第7話 迷子の迷子のエルフちゃん
宿屋のおばちゃんは意外とかわいいものが好きらしい。
投稿ミスで別作品に投稿してしまっていました。申し訳ありません。
「おじちゃん、串焼き一本くれますか?」
「あいよ、ちょっとお待ちを。」
すぐに焼きあがったようで、ハルは串焼きを受け取る。そして、目の前にある公園のベンチに座り串焼きをほおばった。口の中に肉汁があふれ出る。
ハルがその幸せをかみしめていると、先ほどの屋台のおじちゃんがハルに向かって笑顔で親指を立てていた。ハルもそれに応じて、親指を立てる。
すると、そこを一人のエルフが通りがかった。ハルたちのやり取りを見ていたのだろうか、静かに屋台へと近づく。
「串焼き。」
「あいよ、一本で良いかい?」
屋台のおじちゃんの質問に無言でこくりと頷いてエルフの少女は肯定した。ハルはエルフの少女を遠目に眺める。ハルはエルフを見るのが初めてだったので、思わず視線を向けてしまっていたのだ。
ハルの視線に気づいたエルフの少女がハルに近づいてきた。
「隣、良い?」
「え、ああ、はい。どうぞ。」
ハルは少し横にづれて、少女の分のスペースをとる。少女はそのままハルの隣に座って串焼きを食べ始めた。無表情に串焼きをほおばっていてその表情からはおいしいのかどうかも分からない。
「なに?」
「すみません、エルフの方を初めて見たので。」
「そう。」
再び無言の時が流れる。居心地が悪くなったハルは素早く串焼きの残りを食べきって。
「それじゃあ、失礼します。」
そそくさと立ち去るハルに、エルフの少女は無言でその後姿を眺めていた。
「戻ったのかい、ハル。」
「はい、ただいま戻りました。」
宿屋の受付にておばちゃんことエアルさんはハルを出迎える。最初の方はぎこちなかった「ただいま」ももうすんなり言えるようになった。
「ハル、町でエルフを見なかったかい?」
「エルフですか?見ましたよ。」
「本当かい?この町にはいるんだね。じゃあ大丈夫そうだ。」
思い出すのは先ほど串焼きを一緒に食べたエルフの少女の姿。だが、おばちゃんの質問から察するにおそらくあのエルフの人は……。
「想像通り、そのエルフはあたしの旧友フリュールだよ。」
「エアル?フリュールが来たのか?」
そこに現れたのは一人の大男。背も高くガタイも良いので、かなりの存在感を醸し出している。
いや、そんなことよりやはり気になるのはエルフで"フリュール"という名前。それはかつての勇者パーティの仲間だったはず。さすがのハルもエアルさん、ウェールさん、プリマヴェーラさんときたら気づかないはずもない。
そして、この流れから考えて、この大男もきっと。
「まだ来てないようだよ、ヤロ。この町にはいるらしいからちゃんと今日中にここに来るだろうさ。」
「そりゃ良かった。ちょっと前にフラッと姿を消しちまったんだが、あいつならそのままこの町に来るだろうなと思って正解だった。」
そんな話をしていると、宿屋の入り口が開いて先ほどのエルフの少女が入ってきた。
「エアル、久しぶり。ヤロ、急にいなくなるから心配した。」
「どっちかっていうと俺の方が心配したんだがな。」
ちなみに、元勇者のウェールさんと元聖女のプリマヴェーラさんはすでに帰ってしまっていて、この宿にはいない。なので、この宿に"勇者パーティ大集合"とまではならなかったようだ。
しかし、それだって数日前の話。もしかしたらここで集まる予定だったのかもしれない。それでフリュールさん、ヤロさんが遅れてしまって集合できなかったということだろうか。
フリュールさんはきょろきょろと周囲を見渡した。
「ウェールとプリマヴェーラは?まだ来てない?」
「逆だよ。あんたらが遅いからもう帰っちまったよ。相変わらず時間にルーズなんだから。」
「たった数日、遅刻に入らない。」
どうやら長命種のエルフであるフリュールさんにとって数日遅れは遅刻とは考えていないらしい。やはり時間の感覚が人とは違うのだろう。きっとそれでもなるべく来てもらおうとヤロさんと一緒にいたのかもしれない。
フリュールさんの視線がハルの方に向けられた。
「さっきの串焼きの。」
「ははは、その節はどうも。新人冒険者のハルです。」
「フリュール。魔法が得意。」
「俺はヤロだ。一応、エアルたちとパーティを組んでいたこともある。しかし、冒険者にしては珍しいタイプだな。どっちかっていうと騎士とかにいそうな性格をしているな。」
そういえばヤロさんは近衛兵だったとウェールさんから聞いた覚えがある。ハルの礼儀正しい態度は騎士っぽいと思ったらしい。
ハルの話もそこそこに、再び身内同士で話が始まった。
「にしてもフリュール。いい加減迷子になるのはやめてくれないか?」
「何度も言っている。私は道に迷ったことはない。ただ寄り道をしてるだけ。」
「頑固で話を聞かないところも変わってないね。ま、久しぶりに会ったけど元気そうで良かったよ。」
「前に会ったのは一年前。全然久しぶりじゃない。」
ワイワイと楽しそうに話す三人は古くからの友人であるということがよく分かり、エアルさんもウェールさんたちと一緒の時のように楽しそうにしている。
これでハルはかの伝説の勇者パーティのメンバー全員と知り合ったことになる。
後日、先輩冒険者に聞いてみたところ、この宿ではしばしば元勇者パーティの面々が立ち寄っているとのこと。今回のように短い期間で一気に集まるのはさすがに珍しいとその先輩冒険者は言っていた。
先日の腕相撲大会でウェールさんがいることに疑問を誰も持っていなかったのはそういう理由からだ。そして、宿屋の受付が"戦乙女"のエアルさんなので、下心をもって元勇者パーティに近づこうものなら秘密裏に処理される、という噂もあるようだ。
勇者パーティも割と気軽に利用している、新人冒険者でも宿泊できるような宿。
実際に宿泊してみなかったら絶対に信じないであろうそんな宿がこの町には存在するのだ。そして、この宿に宿泊する物の中には只者でない存在も多数いるのだということを、ハルは少しずつ思い知っていくことになる。
第7話いかがだったでしょうか。迷子になっている人ってよく「自分は迷子じゃない」って言いますよね。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。
次回更新は2/27(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。