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手紙


 旅はとても順調だよ。


 天気も崩れないし、たまに雨は降るけど、馬車を停める程の酷い雨は降らない。心配していた魔物も出ないし、野盗も襲って来ない。順調過ぎる程順調。これも皆、神様と聖獣様のおかげだよ。心から感謝しないといけないよね。


 ご飯も美味しいよ。ただ、ボリュームが……子供でなくてもこの量はキツイよ。

 

 皆は、私の食の細さに心配してくれるけど、今まで、そんなに風邪とかひかなかったし、フラッとしたこともない。だから、大丈夫なんだけどね……


『回路が開く前だから、この量で事足りてるけど、開けば、三倍以上の量を、普通に食べるようになるからね』 


(なんて、聖獣様は言うけど、ほんとかな?)


 魔力回路が開くって事は、魔法が使える身体が出来たって事なの。といっても、大概(たいがい)が、神様のプレゼント後に徐々にだけどね。今はその訓練中。後少しで開きそうだと、聖獣様が褒めてくれた。回路が開いたら、すっごく食べるようになるんだって。体力と魔力、二重の力を使うせいで。


 実際、ジュリアス様もライド様もすっごく食べるんだよね。ほんの軽食で、お父さんの軽く倍は食べている。


(見てるだけで、お腹一杯になるよ)


 量をかなり減らしてもらっても完食出来ないから、聖獣様に手伝ってもらってるの。だって、満腹で馬車に乗ると気持ち悪くなるから無理に詰め込めないし、残すなんて選択肢は始めからないからね。勿体(もったい)ないでしょ。


 旅を始めて間もない頃は、いいのかなって思ったのだけど、聖獣様は上機嫌だし、ジュリアス様もライド様も注意しないから、ずっと手伝ってもらってる。


 ご飯の事もだけど、ジュリアス様はライド様は、過保護までに私の事を一番に考えてくれる。


 こまめに休憩も入れてくれるし、休憩時間も十分に取ってくれる。王都まで三分の一程進んだけど、まだ野営はした事はないよ。私的には野営に抵抗はないんだけど、聖獣様に野営なんて強制出来ないよね。そのおかげで(まぬが)れてるのかな。道中といい、ほんと感謝しかないよね。勿論、ジュリアス様やライド様にも感謝してるよ。


 あと、勉強も寝る前にやってるよ。


 といっても、歴史書を読んだり、ジュリアス様やライド様のお話を聞いてるだけなんだけどね。たまに、聖獣様も教えてくれるよ。


 歴史のお話は、恋愛小説よりも面白いの。冒険小説を読んでいるみたいな感覚かな。考えてみるとそうだよね、人の記憶と生き方は冒険のようなものだもの。すっごく新鮮だよ。知らない事を知るって、とっても楽しいの。昔、お母さんが持っていた恋愛小説を内緒で読んだ事があるけど、さっぱり分かんなかったな……家を離れてそんなに経ってないけど、色々思い出すの。


(ホームシックには早過ぎるよね……)


『まだ、寝ないの? もう遅いよ。続きは明日にしたら』


 いつもの勉強会が終わっても寝ない私を心配して、聖獣様はベッドから抜け出し、簡易テーブルの上に乗る。そして、私の手元を覗き込んだ。


「う〜ん、でもね、明後日にはメルセの街に着くでしょ。それまでに書き上げたくて。書きたい事が一杯あるの」


 だから、時間が足りない。


 メルセの街を逃したら、次に配達屋がある街まで一週間掛かるから。小さな町や村には、手紙や荷物、お金とかを配送してくれる配達屋がないの。


『書くことが一杯あるの? ユーリアは楽しい?』


 たまにこうして、聖獣様は確認してくる。その度に、決まって返す言葉は同じ。


「楽しいよ。だからね、お父さんとお母さんに教えてあげたいの。それに、安心するでしょ」


 手紙を見せながら、私はニコッと笑う。


『僕も楽しいよ。でもね、もう寝ないといけないよ。そろそろベッドに入らないと、ジュリアスに怒られるよ』


 途端に、怒ったジュリアス様の顔が頭に浮かぶ。怒ると怖いんだよ。怒鳴ったりは一度もしないけど、無表情のまま淡々と言われるのは、ほんとキツい。精神が地味にゴリゴリ削られるの。


「えっ!? それは嫌」


 私は慌てて明かりを消すと、聖獣様を抱き上げベッドに潜り込んだ。


 明日はメルセの街に着く。


(少しは街を見て回れるかな? 起きたら、訊いてみよう)



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