聖獣様の結界は凄かったです
この三日間、物凄く忙しかったよ。そして、凄く濃かった。思いもしない事が起きたしね。
荷造りもそうだけど、細々な用事が、こんなにあるとは思わなかったよ。家を出るって、こんなに大変なんだね。勉強になったわ。
お父さんも仕事をお休みにして、忙しそうに動き回っている。お母さんが動けないから、特に忙しそう。動けないけど、代わりに、ジャムや果物の砂糖漬けとか沢山用意してくれたよ。
昼はなかなか話す時間がなかったけど、夜は一杯ベッドの中で聖獣様と話したの。他愛のない事ばかりね。王都の事や学園の事も話したよ。聖獣様の故郷の話もね。とっても勉強になって、楽しかった。
そうそう、その他にも面白い事があったよ。
普段、家に来た事がない村長さんが、突然、息子を連れて来て、強引に家に入ろうとしたの。そしたらね、入れなかったんだよ、見えない壁に囲まれてね。それも、村長さんだけ。
聖獣様の結界凄いよね。
なんでも、私と村長の息子を婚約させようとしたみたい。昨日、私たちを見てヒソヒソと陰口を言っていたのにね。
今回は、お父さん頑張ったよ。断れる事に少し驚いた。でも、村長さんは簡単には諦めてくれなかった。お父さんを強引に外に連れ出し、認めるよう怒鳴り強制してきたの。必死で断るお父さんが可哀想になってきた。それぐらい酷かったの。
「さっさと、頷け!! わざわざ出向いてやったのに!! 儂に逆らったらどうなるか、分かってるな!!」
それは、絶対言ったらいけない言葉だ。私は我慢出来なくて飛び出そうとしたら、神官様に止められた。
救世主の登場。
神官様がね、追い払ってくれたの。
「聞き捨てならない事を聞きましたが……宜しいのか、これ以上、聖女様のご家族に無理強いすると、聖獣様の加護が薄くなるか、なくなるか、どちらかになるが、それでもいいのか」
そう脅したら、村長のヤツ、青い顔をして走って逃げ出した。付き合わされた息子も可哀想よね。真っ赤な顔で泣きそうになっていたから。
後で神官様が教えてくれたのだけど、どうやら、加護がなくなる云々の話、脅しじゃなくて事実なんだって。余程の事がない限り、加護はなくなったりはしないけどね。
(でも……もしなくなったら、この村はどうなるの?)
本人だけなら自業自得かもしれないけど、村が巻き込まるるのは違うと思う。聖獣様はそんな事しないけどね。そんな恐怖を抱き続ければいいかな。
サーナもお別れに来てくれたよ。前に借りて面白かった冒険者の本をくれた。サーナのお気に入りだったのに。「いいの?」って訊いたら、王都の本屋さんで本買って来てと言われたよ。サーナらしいよね。今度里帰りする時は、沢山の本をお土産にしよう。聖女って給料が出るからね。
それと何故か、リナリーが家に来たの。来るとは思ってなかったわ。そこまでして、嫌味を言いたかったんだと思ったら、うんざりしたけどね。
「貧乏なあんたが聖女!? 笑っちゃう」とか、平気で言いそうだったのに、ボロボロと涙を流して大泣きしたのには吃驚したよ。泣きながら、持っていた紙袋を私に押し付けて、走って逃げちゃった。だけど、リナリーらしい捨て台詞は残していったけどね。
「貧乏なユーリアに、これあげるわ!! 少しは様になるでしょ」ってね。
紙袋の中には、可愛らしい薄いピンク色のガラスで出来た髪留めが入っていた。
「だから、前から言ってるでしょ。リナリーはユーリアの事がお気に入りだって。素直じゃないから、こじらせてるってね。少しは信じてくれた?」
「……うん、少しは」
私とリナリーのやり取りを見ていたサーナが、二階の窓を開け顔を出し、得意げに声を掛けてきたの。サーナの家は隣だから、騒いでいたのまる聞こえだよね。という事は、村長さんとの経緯もだた漏れって事だよね。
そんなこんなで、出発はいよいよ明日。
前日の夕ご飯は、今まで食べた事がないくらい豪華なものだったよ。いつもは塩味のスープに硬いパン。よくて、ハムを焼いたのが付いていたけど、今日は更にオムレツとデザートが付いていたの。無理させちゃったかなって思ったけど、お父さんとお母さんに愛されてるって実感したんだ。
(ありがとう、私も大好きだよ)
そう思ったら、胸の中がカーと熱くなって、涙が溢れて止まらなくなった。そんな私を、お父さんもお母さんも優しく抱き締めてくれたんだ。