前編
起きると視界にはいつもの世界が広がっている。 考えられなかったはずの欠けている世界が私を迎える。 あれだけ大層なことを言っておいて、と自嘲気味に笑いを浮かべているとドア越しに何かが近づいてくる音が聞こえた。 目覚まし時計を見るとまだ5時回っていない、いつもより猫のミーも早く目が覚めたようだ。 眠いと感じつつも早く起きることにした。
いつもより少し早い時間に出ていつもより少し早い電車に乗る。 通っている私立の金川大附属中高等学校は7時に門が開く。 何故か同級生が誰もいない事に安堵するしている自分がいた。 一階の2-Aと示されている教室の窓側の一番端の前に座る。 いつもの遅刻ギリギリと違いゆとりある時間を楽しむのも気を紛らわせて良いと感じた。 見知った人が入ってきた。柳原有紗だ。彼女は才色兼備のいわゆる優等生だ。 柳原を見ると怪訝そうな顔をして「何か用?」と聞いてきた。
「いや、特に」と言うと授業の準備を始めているようだ。 まだ1時間以上あるのに相変わらず真面目だ。 そのようなことを考えているとクラスメイトが徐々に入ってきた。50分を回る頃に横から「おはよー、今日は早いな」と声をかけられた。 立っていたのは保育園から同じ幼馴染の風見優斗、こいつは変わり者で俺と気が合う。最近は気を遣ってくれているのかやたらと話題を振ってくる、まあなんだかんだ嬉しいのだが。SHが終わり、4限目になる頃にはいつもより早く起きたせいか居眠りしてしまっていた。そうしたら横の席に座っている柳原が消しゴムを投げて「後で返しなさいよ」と言ってきた。
柳原は何故か顔が赤くなっていた。 なんだかんだ俺のことを考えてくれているのだろう、痛かったけど。
そんな事は置いといて6限が終わると俺は帰宅部なのもあり、足早に家に帰る。
ミーは心地よさそうに寝床で日向ぼっこしている。 気持ちよさそうにしているのを見ていると彼女を思い出す。 その夜、またいつもの自分が穴の空いた白い部屋にいる夢を見ているはずだった。寂しいのに愛おしい、そんな夢を見るはずだった。 しかし、気付いた時には夜が開けていた。 夢を見ていたはずなのに思い出せない。 寂しかった、涙が頬を伝った。 その日は学校を休んでしまった。
その夜また、夢を見た。空っぽの部屋が知らない、けど温かいもので満たされる夢だ。2時過ぎ、何故か気持ち悪くなってしまって起きてしまっていた。 その時初めて自分が彼女に依存している事に、いや心のどこがでフィルターにかかっていたであろう物が押し寄せてくる。 もし彼女がまだそばにいたら、自分がそうさせてあげられることができたら、とそんな何度も考えたであろことを再び考え自己嫌悪に陥る。そうしているうちに朝を迎え、今日も休むのは流石に良くないと家を出る。風見が心配して声を掛けてきた。今朝のことを話すと親身に聞いてくれていて少し心の荷が降りた気がした。寄り添ってくれる友を少し頼りながら彼女にもう一度向き合おうと思った。
その夜、ミーを抱えてながら彼女のことを思い馳せた。
彼女の名前は井上葵 小学生の頃からの付き合いで趣味が合っており
美人である。彼女は地元の中学に行っているため、中学生になってから一度も会えていない。自分は小学5年生の頃に井上さんが好きだと言うことを自覚したものの、ちょっかいを出すタイプの接し方をしてしまっていた。もちろん察していただいていると思うが自分は井上さんに対する好意が初恋である。普通に聞いている人には8年も引きずっている自分を気持ち悪いと思うかもしれない。だが自分には井上さんが全てだったのだ。ただ、この関係が崩れるのが怖いのだ。一度彼女に好意を仄めかす事をした。彼女はそれに答えてくれようとしていた。なんで自分は意気地なしなんだよ、と神を憎んだことさえあった。
数少ない友達から彼女のLINEを聞き出し連絡することができた。