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籠城の城に、花と果実を


兵達がいなくなり、ガランとしたホールで、

シリは羊皮紙に書いた籠城計画書を出した。


羊皮紙の束を抱えたシリは、その場に集まった家臣、侍女、女中、馬丁、庭師、調理人たちに向き直った。


「籠城の準備にご協力をお願いします」


声は穏やかで、けれど芯のある響きだった。


ふと家臣達や侍女達の顔を見ると、皆が疲れているように感じた。


無理もない。


三ヶ月もの間、戦支度と緊張が続いていたのだ。


「今日は必要最低限の仕事をして休みましょうか」

シリが提案した。


一瞬、沈黙。


その提案に、戸惑いや驚きが交じった表情が広がり、やがて安堵と喜びがにじんだ。


「明日から、また頑張りましょう」


ジムの一言が場を和ませ、久しぶりにレーク城内に柔らかな空気が満ちていった。



昼過ぎ。


気持ちの良い秋風が吹く庭で、シリはジムに声をかけた。


「ジム、一緒に馬に乗ってベリー摘みをしない?」

その唐突な誘いに、ジムは一瞬目を見開き、すぐに頷いた。


「お供します」


馬を駆り、シリが案内したのは、城外れの林の縁。


そこには、黒々とした大きなブラックベリーの実が、トゲのある枝にびっしりと垂れていた。



「こんなところに生えていたのですね」

ジムが驚く。


「生で食べても美味しいし、乾燥させれば保存食にもなるわ!」

シリが嬉しそうに話す。


シリは籠を片手に実を摘み始める。ジムもそれに続いた。


「城内の皆にお土産にしましょう」


トゲに気をつけながら、二人は黙々と摘み続けた。


やがて、シリが口を開いた。


「ジム、私、グユウさんにお願いをしたの。

争いのやり方を変えてほしいって」


ジムの手が止まる。


「なんと。グユウ様は受け入れたのですか」

 


「ええ。一応・・・約束はしましたが・・・守るかどうかは・・・」


その時、鳥が一羽、シリの顔すれすれをかすめて飛び、ベリーを啄んだ。


「もう、取らないでって怒られたみたいね」


苦笑しながら、手を振って鳥を追い払う。


「シリ様と約束されたのなら・・・グユウ様は守ると思いますよ」


ジムの言葉は、静かに、しかし確信に満ちていた。


「そう・・・だと、いいけれど」


「そういうお方です。グユウ様は」


その声に、シリの心がすっと落ち着いた。


再び始まった争いのなかで、グユウは、ゼンシを討つまで眠る間も惜しんで戦うだろう。


けれど――


「グユウさん 私も頑張ります」


ブラックベリーの汁で黒ずんだ指と爪先を見つめながら、シリはつぶやいた。


不安な気持ちを押し込めてつぶやいた。

次回ーー


シリは家臣達を巻き込み、武器の製造をするようになった。


そしてその様子は、ジムの筆によって、戦地にいるグユウの元へと届けられるのだった。


だが、その手紙に綴られる「平穏な日常」が、戦場で血に濡れた現実とどう交わるのか――まだ誰にもわからなかった。

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