第20話 俺の膝枕にそんな効果は無い
日が昇った馬車道を、俺達を乗せた荷馬車が走る。ゆったりと、それでも歩くよりも確実に速く進む荷車。そのゆっくりと流れる時間は、時折揺れる荷台の振動さえも心地良く感じさせる。
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キャリアホース Lv 15
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荷車を引くのは馬型のモンスター。やはりこの世界の動物は、モンスター扱いになると言う事なんだろう。
荷物を載せる荷台部分は、幌に覆われているしっかりとした作りで中も広く、たくさんの荷を載せながらも俺達が座るスペースがゆったり確保出来る快適さだった。
「荷馬車にタダで乗せてもらえるなんて、冒険者の需要ってすごいな」
俺達は今先頭で荷馬車を御している商人と事前に交渉して、道中の護衛を条件にタダで乗せてもらっている。スズネは護衛に定評があるらしく、商人は二つ返事で了承してくれたのだ。
「こんな良いのに乗れるのはラッキーだったけど、そこそこ実績のある冒険者ならオッケーをもらいやすいニャ」
「俺もルイーナも護衛なんてした事ないけど、大丈夫かな?」
「2人の強さなら問題ないニャ。それにあたしのスキル【範囲警戒】で、見張ってるから安心して良いニャ」
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□パッシブスキル
・【範囲警戒】:スキル保持者及びパーティーへの罠、敵対意思を感知する。
※追加効果:保持者が集中する事により感知する範囲が拡大。
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「それでもそのためにずっと集中してたら、スズネさんが疲れちゃいますよ」
「確かにそのスキルに頼るにしても、1日中って訳にはいかないよな」
ルイーナの指摘はもっともだ。いくらそう言うのが得意なスズネとは言え、馬車での移動は1日ほど。この間ずっと見張ってもらうのは大変なはずだ。
「大丈夫!【範囲警戒】はパッシブスキルだし、疲れるのは集中してる時だけニャ。それに疲れて休む時は、2人のどっちかに見張りを変わってもらうニャ」
「それなら任せてくれ」
「いつでも言ってくださいね!」
俺もルイーナも当然やる気だ。やはりパーティーとして、協力体制は大事だもんな。
「ついでに休んでる間はソルトに膝枕してもらえば速攻回復ニャ!」
「いやいや、俺の膝にそんな効果無いって。まああったら──」
「あるニャ!!」
「あります!!」
重なる言葉。俺に詰め寄る2人。
俺の膝枕について発言したスズネだけで無く、ルイーナまでもが膝枕回復理論を肯定した。
「うおっ急にどうした!?てか2人とも近いって!」
2人同時に距離を詰めて来るものだから、俺はかなり焦った。俺の身が持たなくなりそうなので少し離れてもらいたいが、彼女らの勢いは止まらない。
「ソルトのベッドに潜り込んで眠った時、起きたらいつもの100億倍寝覚めが良かったニャ!あれで確信したニャ!」
「いや、100億倍は盛り過ぎだろう……」
100億倍なんて非現実的な数字、スズネが話を盛っているだけだろう。
「スキンヘッダーはスキル100億倍です。だから何もおかしくはありません。ソルトさんの膝枕は私達を回復するだけでなく、そのうち万病に効くようになるはずです」
「スキルに無いし万病に効くならもう超常現象だよ」
女神の暴論来たわ。うん、100億倍すっげー身近にあったわ。と言うか、俺の頭を剃ってくれた時の静かなルイーナさんはどこに行っちゃったのかな?
「流石ルイーナ!良く分かってるニャ」
「ええ、もちろんですとも。スズネさんこそ分かって来たみたいですね」
「何がどう流石なんだ?」
意気投合している様子の彼女らだが、何かがおかしい。スズネはいつからこんなにルイーナ側になってしまったんだろう?
「あー、あーもう疲れちゃったニャー。あたし休みたいニャー」
棒読み気味に疲れたアピールをして来るスズネ。このまま俺に膝枕させようって言うんだな?そんな恥ずかしい事させるか!
「それなら俺が見張り変わるよ。あっちで見張って来る!」
スズネに声を掛けた俺は、そそくさと荷台の後ろの外が見える位置まで移動して腰を掛ける。これで近かった距離からも解放されたし、膝枕も回避だ!
──しかしその目論見をあざ笑うかのように、俺の後ろで影が揺らめく。
「ありがとニャ~。それじゃ、よいしょっ」
「っ!?」
影の主は掛け声を発すると、瞬時に俺の膝に収まる。あまりに一瞬の出来事で、俺は何も出来ずに膝枕を許してしまった。
「ウニャ~♪」
スズネは満足そうな笑顔でくつろぎ始める。このくらいで済むならまだ耐えられるが、事態はこれだけは終わらなかった。
「ふへへ……」
今度は女神が、俺の頭に影を落としのだ。
「ルイーナ?どうしてそんなに指を動かしてるんだ?」
「ど、どうせならですね。ふへ。見張りをするソルトさんが疲れないように、肩を揉ませてもらおうかと思いまして」
じゅるりっ。と、よだれを垂らしながら、指をわきわきさせて世迷い事を言い始めるルイーナ。やめてくれ!今の状況でそんな事されたら女性慣れしてない俺は……俺は!
「では、失礼します♪」
「──!!!」
俺は心の中で悲鳴を上げながら、為すがままに肩もみをされたのだった。
◇◇◇◇◇
しばらくして肩もみに満足したルイーナが俺の近くに座った後も、スズネは膝枕で休憩していた。
「今更なんだけどさ。俺ってスキルで敵のモンスターの攻撃を引き寄せちゃうだろ?見張りをするには向いてないんじゃないか?」
「それは大丈夫なはずです。ダンジョンの外にいる子達は、外のマナが安定しているおかげで暴れる子の方が少ないんです」
「それってやっぱり敵として扱われないって事か?」
「そう言うイメージで良いニャ。肉食のグレイウルフとか他のモンスターを襲うのはいるし、こっちから攻撃したら怒って反撃してくるけど、人に対して敵対してくるモンスターはダンジョンの中よりは全然いないニャ」
そう言う事なのか。そうなるとダンジョンやサフサの西の森みたいに、マナが淀んでいる場所の影響でモンスター達は凶暴になっていると言う解釈で良さそうだな。
「それならどうして護衛が必要なんだ?今の説明だとそこまで必要じゃなさそうだけど」
モンスター達が大人しいのなら、荷馬車は襲われないんじゃないだろうか?と言う俺の疑問に、スズネが膝枕から起き上がって応える。
「それはモンスターじゃなくて人が原因なんだニャ……うん。やっぱりいる。」
スズネは何かに気づいたようで、さっきまでとろけていた姿が無かったかのように引き締まった表情をしている。
「たまに出るんだニャ。この国中に迷惑を掛けてる盗賊団が」
まだ何も見えない草原の向こう側を指さして、スズネはそう言った。
お読み頂きありがとうございます!
今回は荷馬車での一幕。膝枕にそんな効果があったらきっと平和な世界になりますね。
そんな膝枕タイムも束の間、スズネが盗賊団が襲って来る気配を事前に察知したようです。
次回もどうぞよろしくお願い致します!
2024/11/3 誤字修正、単語の訂正をしました。




