬、苦しそうに歪んだから。
「……そうですね。こことは全く違う場所の出身ですから、慣れるのには苦労しました」
口調はいてもと変わらない優しいものなのに、込められている感情は、どこか暗い気がした。なので、私は話題を変えることにしたの。だって、苦しそうに見えたから。
「ライド様、あれはなんですか?」
ちょうどいい所に、見た事がない物を売っている屋台があった。棒に赤い果物を三個刺した物が並んでいたの。何故か、油が掛かったみたいにテカテカと光っている。
「果実飴ですね。旬の果物に、飴を溶かしたものにくぐらせ乾燥させたお菓子です。今、王都で流行っているお菓子ですよ、食べてみますか?」
「勿論、食べます!!」
(食べないなんて選択肢はないわ)
果実に飴か……その組み合わせ、最高よね。美味しいに決まってる。
「美味しいですか?」
「とっても、甘くて美味しいです。これ、飴の部分を先に舐めてから食べるんですか? それとも、一緒に食べた方がいいんですか?」
「どっちでもいいですよ。私個人では、一緒に食べた方が美味しいですね」
さっそく、試してみる。ほんとだ。こっちの方が美味しい。果実の甘酸っぱさが飴の甘みを強くしているのね。はまりそう。これ、他の果実でもいけるんじゃないかな。
「ハクア、はい」
棒を差し出すと、ハクアはきょとんとしている。
(あれ? そんな、おかしな事したのかな?)
「三個あるからね。一個はハクアに、もう一個はライド様に」
皆で食べた方が美味しいよね。それに、美味しいのは、皆で分け合って食べるものだよ。
ライド様が一瞬吃驚した表情をしたあと、フッと笑った。
「いただきます」
「どうぞ」
私は楽しくてニコッと笑った。
皆でほのぼのと休憩している私たちの様子を、通りを挟んだ所から見ている者がいた事に、私だけが気付いてはいなかった。
そして、それは一度や二度ではなかったのだ。




