絶対、成功させてやる!!
それは、おさらいといった感じで始まった。
「前にも言ったと思いますが、【聖女スキル】を持っている方はほぼ、貴族です。なので、ユーリア様が所属する聖女科も貴族の方ばかりになります。とはいえ、少数ながらも、平民の中で、ユーリア様のように【聖女スキル】を持つ方もいます」
(前にも、そんな事言ってたね……今と同じような真剣な目をして)
私はカップをソーサーに戻し、ジュリアス様の話を聞く。彼は一呼吸してから話を続けた。
「聖女様たちが、平民であるユーリア様を迫害する事はありませんが、学園では、そうとはいかないでしょう。以前にも説明しましたが、魔力回路が開いていないと入学しても、授業には付いてはいけません。つまり、七歳で入学するという事自体、非常に優秀と言えます。そのような中で、聖女、それも聖獣様に選ばれた事がバレるのは、非常に危険です」
ジュリアス様は、かなり言葉を選びながら再度注意してくれた。
(まだ、七歳だからね。まぁでも、言いたい事は分かるよ)
魔力回路が開く年齢の平均は十歳から十二歳。
平民の私が入学するのは七歳。
この時点で、悪目立ち確定だね。とはいえ、聖獣様に選ばれた身としては、入学を遅らすのは避けたいよね。箔が付かないから。その考えも分からなくはない。素直に納得出来るかは別だけどね。両親がしぶったのも、そこだったんだよね。
そんな状況下で、聖獣様に選ばれたなんてバレたら、怪我だけじゃすまないよね。最悪、命が狙われる危険性も十分考えられる。
(バレなくても、色んな理由を付けて、迫害、もしくは排除しようとしてくるわね。当然、平民の私に味方なんていない。何、この状況。入学前なのに、完全に詰んでるわ)
心底、憂鬱になってきた。あんなに、学園に通うの楽しみにしていたのに。だってそうでしょ。繰り返し、ジュリアス様が注意してくるって事は、そうなる可能性が大なり小なりあるからだよね。
『大丈夫。ユーリアは僕が護るから』
任しといてって感じで、ハクアは前足を私の手の甲に置いた。そう言ってくれるのはすっごく嬉しいし、その姿も肉球の感触も最高だけど、ハクアが出て来たら駄目だよね。水をさすようで言えないけど。
「……ありがとう。でも、程々にね」
ニコッと微笑みながら答える。
「ご安心下さい、ユーリア様。【聖女スキル】を持っているからといって、聖獣様の姿と声を認識出来る者はおりません。教師陣でさえ。気配ですら分からないでしょう」
はっきりと、ライド様は断言する。ほんの少しだけ、不安な気持ちが消えた。
「でも……それって、絶対じゃないですよね」
学園には優秀な生徒が多く集まっている。教師陣もそう。中には、聖力や魔力がズバ抜けて高い人もいる筈。可愛いハクアを認識出来る人が現れるかもしれない。現に、私の両親はハクアを認識出来ていた。ジュリアス様もライド様もそうだ。
「そうですね。何事も、絶対はありません」
ジュリアス様もニッコリと微笑む。いつもとは反対に、ライド様がジュリアス様を咎めようとする。
(確かに、そうなんだけどね……それ、認めちゃうんだ)
ジュリアス様って、たまにそういう意地悪な所があるよね。でも、はっきりと言ってくれると心積もりが出来るから、マジ助かるの。叱咤激励されてる感じで。勿論、ライド様の優しさも嬉しいよ。優しさと応援の仕方は人それぞれだから。気持ちが伝われれば、皆同じ。
自然と口元が緩む。すると、下から見ていたハクアが、ペシッと私の手の甲を叩いてきた。
(あっ!? ハクアが拗ねてる。最高に可愛い。モフりたいよ〜)
「ハクアが一番、私にとって心強い存在だよ」
モフる代わりに、ハクアの身体をギュとと抱き締めた。ハクアの頭に頬をスリスリする。
(最高!! タンポポの綿毛みたいで、フワフワしてて気持ちいいよ。生きて良かった〜)
次に狙うは、腹毛スリスリからの狼吸い。これだけは、まださせてくれないの。背中吸いと頭吸い、肉球吸いは許してくれてるのに。
絶対、成功させてやる!!




