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第9話 初めての魔法

元勇者パーティは料理が苦手な人が多かったようだ。


「にしても、やることねえな。フリュール、今日はどうする?」


 大盾使いヤロは隣でもふもふと朝食を食べているエルフの魔導士フリュールに尋ねた。二人がこの町に来てから数日、やるべきことは済ませたのですでに暇になってしまっていたのだ。

 ちなみに先日、あまりに厳しい料理の修行を受けたのだが、二人の料理の腕はほんのちょっとだけ良くなった。上手とは口が裂けても言えない程ではあるのだが。

 

「だったらちょうど良い仕事があるよ。」

 

 二人に声をかけるのはおかわり用のパンを皿にのせて持ってきた宿屋のおばちゃんことエアルだった。

 

「仕事?」

「そう。と言っても主にフリュールにだけど。ハルに基本的な魔法を教える仕事さ。ハルはどうやら魔法を習ったことがないらしくてね。フリュールなら最適だろ?」

「面倒。それに魔法は冒険者協会の職員がいずれ教えるはず。」

 

 ほとんどの冒険者は最低限の魔法を使えることができる。水を出したり、火をつけたり、身体能力を強化したりだ。これらがあれば、野営のための荷物を減らすことができて一気に楽になる。

 なので冒険者協会の職員が魔法の使えない新人には教えることになっている。ハルも田舎から出てきたばかりで魔法は使えない。だというのにまだ魔法を教えてもらっていないとエアルは聞いたのだ。

 

 ハルがそういった道中で泊りが必要になるような依頼を受けるのはまだまだ先になるだろうが、こういうものを覚えておくのは早いに越したことはない。

 そう考えたエアルはハルに魔法を教える約束をした。かといってエアルも魔法が得意というわけではない。目の前に魔法の専門家がいるというのに頼らないわけがないだろう。

 

「嫌なのかい。じゃあしょうがない。今日も先生を呼んで料理の勉強をしてもらうとしようかね。」

「早くやろう。ハルはどこ?」

 

 よっぽど料理の勉強は嫌なのだろう。すぐにハルを探し始める。ちょうど良いタイミングでハルが食堂の前を通る。それを見つけたフリュールは素早く席を立って、ハルの服をつかんだ。ハルは急な出来事に驚いたような表情を見せた。

 

「えっと、おはようございます、フリュールさん。どうかしたんですか?」

「私が魔法を教える。」

「え?」

 

 急な展開に頭が追い付かないハルはすがるようにエアルを見る。エアルはその目に対して、良い笑顔でサムズアップを返すだけだった。

 

 

 

 

 そのままハルはフリュールとともに宿を出た。驚きはしたものの、最高の先生から魔法を教わることができる。そう考えると、ハルの胸は自然に高鳴った。

 

「冒険者で最低限必要な魔法、分かる?」

「えっと……。火を起こす魔法と水を出す魔法です。」

「そう。でも一番基本で一番大事なのは身体強化。」

 

 この二つの魔法を使うことができれば、旅路がはるかに楽になる。飲み水の確保も楽だし、野営時の火起こしの手間も省くことができるからだ。

 身体強化のことはハルは忘れてしまっていた。けれど、確かに大事なのはわかる。だが一番"基本"とはどういうことなのだろうか。

 

 疑問が顔に浮かんでいたのだろう。フリュールは説明を続ける。


「魔法を使うには魔力が必要。その魔力をうまく扱うには身体強化の魔法が一番基本になる。だから。」

 

 フリュールがハルの方に手を差し出した。

 

「目を閉じて手を出して。」

 

 ハルは言われた通り、フリュールの手を取って目を閉じた。しばしの沈黙が流れる。目を開けるかと逡巡していると妙な感覚を手から感じた。

 

(何かが体から流れ込んでくるような……。)

「それが魔力。」

 

 ハルの心の中を呼んでいるかのように、フリュールは口にする。その感覚に集中していると、急に流れ込んでくるものが途切れたのが分かった。そして、ほんの数秒経つとまた流れ込まれる感覚。

 

 しばらくそうやって魔力が流れてくるのを感じていると、フリュールが次の言葉を発した。

 

「次は流れ込んでくる魔力に抗うようにして。」

「どうやってやれば良いんですか?」

「流れをせき止めて押し流すイメージ。これが難関。」

「人によって魔力を扱うイメージは違うんだ。こればっかりは説明は難しいんだよ。」

 

 近くで見ていたヤロが補足説明を行う。それを聞いたハルは再び集中し始めた。不定期にさらに強弱をつけて流れ込んでくるフリュールの魔力。それを押し流そうとイメージを浮かべてみるがなかなかうまくいかない。

 

 しばらく続けていると、ようやくハルは自分自身の何か(・・)を感じることができた。きっとそれが魔力だろう、そう確信したハルはそれで壁を形作ってフリュールの魔力を押し返そうとする。

 

「想像より早い。合格。」

 

 どうやらできていたらしい。目を開けて一番最初に目に入ったのはフリュールの顔。それはほんの少し驚いたような表情をしていた。

 

「これに一日はかかると思っていた。」

「そんなに難しかったんですか、これって?」

「私はこんな面倒なやり方はしなかった。最初からできたから。」

「俺もなんか無意識にやってたからな。こんな訓練はしたことねぇ。でも、普通はこのやり方で魔法を教わるらしい。どんくらい難しいか俺たちには分からないな。」

 

 どうやら別にハルの才能があるというわけではないようだ。本当の天才は学ばなくてもすでに習得しているものらしい。

 

「そこまでできれば後は簡単だぜ。足に魔力を溜めれば足が速くなるし、火や水をイメージしながら魔力を放出すれば火や水の魔法が使える。」

「攻撃に使うほどとなればまた別。」

 

 これで最低限の魔法は仕えるようになるらしい。試しに足に魔力を溜めるイメージを持ってジャンプしてみる。確かに、心なしかいつもより高く跳んでいるような気がしなくもない。

 次は水をイメージしながら魔力を吐き出すイメージをしてみると、ちょろちょろと水が流れ出した。

 

 確かに、この程度では攻撃に使うことはできないだろう。

 

「本格的な魔法を使うには魔力が足りない。あとは練習するだけ。」

「ありがとうございます!」

 

 こうしてハルは最低限の魔法を使うことができるようになった。これで野営が必要になるような依頼も少しは楽になるだろう。ハルが冒険者として一歩成長した瞬間であった。

 

「ちなみに、エアルさんも魔法って使えるんですか?」

「エアルが使えるのは身体強化だけ。でもその練度は異常。あれに対抗できるのはウェールくらい。」

 

 どうやらエアルさんは異常なまでの身体強化を使うことができるらしい。対抗できるのが勇者のウェールさんくらいしかいないとなると、その異常さがよく理解できる。

 

 やっぱり元勇者パーティは全員抜けた強さを持っているらしい。

 

第9話いかがだったでしょうか。魔法の設定についてはかなり適当です。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は3/13(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。


お知らせ:拙作『異世界でドカンと一花咲かせましょう』が3/1に完結しました。全50話の"花火"をテーマにした異世界ハートフルストーリーです。もし良かったらそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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