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7 旅路のための着替えのはずが……?


「あの、アルヴェント様。も、申し訳ございません……っ!」


 ロベスに引き合わされた二人の女性騎士、赤毛のナネットと明るい茶色の髪のチェルシーによって着替えさせられ、王城の出入り口のひとつにほど近い中庭で出立の準備をするアルヴェントの元へ連れてこられたフェルリナは、おろおろとアルヴェントを見上げた。


 やっぱり大きい。小柄なフェルリナの身長では、アルヴェントの胸の辺りまでだろう。


 そのフェルリナが着ているのは、淡い緑色の綺麗なドレスだ。くすんだ金色の髪はチェルシーがくしけずって結い上げてくれた。


『ドレスの色はフェルリナ様の緑の目にあうように、緑色がいいわよねっ!』


『フェルリナ様ぁ~。お化粧もしましょうよぉ~? えっ、いらないってどうしてですかぁ~? こぉんなにお可愛らしい顔立ちをなさってるのに、もっと着飾らないともったいないですよぉ~』


『チェルシーの言うとおりですよ! 見たところ、フェルリナ様はこれまであまり着飾ったりしなかったようですし……。せっかくの素材がもったいないですっ!』


『あ、あのっ!? ナネットさん!? チェルシーさん……っ!?』


 自分より体格のいい女性騎士二人にぐいぐい迫られて、フェルリナに抵抗できるはずがなく……。


 ナネットとチェルシーを引きあわせたロベスには、


『フェルリナ様。あなた様はアルヴェント殿下の妃なのですから、わたしに様づけは困ります。他の団員にも示しがつきません。ナネットとチェルシーにも、もし意に沿わぬことがありましたら、毅然きぜんとした態度をお取りください』


 と注意されたのだが、元から気の強くないフェルリナに、二人の意見を退けることは不可能だった。


 何より、二人とも急に第二王子の妃となったフェルリナに取り入ろうとするのではなく、純粋な厚意で助言してくれているのがわかるだけに断ることもできず……。


 結果、


『これでもドレスとしてはかなり質素なほうです!』


『そうですよぉ~。ゴビュレス王国に着いたあかつきには、もっと着飾らせてくださいねぇ~』


 と二人に言われたものの、どう考えても旅装としては不適切な気がするドレス姿ができあがり、アルヴェントの前に連れてこられたのだが。


 開口一番に謝罪したフェルリナに、アルヴェントからは、黙したまま何も返ってこない。


 きっと呆れられているのだ。もっと旅にふさわしい服装に着替えてこい! と言われたら、もう一度謝罪して即座に従おうと身構えていると。


「団長っ! 固まってないでしっかりしてくださいよっ!」


「そぉですよぉ~。ここは『綺麗だよ』とか『可愛いね』とかフェルリナ様を褒めるところですよぉ~? アタシ達、頑張ったんですからぁ~!」


 フェルリナの後ろに控えたナネットとチェルシーから不満の声が上がる。


「もしかして、目を開けたまま気絶してるんですか!? ほらっ、フェルリナ様だって困ってらっしゃるじゃないですか!」


ほうけてないで、せめて『似合ってるよ』くらい言ってあげてください~! フェルリナ様が不安そうじゃないですかぁ~!」


「え……?」


 何やらフェルリナが考えていたのとは違う流れに、おずおずと顔を上げる。


 黒い目を瞠ってフェルリナを見下ろすアルヴェントと視線が交差した途端。


「っ!?」


 ぼんっと、アルヴェントの精悍な面輪が急に紅く染まる。途端、うつったようにフェルリナの頬も熱くなった。


 気まずい沈黙を埋めるように、背後のナネット達から声が飛ぶ。


「団長っ! そこですっ! 照れてないで頑張って!」


「黙ってちゃわかりませんよぉ~? そこでちゃんと言葉にしなきゃ~!」


「だぁああっ! うるさいっ! 二人ともフェルリナの支度の手伝い、ご苦労だった! さっさと所定の位置に戻れっ! すぐに出発するぞっ!」


 ナネットとチェルシーの指摘に、反発するようにアルヴェントが叫ぶ。騎士団長の命令に、二人は不承不承といった様子で敬礼して下がっていった。


 乳兄弟のロベスとだけかと思ったら、ナネットとチェルシーにもあんな気安い口調を許しているなんて、内心で驚く。


 だが、ぎすぎすしているより、ずっといい。


「あー……。大丈夫だったか? すまない、今回連れてきた面々の中ではあいつらしか女性騎士がいなくて……。その、まさか、侍女がいないとは予想していなかったものだから……」


 ナネット達と引きあわせてもらった時にロベスに聞いたところによると、フェルリナがゴビュレス王国で心細い思いや不便な思いをしないように、アルヴェントは聖女付きの侍女も一緒に連れて行くつもりでいたらしい。


 が、実際にはフェルリナには侍女などひとりもおらず、私物自体も驚くほど少なかったのだが。


「いえ、とてもよくしていただきました。お二人とも、とても親身になってくださって……」


 気遣ってくれるアルヴェントに微笑んで答えると、精悍な面輪にほっとしたような笑みが浮かんだ。と、大きな手のひらが差し出される。


「あの……?」


 いったいどうしたのだろうと、戸惑っていると。


「……俺のエスコートは、嫌か?」


「え……っ!? あぁっ、あのっ、ありがとうございます……っ! すみませんっ、気づきませんで……っ!」


 貴族令嬢らしい扱いなど長らくされていなかったので、まったく全然気づかなかった。あわてて手を重ねると、アルヴェントがフェルリナの歩調にあわせてエスコートしてくれる。


 中庭で準備を整えている最中の十人ほどいる騎士団の面々が、アルヴェントとフェルリナを見てざわめいているが……。


 せっかく手に入れた聖女が頼りなさそうな小娘なので不安に感じているのかもしれない。


 もしくは、凛々しくて立派なアルヴェントと、見栄みばえのしないフェルリナとの落差に呆れているという可能性もある。


 傷跡のない右側を歩いていることもあるだろうが、黒色の礼装に身を包んだアルヴェントは思わずほれぼれと見惚れてしまいそうな偉丈夫だ。


 アルヴェントと自分が結婚したなんて、いまだに信じられない。



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