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1 加護無し外れ聖女、王太子殿下に呼び出される


 魔物の討伐を無事に終え、王城へ帰還した第三騎士団は和やかな雰囲気に包まれていた。


 団長が王太子への報告のために宿舎を外しているので、旅装を解いたり、軽く飲食している騎士達の間にもくだけた空気が漂っている。


「今回の討伐は楽だったな」


「ああ、数は多かったが、小型の魔物ばっかりだったしな」


「おれ、この討伐でダークウルフを五匹も仕留めたんだぜ! けど……」


 ひとりの騎士が、はぁぁっ、と大きなため息をつく。


「今回は『外れ』だったからなぁ……。どうせ、レベルアップには足りないだろうさ」


「だよなぁ。イーメリア様が来てくださってたら、おれだってレベルアップしてたんだろうけどさ……」


「命懸けで戦ってるのは同じなのに、外れ聖女のせいでレベルアップできないなんて勘弁してほしいぜ」


「レベルアップ支援の加護がないなんて、何のための聖女だよ。そんなの、回復魔法と支援魔法が得意な魔法士と変わりないじゃねぇか」


 聞こえよがしに耳に届く侮蔑と苛立ちの声に、食堂の端で荷物の点検をしていたフェルリナはぎゅっと唇を噛みしめた。


 自分が騎士達にうとまれているのは、聞かずとも知っている。


 神から加護を得た特別なクラス『聖女』


 回復魔法と強化支援魔法を得意とするだけでなく、魔法をかけた相手の獲得経験値を増やし、レベルアップしやすくする加護を持つ……はずなのだが。


 ――フェルリナにはその加護が、ない。


 クラスやスキル、レベルや素質などがわかるスキルボードという魔法具によって、フェルリナが聖女であることは証明されているのだが、なぜか加護が発動したことは、一度もないのだ。


 そのため、もうひとりの聖女・イーメリアと異なり、フェルリナはレベルアップ支援の加護がない『外れ聖女』だと呼ばれている。


 危険が見込まれる魔物討伐に赴く際は、聖女が同行することも多いが、イーメリアではなくフェルリナが来るとわかると、騎士達にあからさまに落胆されるほどだ。


 危険を冒して討伐任務についているのだから、同じ労力で早くレベルアップできるに越したことはないと、フェルリナだって理解している。


 だから、騎士達に疎まれようと陰口を叩かれようと、唇を噛みしめて一度も反論したことはない。


 せめて、回復魔法や強化支援魔法に長けようと努力してきたが……。それでも、騎士達の反応が変わることはなかった。


 けれど、今回の討伐でも重傷者が出ず、無事に全員が帰還できたことに、フェルリナは心から安堵している。たとえ疎まれているのだとしても、やはり、自分の目の前で誰かが傷つき、痛みに苦しんでいるのは嫌だ。


 たとえ加護なし聖女だと蔑まれていても、自分にできることがあるならば、全力を尽くして役に立ちたい。


 だが、ステータスボードを見る限り加護があるはずなのに、なぜそれが発動しないのか。


 一番知りたいのはフェルリナ自身だ。


 だが、もう何年も前から、探ろうとすることは諦めた。魔法士が作成するステータスボードは便利な魔法具だが、詳細までわかるものではない。


 王城の図書室の入室許可を得て、文献を調べてみても、加護のない聖女の記述なんて見つけられなかった。


 副団長にひと声かけて、さっさと自分の部屋へ戻ろうと腰を浮かせたところで。


「フェルリナ! フェルリナはいるか!?」


 報告に行ったはずの騎士団長が食堂の扉を開け放つ。


「は、はい。こちらに……」


 第三騎士団の団長は四十手前の伯爵位の貴族だ。クライン国に二人しかいない聖女とはいえ、しがない男爵家の娘にすぎないフェルリナは、背筋を伸ばすと、小走りに戸口へ進んだ。フェルリナの姿に気づいた団長が安堵の息をつく。


「まだいたか。来なさい、王太子殿下がお呼びだ」


「え……っ!?」


 王太子殿下と親しくしているイーメリアと違い、フェルリナは拝謁の機会を与えられたことなど、ほんの数度しかない。


 しかも、今のフェルリナは討伐から帰ったばかりで薄汚れた姿だというのに、何かの間違いではなかろうか。


「急ぎ、着替えてきたほうがよいのでしょうか?」


 いったいどんな理由で呼び出されたのか。

 心当たりはないが、不安しかない。


 戸惑いながら問うと、ちらりとフェルリナに視線を走らせた団長がかぶりを振った。


「いや、今回はそのままでよい。それよりも、急いで参れとのことだ」


 一方的に告げた団長がフェルリナの返事も待たずにきびすを返す。


 フェルリナはあわてて団長の後に付き従った。



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