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レーク城に備えあり


あくる日、シリはグユウと重臣たちを連れて、レーク城内を案内していた。


「鉄砲玉を作っていたとは知っていたが・・・」

グユウの声音には、驚きが混じっていた。


この三ヶ月間、シリは籠城に備えて準備を進めていた。

今日はその成果を披露する日だった。


まず案内したのは、武器製造の倉庫。

扉を開けると、複数の者たちが黙々と作業にあたっていた。


「こんなにたくさんの・・・」

ロイが、樽にぎっしり詰まった黒光りする鉄砲玉を見て、思わず声を上げた。


隣の部屋では、弓矢の製作が進められている。


この三ヶ月間、戦士を引退した家臣たちが再び技術を磨き、作業に励んできたのだ。


「矢尻も試作しています」

シリが棚から取り出した試作品を重臣たちに見せた。


矢の先端につける矢尻は、命中時の威力を左右する大事な部分だ。


「矢は消耗品です。もし金に糸目をつけなければ、

金属の矢尻で強力なものを大量に用意できます」

シリは淡々と説明する。


「でも、ワスト領にはそんな贅沢は許されません。

鉛も鉄も、弾丸の製造に優先的に使っています。だから矢尻には、硬い木材を使うことにしたのです」


ひと呼吸おいてから、シリは続けた。



「矢尻に金属を使えば命中率も威力も上がりますが、物資が限られた今、それは贅沢です。

代わりに、ポプラのような硬い木材を削って、貫通力を増す形にしています」


「この形状は兄が考案したものです」

シリが薄く微笑みながら、矢尻を掲げる。


「なかなか良い形状です。貫通力が増して殺傷能力が高い。

ここをもう少し尖らせれば・・・木製でも十分に致命傷を与えられるはず」

うっとりとした眼差しで、シリは矢尻の先を指でなぞる。


その妖艶な仕草に、グユウも重臣たちも言葉を失った。


「木材でも、ミンスタ領のものより良い矢を作ってみせます」

シリの瞳には揺るぎない自信の光が宿っていた。


カツイは口を開けたまま、それを見つめていた。


「チャーリー、試作の矢を試してみてください」


「承知」

夢から覚めたような目でチャーリは答えた。


「数回、オリバーが試していますが・・・でも、上手な者は何を使っても上手い。

弓矢が苦手な者にも使ってもらい、率直な感想を集めたいのです」


それはまさに、細部にまで目を配った戦の準備だった。


「敵わない・・・」

サムがため息をこぼした。


その他、食糧庫、リネン室、畑の状況を見てまわった。


食糧庫は三ヶ月前と比べて、目に見えて充実していた。


それでも、シリが満足する基準には達してないようだった。


「まだまだ。もっと備えます。三年は籠城できるようにしたいです」

首を振りながら話す。



リネン室では、包帯用の布とシーツ類の布地が棚に並んでいた。


「布は貴重ですから、布そのものの製作も考えています」


「布まで自給しようと?」

驚いた顔をしたオーエンに、シリは静かに微笑んだ。


「シリ様、これは何ですか?」

カツイが、リネン室の棚にズラッと並んでいる瓶を指差した。


「これは薬草をアルコールに漬けたものです」

シリが満足気に瓶を手に取り揺らす。


緑色の液体が大きい瓶の中で波打つ。


「薬草?」


「私の乳母は薬草の知識があります。争いが始まれば怪我人や病人が多い。

医療品だけに頼れば不足します。自然の草花の効能を生かしたものを代替え品として使います」


「この前の戦の時に持参した。緑色の軟膏だ」

グユウが説明をする。


「あぁ。あれは効いた。塗って一晩で腫れが引いた」

ロイが脇腹をさすりながら話す。


「シズル領のトナカも気に入っている。この前、渡した」

グユウが話す。


「レーク城の裏山は薬草の宝庫です。ミンスタ領には生えてない薬草がたくさんあるわ」

シリが嬉しそうに話す。


「生まれた時からここで育っていますが・・・そんなこと考えたこともないです」

カツイは、まじまじとシリを見つめながら話した。


その後、城の敷地内にある畑を案内した。


霜が降りる前に庭師や馬丁が畑を深く掘り起こしていた。

土の塊は砕かす、そのままにしていた。


その塊は、冬の寒さで土中の水分が凍ったり、溶けたりして徐々に細かく崩れていく。

寒さに弱い害虫は死に、畑の土が良くなる。


耕す時に出てきた石は、シリの指示通り集められていた。

これは投石などの武器になる。


「来年の春には、もっと畑の面積を広める予定です」

シリが説明をする。


「蕎麦とじゃがいもを植えたいと思います」


「シリ、見事だ」

グユウが褒めた。


「オレが城に残っても、こんな準備はできなかっただろう」


グユウに褒めてもらい嬉しかったようで、

シリの瞳は星のようにきらめき、頬を赤く染めた。


シリの頑張りをずっと見ていたジムは、満足気に微笑んだ。



次回ーー


砦では、キヨが地主を集めて宴を開いている。

「今に何かをするわ」――シリは放置を許さない。


だが、グユウは静かに告げた。

「今のワスト領には、争いをする体力がない」


冷たい風が吹き抜ける中、ふたりの視線は鋭く交わる――。


明日の17時20分 財政難

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