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1-3




 魔力で空中に足場を作り出し、それを踏み込んでステラへと迫る。


「へ?ふぇ?」


 突然目の前に現れた俺に動揺したステラは、防御の体勢を取ることができない。


 がら空きになっている腹に左足で蹴りを放ち、ステラの身体を上空へと打ち上げる。



ステラ・ランダー シールド残量

545


ソラ・タツミ   シールド残量

19247



 一撃で153削ったか。ノーガードだったとは言え、良い数値が出たんじゃないか?


 少しわくわくした気持ちで、さらに拳を叩き込む。



ステラ・ランダー シールド残量

544


ソラ・タツミ   シールド残量

19207



 一撃で1削れたか。くっそ、本気で殴ってんのに全然ダメージ入らないじゃん!


 現実を直視させられて、悲しくなってくるよ。





 二年前、俺は師匠から禁止されていた技を使って両腕にケガを負った。


 外傷はすぐに治ったが、内部には致命的な障害を残してしまった。


魔力を使うための神経が、修復不可能なほどズタズタに引き裂かれてしまったらしい。


 辛うじて全身にシールドを展開することはできるが、両腕をシールドで覆うためには魔力を通常の何十倍も消費し続けなければならない。シールドの残量が急激に減っていくのはそのせいだ。


 拳での攻撃力が低いのは、単純にただ拳で殴っているから。


 ケガをする以前は拳に魔力を集めて戦う、『魔拳士』だった。しかし、ケガのせいで拳に魔力を集めることが出来なくなり、魔拳士としての戦い方をあきらめなければならなくなった。


 師匠の言いつけを破った俺は、道場から逃げるように去り、ガキの頃から一緒だった幼馴染みとも関わりを一切立った。


 逃げてばかりの生活を送っていたけど、心の中にはいつだって、憧れた師匠の姿があった。忘れようとしても、決して俺の心からいなくなってはくれない。むしろ、その思いは強くなるばかりだった。


 師匠と同じように戦うことはできないけど、いつかきっと、師匠が戦っていた舞台に立って、世界一の競技者になりたい。


 この思いがあったからこそ、今も俺は腐らずにこうしていられる。


 そこからは、必死に新しい戦い方を模索し続けてきた。ある程度形になって来てはいるが、問題は山積み。


その最たるは、圧倒的に火力が足りないこと!





 上空に打ち上げられたまま両手をワタワタと上下させているステラを見据え、もう一度ステラに拳を叩き込む。




ステラ・ランダー シールド残量

543


ソラ・タツミ   シールド残量

19112




 ダメージが入らないのは、最初からわかりきっていたこと。


今の俺がするべきことは、俺のシールド残量が無くなる前に、ステラのシールドを削りきるだけだ。


 ステラを囲むように、魔力の足場を複数展開させる。その一つを踏みしめて、すれ違いざまにステラへと拳を叩き込む。対角線に設置した足場を踏みつけ、次の一撃を、そしてさらに次を・・・・・・


 早く、もっともっと早く。ステラの身体が地面に落下しないよう、繰り返し、繰り返し、速度を上げて、上下左右あらゆる角度から連撃を叩き込み続ける。


「うぅ、す、凄すぎます。私、全然動けない」


空中で自由の利かないステラは、ただただ攻撃を受け続けることしかできない。


 小柄な美少女をひたすら殴り続けているこの状況は、絵面的には大変よろしくないだろう。だけど、そんなのは気にしている暇は無い。




ステラ・ランダー シールド残量

154


ソラ・タツミ   シールド残量

3756




 足場を複数展開させたことにより、魔力を使いすぎた。急がなければ、ステラより先にこっちのシールドが無くなってしまう。ここが勝負のかけ時だ。


 足場を一つ残し、残りを全て解除。


 最後に残した足場を踏みつけ、ステラの遙か上空まで飛び上がる。


 魔力の残量を気にかけながら、左足に魔力を集中させる。作り出すのは風の刃。落ちる木の葉を真っ二つに斬り裂くイメージ。


「イスズ流拳闘術・脚の型・落葉!」


 鋭利な風の刃と化した左足は、ステラ目掛けて落下する。彼女も咄嗟に両腕で防御の姿勢を取ったが、その上から足を振り下ろす。


 ステラは地面に叩きつけられることは無く、シールド残量を失って退場した。




ステラ・ランダー シールド残量


ソラ・タツミ   シールド残量

39




「そこまで。勝者、ソラ・タツミ!」

「ふぅ」


 神官に勝利を告げられ、その場で腰を下ろした。


 展開されていたフィールド魔法が解除され、差し込んできた陽の光に目を細める。


 二年ぶりの闘技だったけど、全然ダメだった。勝ちはしたけど、500そこそこのシールドを削り切るのに、こちらは20000以上シールドを消費させてしまった。


シールド残量が同数だったら、果たして俺は何回負けていたことだろうか。


「うぅ、何もできずに負けましたぁ」


 ヨタヨタした足取りで、ステラがこちらへとやって来た。瞳いっぱいに涙を溜めているが、例え泣き疲れようとも、俺は折れたりしないぞ。


「そ、ソラ君、凄く早かったです!」

「あ、ああ。どうも」


 泣き出すのかと思ったが、なぜか急に笑顔になったステラに拍子抜けしてしまう。ゴシゴシと目元を拭ったステラは、そっと右手を差し出した。


 その手を反射的に握った瞬間に、俺は後悔した。ステラは、果物でも握りつぶせるのではないかという程の力で俺の手を握りしめやがった。


「ちょ、ちょっとステラさん!もうシールド解除されてる!本気でケガしちゃうから、放して!」

「今日の戦いを見て、もっとソラ君に弟子入りしたくなりました。やっぱり弟子入り、させてもらえませんか?」


 もじもじと身体をくねらせながら、さらに握る力は増していく。顔を赤らめて恥じらいながら出して良い握力の数値じゃないよ。


さっき魔力の残量は0になったはずなのに、どうしてここまでの力が出せるんだ?もしかして、このバカ力って身体強化じゃなくて・・・・・・


「いだだだだだだ!それ、卑怯!卑怯だって、神官さんもなんか言ってよ!」

「なんか」

「そんな古典的なボケはどうでもいいんで!早く助けてくださいよ!」

「そうは言われましても、闘技以外のことには不干渉が教会のモットーですので」

「いやいやいや、闘技の内容!俺が勝ったら弟子入りは無しって話だったでしょうが!」

「こちらとしては、ステラさんが勝っていれば神に誓って強制的にソラ君の弟子にしました。ですが、ソラ君が勝った場合の条件は何も伺っていませんでしたので、弟子入りを強制的にあきらめさせることはいたしません」

「なんでやねん!」

「勝った際の条件を明言しなかったあなたの落ち度ですね。むむ、向こうで闘技の気配がしますので、この辺で失礼します!」


 音も無く、神官さんは消えていった。神出鬼没を体現したような人だった。


「す、ステラさん、いやいやいや、ステラ様!お願いですから、手、放じでぐれー!」

「弟子に、してくれますか?」

「それは絶対無理―!」

「えい♡」

「ぎやあぁぁ・・・・・・」


 出会った頃はおどおどした雰囲気だったのに、なんで急に積極的になってるんだよ。こんな積極性は全然いらないんですけど!


 その後、さらに力を増して握られた手からゴキリと嫌な音がしたため、俺は泣く泣くステラの弟子入りを認めることになった。


「ところでソラ・タツミ君。マギチューブのアカウントは以前お使いだった物でよろしいですか?」


 先ほどの神官が、再び背後から姿を現した。これって絶対にさっきまで隠れて見てたよね?問題解決したから出てきたんでしょ?


「アカウントは、新しい物でお願いします」

「規定により、複数のアカウントは所持できません。以前の闘技が視聴された際、ソラ君には視聴料が入らなくなってしまいますが、よろしいですか?」

「構いません」

「かしこまりました。そのようにお手続きいたします」


 それだけ言い残して、神官は再び姿を消した。


 今までの視聴料、入らなくなっちゃうのか。生活費の当てにしてたんだけど、これからどうしようかなあ。






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