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買い取り屋

 やあ……、いらっしゃいませ。


 久しぶりの来店ですね。

 お元気でしたか?

 あれから随分経ちますが、いかがお過ごしですか。


 お売りいただいたものは…、完売いたしましたよ。

 あれは…、至極よろしいものでした。

 あのようなお品はもう出ないだろうと、懸念しておりましてね。

 ええ、ぶっちゃけずっと…お待ちしておりました、再びのご来店を。


 また…、ご不要なものをお売りいただけないでしょうかね?


 前回はたしか、「本気になれるやりがい」でお支払いしましたよね。

 そちらはもう、お使いになられましたか?

 …ああ、そうなんですね、それは重畳。

 なるほど…、その影響で愛を持て余し、こちらにこられたというわけですか。


 そうですね、確かに…愛が無くなる事でお客様は前を向ける事でしょう。

 いつまでも後ろ向きにくよくよしがちなお客様には、愛が負担となりますからね。

 返ってこない独りよがりな愛を持て余すくらいなら、売ってしまうのが一番ですよ。

 お相手の方に嫌われてしまう前に、こちらでその愛…買い取らせて頂きますのでね。


 今回もきちんと相応のお支払いをさせていただきますので、ご安心ください。

 過不足なく、お互いが満足できるようなご提案をさせていただきますのでね。


 ああ…!またお売りいただけるのですか?

 それはそれは……、ありがたいことです。


 それでは、確かにお受け取りいたします。

 あなたの、「愛する心」。


 対価として……、「叶う夢」をお支払いさせていただきたいのですが、よろしいですか?


 お売りいただけて、大変うれしく思います……!


 これほどずっしりと重い愛には、なかなか出会うことがございませんのでね。

 ……ありがとうございます。


 またいつでも、不要になったものがございましたらお越しください。


 今後とも、どうぞごひいきに……。




 とても……良いお取引ができました。


 これで…、寂しく過ごす孤独な存在に、愛をお届けできそうです。

 重い重い、重すぎる愛を、薄く薄くして…たくさんたくさんお届けしたいと思います。

 愛を失って久しいものたちに、心温まる感情を取り戻してもらえるかもしれませんのでね。


 投げ捨てられて腐っていた「叶う夢」も、行き場を得て輝いており、何よりでした。

 やはり叶えてくれる人のもとでこそ、夢は美しく力強く輝くものなのですね……。


 お取引がうまくいくと、本当に…充足感があります。

 思いがけず良い仕入れができると、本当に…ワクワク感が止まりません。


 このところ怒りや諦め、悲しみや憎しみの入荷が続いていたので、些か辟易していた部分もありましたが…、この高揚感があれば、まだまだ商売を続けることができそうです。


 ……久しぶりに、営業に行ってみるのもいいかもしれませんね。

 どこに縁があるかは…わかりませんし。


「黒歴史」「お節介」「余計な一言」「食い物の恨み」「旦那に飲まされた煮え湯」あたりは…多分うまく使えるはずなんですよね。

 できれば、「真摯な態度」「諦めない心」「一途」「自虐癖」「自由な発想」なんかが欲しいんですけど…あんまり欲張りすぎても、いけませんからねえ。


 ……そうだ、スーツ、新しいのでも作ってみようかな?

 うさん臭さを一新すれば、より良いお取引が成立するやもしれません。


 ホコリをかぶっていた商品をはたきで叩いて、スーツケースに…ぎゅっ、ぎゅと詰め込んで。


 私は…賑やかな世界へと、向かう事にいたしました……。


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