この旅で学んだこと
取り敢えず、無事に名付けが終わって、ホッと胸を撫で下ろした直後に、それは起きたの。
(それにしても、吃驚したな〜私と聖獣様の身体が突然光るんだから)
直ぐにおさまったけどね。完全に不意打ちだったよ。
『これで完了だよ。あっ、そうだ。ハクアって呼べるのは、ユーリアだけだからね。他の者が呼ぶことは絶対に許さない。これは、僕とユーリアとの正式な【契約】なのだから』
前半は優しく、中半と後半は威厳を持ってハクアは告げた。
「【契約】?」
『そう、【契約】。僕とユーリアの魂を繋げたの。今までは仮だったから。だから、直ぐにユーリアの居場所が分からなかった。でも、これからは直ぐに居場所が分かるよ。何があっても、直ぐに駆け付けられる。名前って、個を特定し縛るものだから。簡単に言えば、これで正式に、ユーリアは僕の聖女になったんだよ』
そう言われてもよく分からない。でも、ハクアはとても嬉しそう。声が凄く弾んでる。私も嬉しくなった。
それでも、ハクアが言った【契約】って言葉が、どうしても引っ掛かる。その言葉に悪いイメージがあるから。
(まぁ、私が想像するようなものじゃないよね)
そこまで信じ込めるのは、聖獣様から誠意を見せてもらったからだ。結界の事と、私を心底心配し安堵する姿を。
私が約束を違える事はないよ。なら、形が変わっても問題ないよね。
だけど、【契約】を行った事で、私の周りがどう変化するのかは聞いていない。たぶん訊いても、はぐらかされる気がするの。だって、話す気があるなら今話すよね。話さないって事は、まだ早いって考えているのかもしれない。なんせ、田舎娘だもの。聖女の役割とか歴史とか、習い始めたばかり。そのうち、嫌でも深く知る日が来ると思うよ、学園とか神殿や教会とかでね。
ただ今分かっているのは、私に拒否権がないって事ぐらいかな。ハクアに選ばれた時点で、【契約】を結ぶ事が決定していたみたいだから。
私が知らない所で、勝手に決められた未来――
普通なら、少しは抵抗があるよね。聖女が名誉職だったとしても。そもそもの話、私は聖女に憧れなんて全く抱いてなかったし。
そんな私が、今はハクアと一緒にいて受け入れている。不思議と……それが、嫌じゃないの、戸惑いはあったけどね。
お金が稼げるって事も大きいよね。お金は大事だし、家族のために必要だった。現状っていうか、現実問題でね。だけど、それだけじゃなかった。う〜ん、なんて表現したら正解なのかな。そうだ!! しっくりくる、それが一番近いかも。
始めは吃驚して、腰抜けそうになったけど、すんなりと受け入れていた。ずっと昔からいたからのように。
確かに、決められた未来だけど、その未来を楽しむのも楽しまないのも、自分次第。なら、楽しんだ方が断然いいよね。
だから、私は精一杯楽しもうと思う。
そのためには、沢山の努力が必要だと思うの。勉強もマナーも。だって、それを知らなかったら、学園や神殿、教会で浮くよね。ひいては、ハクアの株も下がるもの。
神殿や教会に限らず、礼節っていうのかな、そういうのがちゃんと必要なんだって、この旅で、それを学んだの。
【聖女スキル】は、平民よりも貴族の方が多いって知った。神殿に所属している数少ない聖女様も、皆貴族の出身。そこに、私が飛び込むの。どんなに巧妙に身分を隠しても、直ぐにバレる。身分は隠せないの。平民出身って事だけで、私は他の人よりも目立つはず。
そして、必要以上に求められると思う。
厳しい目で見られると思う。
でもね、それはしょうがない事だって理解してる。
だからせめて、悪目立ちはしたくないの。馬鹿にされたくないの。それでも、されると思うけどね。だって、勉強している年季が違うもの、仕方ないわ。それでも、胸を張って歩きたいの。
それが、楽しむって事に繋がると思うから。この旅で学んだ事だよ。