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領主様のせいで慌ただしい出発となりました

いよいよ、王都に向けて出発です。

後半、神官様目線です。


「眠かったら、寝てていいですからね。気持ち悪くなったら、遠慮なく(おっしゃ)って下さい」


 始めての馬車移動に、ジュリアス様が、いつも以上に私を気遣ってくれる。聖獣様は私の隣で丸まって寝てるから、話す声は自然と小さくなるけど十分(じゅうぶん)聞こえた。


(朝が早過ぎたからね……)


 騒ぎが起きるのを避けるために、暗いうちに出発したから。


 領主様が来るって情報が深夜、ジュリアス様たちの耳に入ったせいで出発を早めたの。本当は、夜が明けてからの出発だったんだけどね。


 私が聖女を引き当てた事を表立って公表していないのに、何処からか聞き付けて、縁を結ぼうと辺鄙(へんぴ)など田舎まで馬を飛ばす。村長や領主様といい、【聖女スキル】持ちの価値が、どう認識され、(とら)えられているか分かった。


 いまいち、まだ実感がないけどね。でもこれから先、嫌でも実感する事になると思う。


(潰されないように、自分を見失わないように、心も鍛えないといけないよね。聖獣様とも約束したし)


 そんな事があって、私の見送りは両親とサーナだけだった。サーナは荷物を積み込んでいる音で目を覚まして、出て来てくれたの。それだけで、私はとても嬉しかった。


「はい、ありがとうございます。馬車に乗る前に、乗り物酔いの水薬をライド様から貰ったので、今は大丈夫です。でも、本を読むのは止めときます」


 酔ったら困るから。外の景色を楽しみたいと思っても、まだ暗いし、少し寝ようかな。


 そうそう、私は神官様たちの事を名前で呼ぶ事にしたの。神官様って呼んだら、二人とも振り返っちゃうからね。


 (ちな)みに、ライド様が領主様の情報を耳にしたの。神官様なのに、そういうのが得意らしい……突っ込むのは止めとこう。


「構いませんよ。勉強は後でいくらでも取り戻せます。気分が悪くなるかもしれないのに、敢えてする必要はありません。そんな状態でしたとしても、身に付きませんよ」


 私もジュリアス様と同意見。


「それにしても、ユーリア様が読み書きが出来て安心しましたよ」


 今度は、ライド様がホッとした様子で話し掛けてきた。同じ敬語でも、少し砕けた感じがする。好青年を絵に書いたような明るい人だ。


 反対に、ジュリアス様は(はかな)げで、何処か影のある感じかな。ライド様もジュリアス様も、超が付く美形なの。美形のタイプは全然違うけどね。ライド様は正統派でジュリアス様は中性的、まるで正反対だね。あくまで、見た目の話だけど。


 ジュリアス様がライド様に厳しい目を向けてるけど、ホッとした気持ちはなんとなく分かる。


 王都から遠く離れたど田舎の村では、まだまだ読み書き出来る人は少ないもの。幸い、私の周りには出来る子がいたけど、大人となると片手ぐらいだった。出来なかったら、そこからだもの。今年の入学は絶対無理だよね。私は読書好きなお父さんの影響で、小さい頃から本に触れる機会が多かった。なので、読み書きは自然と身に付いたの。


「お父さんが、本好きだったので」


「ユーリア様のご両親は、あの村の出身ですか?」


 ジュリアス様が訊いてくる。


(なんで、そんな事を訊くの?)


 不思議に想いながらも、素直に答えた。


「……いいえ。私が生まれる前に引っ越して来たって聞いてます」


「そうですか……話してて、とても学のある方だと思いましたので」


(やっぱり、気付かれてた。そうだよね……隠そうとしても無理があるよね。だけど)


「あっ、それ、聖獣様も言っていました。でも、お父さんは木工職人ですよ。お母さんは針子です」


 にっこりと微笑みながら答えた。ジュリアス様とライド様の目が一瞬、大きく見開いた。


 実は、私も気付いていたの。両親は普通の職人じゃないってね。


 お父さんの部屋の本棚には、難しい本が一杯並んでいる。中には、飾りではなく、使い古した専門書的な書物もあった。触れる事も読む事も許してはくれなかったけど。


 普通、平民の家にないよね。それに、両親とも字がとても上手いの。不自然さがなく流れるような文字。それなりに教育を受けたって、誰でも分かるよ。隠そうとしても、身体に身に付いたものは隠せにくいから、余計(よけい)に不自然になるしね。


 だから、もしかしたら両親は、それなりの家で生まれ生活していたかもしれないって考えていたの。下手したら、貴族だったのかもしれない。今回の件で、その可能性が格段に上がったよね。


(疑問を抱くのも分かるよ。だから、何)


 過去はそうだったかもしれない。


 だけど、今の両親は職人だよ。お父さんはお母さんの事が大好きで大切にしている。勿論、私もね。それにもうすぐ、弟か妹が生まれるの。普通のどこにでもいる幸せな平民一家。


 それが、真実。


 それは、これから先も変わらない。変わったらいけない。変わらせない――そんな強い思いをのせて笑ったの。


「「……分かりました」」


 ジュリアス様たちに、ちゃんと伝わってよかったよ。


「ユーリア様、朝食までまだ時間があります。それまで、お休み下さい」


 ライド様にそう(うなが)されて目を閉じる。さっきまでは全然眠たくなかったのに、意識がストンと落ちた。目を覚ます頃には夜も明けて、外の景色が見れるよね。村から出た事がないから楽しみ。





「寝たか……」


「ああ、よく寝ている」


 寝顔はまだまだ子供だと、ジュリアスとライドは思った。それが(かえ)って恐ろしいと、ジュリアスは胸の内で呟く。


「どう思う?」


 真顔で訊いてくる親友であり相棒に、ライドは顔を(しか)める。


「どういう意味だ? ジュリアス」


「七歳の子供が、私たちを黙らせるなんて普通出来ないぞ」


 声を荒げる事も癇癪(かんしゃく)も起こす事なく、ユーリア様は笑顔一つで私たちを黙らせた。それ以上、詮索(せんさく)するなと釘を刺された。それに私は驚き、恐れを感じた。おそらく、ライドもそうだろう。


「それが出来るから、聖獣様がユーリア様を選んだんだろ。そもそも、普通の聖女様に聖獣様のお相手が務まる事自体、まず無理だからな」


 ライドの台詞にジュリアスが反応するより先に、寝ていた(はず)の聖獣様が答えた。


『そうだよ。ユーリアの魂はとても(しな)やかで強くて綺麗なんだ。だから僕は、ユーリアに()かれて選んだの。分かったら静かにしてね。ユーリアが起きちゃう。僕もまだ眠いんだ』


「「申し訳ありません」」


 小声でそう謝罪し頭を下げたジュリアスとライドは、私と聖獣様を起こさないよう口を閉じた。




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