☆解体屋
じゃぶ、じゃぶ、じゃぶ・・・
じゃぶ、じゃぶ、じゃぶ・・・
「ふう、ようやくはがし終わったぞ…。」
「結構今回のはしつこかったね。」
「まあ、無事綺麗にできてよかったよ。」
「それでは解体を始めます。」
「はいはい、よろしくお願いしますよ。」
「まずは、いいところ。」
「あんまりないなあ・・・。」
「希少部位ですからね。」
「次に使えるところ。」
「まあまああるかな。」
「ただ、好き嫌いが激しいだろうね、これだと。」
「うわ、いっぱい出てきたぞ・・・。」
「まずいところだもんなあ。」
「これはやばいな、ちょっと!大きな入れ物持ってきて!!」
「あと残ってるのは・・・。」
「空っぽになった魂だね。」
「じゃあ…、品物がそろったところで、店に並べましょうか。」
お店の前には、開店前からたくさんの行列ができていますよ。
客は色々と噂話をしながら待っていますね。
「今日の仕入れはすごいらしいぞ。」
「空っぽの魂が入荷したんだってよ!!」
「じゃあ器無しの奴らは血眼になるだろうな!!」
「まずいところだけでも…手に入れることができたらなあ。」
「まずいところなんかあっても困っちゃうじゃないか。」
「俺の器は、あとちょっと埋めたら完成するんだよ、そうしたら生まれることができる。」
「そうだよなあ、多少のまずいところは他でカバーしたらいいもんなあ。」
「間違いない、とりあえずものを見たいな。」
「早くあかないかな。」
ここは、魂をなくしてしまったものが集う場所なんですよね。
魂を悪魔に売ってしまったり、天使に取られてしまったりすることは、珍しい事じゃありませんからねえ。
大切な大切な魂を再び手に入れるために、ただひたすらに待っているものたちの集う場所があるんです。
魂をなくしてしまったものは、魂を自らの手で組み上げなければならないのですよ。
それにはまず、魂の器が必要でしてね。
魂の器すら持っていない人がたくさんいますよ。
スカスカの魂の器を持ってる人もたくさんいますよ。
もうじきいっぱいになりそうな器をもっている人もまあまあいますよ。
魂の器に、魂のパーツを入れていって、器がいっぱいになったら…生まれることができる仕組みがあるのです、ええ。
がらがらがら~
あ、魂パーツ店の扉が開きましたね。
「お待たせしました、それでは魂パーツのお渡しを始めます。」
わーわー!ぎゃーぎゃー!
店の前が盛り上がっていますね。
「お静かに!!それではまず、魂の器から!欲しい方は挙手をして下さい!」
店の前の人の形をしたものたちが、何人も手を上げていますよ。
器を持たないものたちが、全員手を上げているんですけどね。
「たくさんいるので、この中で一番熱意のある方に器をお渡ししますね。」
上げられた無数の手のもとに、空から糸が下りてきました。
人の形をしたものは糸の端を握っています。
握ると、糸は人の形をしたものとしっかりつながるんですよ。
皆、糸の端を持ったまま、吊り上げられましたね。
ほとんどの人が空のかなたに吊り上げられて…消えていきました。
そして、二人、魂の器の前に吊られてやって来ましたよ。
「貴方たちの熱意はほぼ同じですね。しかし、魂の器はひとつしかありません。」
一人が尋ねました。
「分けることはできませんか。」
お店の人が答えます。
「分けるとずいぶん小さな魂になりますが。」
もうひとりの人が尋ねました。
「小さくなると、どうなりますか。」
「普通の人に比べると、ずいぶん引き出しの少ない人生になりがちです。」
二人は、何か考えているようです。
そして、おのおの答えを出しました。
「私は引き出しが少なくてもいいので、器を分けてもらいたいです。」
「私は生まれるからには充実したいので、器を分けたくありません。」
器を分けてもらいたいと言った人は、吊られて空のかなたに消えていきました。
「では、貴方に器を差し上げますね。」
「ありがとうございます。」
器を受け取った人は、喜びに満ちあふれていますね。
「はい、お待たせしました。それでは次に…、パーツの紹介をしますね。」
わーわー!ぎゃーぎゃー!
店の前が盛り上がっていますね。
「お静かに!!それではまず、いいところから。」
「愛情深い心。」
「夢を追う熱意。」
「真っ直ぐな気持ち。」
「欲しい方は挙手をして下さい!」
全員が手を上げました。
全員の手に糸が降りてきて、つながりました。
「熱意のある人、上位三名にお渡ししますね!」
三人、吊り上げられてパーツの前に立たされました。
「貴方たちに差し上げます。」
「「「ありがとうございます」」」
吊り上げられなかった人たちは、糸とつながったまま、立っています。
「次に、使えるところ。」
「研究熱心だが周りを見ない。」
「融通が効かないが一途。」
「現実を見ないで行動できる。」
「我慢強いが頑固者。」
「熱心だが強引。」
「好奇心旺盛だが無鉄砲。」
「欲しい方は挙手をして下さい!」
全員が手を上げました。
「熱意のある人上位六名にお渡ししますね!」
六人、吊り上げられてパーツの前に立たされました。
「貴方たちに差し上げます。」
「「「「「「ありがとうございます」」」」」」
吊り上げられなかった人たちは、糸とつながったまま立っています。
「最後に、まずいところ。」
「嫉妬深い。」
「言い訳癖。」
「わがまま。」
「乱暴もの。」
「孤独。」
「否定しかしない。」
「見下す。」
「逃げ出す。」
「見てみぬふり。」
「執着心。」
「音痴。」
「運動嫌い。」
「不器用。」
「貧乏。」
十人が手を上げました。
十人は、そのまま吊り上げられてパーツの前に立たされました。
幸い、同じものをほしがって争うことはないようですよ。
「貴方たちに差し上げます。」
「「「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」」」
店の前では、パーツを手にした人たちが互いのパーツ獲得を喜び合っています。
パーツを手に入れることができなかったものたちは、つながっている糸で吊り上げられて、すべて空のかなたに消えてしまいました。
「四つ、余ってしまいましたね。」
「嫉妬深いと、執着心と、音痴と、貧乏。」
「どうします、廃棄しますか。」
お店の人達が相談をしていると、誰かがやってきました。
「あの、それ…いただけませんか、全部。」
「おや、貴方は……。」
「先ほど愛情深いを手に入れた方ですね。」
「ええ。この四つがあれば…器がいっぱいになるので、生まれることができるんです。」
「貴方、四つもまずいものを持って生まれて…、ちゃんと生きることができますか?」
「ここに戻ってくるような事になってしまうのならば…、お渡しはできかねます。」
「いただいた愛情深いがあるので、がんばれば何とかなると思うんです。がんばりたいと、精一杯頑張ると…心に誓いました。お願いします、どうか、挑戦させていただけませんか。」
魂パーツ店のスタッフたちは、ずいぶん念入りに相談しているようですね。
「貴方の挑戦したいと思う気持ち、確かに受け取りました。」
「けれど、四つもまずいものを渡してしまうと、バランスが良くないのです。」
「そうですか・・・。」
がっかりしている人を見たお店のスタッフたちが、優しく微笑んでいますよ…。
「ですから、貴方には福をつけます。」
「残り物には福があるというでしょう?」
「どうぞ、いい人生を。」
「ありがとうございます!」
パーツがそろった人が生まれていきますね。
パーツの足りない人は、自分の持ち物をだきしめて空の彼方に消えていきましたね。
今日のパーツは、すべて使い切ることができましたね。
「いやあ良かった、全部はけた。」
「廃棄すると天使がうるさいからね。」
「悪魔が拾いに来ることもあるしな。」
「じゃあ、次の魂を探しに行こうか。」
「さっき闇がゆれてたからね…、たぶんいるよ。」
スタッフたちは、いそいそと色濃い闇を目指して出掛けて行きました。
……相変わらず仕事が早いですねえ。
またイイ感じに仕入れができる予感がしますよ。
深い深い闇に堕ちた人間の魂というのは、ただただ闇に…どっぷりと嵌ってしまうのでねえ。
いつの間にやら闇にとらわれて、自分自身を黒く塗りつぶし、魂そのものを塗りつぶしてしまうんですよね。闇をはがした魂はとても脆弱で、魂として活動することができなくなってしまうという。
このお店では、魂を解体して…、使える部分を取り出して、再利用しているんです。
リサイクルの波は、こんなところまでやってきているんですよね。
おやおや…?
そこの、…アナタ。
魂に、すこおし…、隙間が見えるようですが。
もしかして、ここから旅立っていった方ですかね?
大丈夫、大丈夫。
普通に生きてる分にはね、普通の魂にしか見えませんから。
普通に人生、生きてて良いんですよ。
見えるのは、私ぐらいなものですのでね。
私、人に紛れて、人を監視しておりましてねえ。
闇に堕ちる人を、落っこちちゃった人をすばやく見つけて、魂パーツ屋にその情報を流して生計を立てておるのです。
フットワークが軽くないとなかなかできない仕事なんですけれど…、なかなかにやりがいがあると自負しておりましてね。
さあて、と。
今日もボチボチ…、働きに行って来ましょうか…。
軽い気持ちでまずいところをもらってしまって…早速闇落ちした魂を見つけてしまいましたよ。
早く助け出してあげないとねえ。
鮮度が落ちちゃうし、余計な澱みが染み込みかねませんから。
ということで、アナタ…、闇落ち、しないでくださいよ?
いえね、危なっかしいから、一応念のためにご忠告と言いますか。
正直ね、闇をはがすところってけっこうグロくってね~。
少しでもこう、見たくないって言うか。
まあ、マニアの人はいますけど、私はいたってごく普通の感覚の持ち主でして。
パーツ待ちの人はたくさんいるから、たぶんこの商売はなくならないのがねえ…。
ま、愚痴ってもどうにもなんないんですけど。
なんていうか、色々ねじれてますよね。
なんていうか、色々つながってますよね。
生まれたいのに生まれることができないとか。
生まれたのに人生投げ出しちゃうとか。
人生楽しむために生まれたのに疲れちゃうとか。
人生楽しめずに闇に落ちるとか。
闇に落ちて、生まれたい人に魂分け与えることになるとか。
人はしみじみ…色々と大変ですね。
人ですらない私が言うのも何なんですけどね。
人だった頃が一応あったはずなんですけどね。
あんまり良い印象がないのは…、たぶん私も、ここから生まれて行ったからなんじゃないのかなって思うんです。
………まぁね。
真実は闇のなか、なんですけどね。