第4話 勇者パーティの過去
ハルは元勇者ウェールから過去の話を聞くことになった。
「知っての通り、最近は魔物の活動が活発になってきておる。それは魔王の影響が大きいと推測される。だから、お主らに"勇者パーティ"として魔王の討伐を命ずる!」
王の御前、四人の男女がひざまずいて王の言葉を聞いている。人類最強の剣士ウェール、教会最高の癒し手プリマヴェーラ、エルフの魔導士フリュール、王を守る近衛兵最強の盾使いヤロ。
四人が受けることになった王命、それは魔王の討伐。魔王とは魔族と魔物たちを束ねる王とされている。伝承では、その実力は一国を一晩で滅ぼすことができるほどと言われており、その討伐は非常に危険なものである。だから、人類最高の戦力を王は呼び出したのだ。
「"勇者"の任、拝命いたしました。」
「精一杯私も勇者様を支えさせていただきます。」
ウェールとプリマヴェーラは快諾した。もとより、人類に危機が迫っている状況で断るような性格の二人ではなかった。
「分かった。」
「任せてください、国王様。この命に代えて、ウェールを守って見せましょう!」
フリュールは言葉少なに、もとより近衛兵を務めていたヤロは元気よく王の言葉に応えた。
「そういえば、エアルさんは後から仲間になったんですよね?」
「そうだね、エアルとの出会いは僕たちにとっても強烈だったよ。」
宿屋の食堂。そこには酒を飲んで上機嫌な元勇者ウェールさんとハルが話をしていた。食堂の別のテーブルでは宿屋のおばちゃんであるエアルさんと、元聖女のプリマヴェーラさんがどちらがより多く酒を飲めるかで競っている。二人はウェールさんの話を聞いていないようだった。
「あれはとある町でドラゴンの群れが確認されて、僕たちに討伐依頼が出されたところだったんだ。」
「もしドラゴンの群れが町を襲ったら大変なことになってしまう。急いで僕たちも向かおう。」
ウェールたちは依頼を受けて、即座に動いた。ドラゴンの群れへと向かう。彼らがそこで見たのは、ドラゴンの血まみれの死体が大量に転がった死屍累々な光景だった。積み重なったドラゴンの死体の前で一人の女性が立っている。身の丈ほどの大きな斧を担ぎ、頬についた返り血を腕でぬぐっている。
ウェールは恐る恐る近づいて、その女性に声をかけた。
「君は一体……?これは君がやったのか?」
「あん?あたしが通りがかったらこいつらが絡んできやがってよ。生意気にもあたしを食おうとしてきたから、返り討ちにしてやったんだ。」
「返り討ちって……。」
その女性はドラゴンの死体の方を指さし、ウェールもつられてそちらの方に視線をやった。
果たして自分はあれだけのドラゴンの群れを単身で倒すことができるだろうか、ウェールはそんなことを漠然と考える。
しかも、彼女は目立った怪我をしているようにも見えない。それだけでも、彼女は圧倒的な力を持っていることが手に取るようにわかる。
「貴様、もしかして戦乙女か?」
「ヤロ、彼女が誰か知っているのかい?」
「馬鹿みたいにでかい斧を軽々と振るい、どんな強敵にもひるまず突っ込んでいく頭のおかしい女と聞いたことがある。ただ、その実力はS級に匹敵するとか。」
「本人を前にしてその言い草は何なんだい?」
どうやら、ヤロの言う戦乙女で間違いないらしい。
「あたしも分かったよ。あんたら勇者パーティだろ?こいつらの討伐に来てたのか?悪いな、あたしが横取りしちまった。」
「いや、それは別に良いんだ。町に被害が出なくて良かった。」
「……ふーん。なるほど、そういう感じなんだ。」
ウェールは一刻も早く町へ報告に行こうと踵を返す。しかし、その戦乙女が待ったをかけた。
「待ちな。勇者ってことは強いんだろ?あたしは強い奴と戦いたいんだ。帰る前に一戦交えさせてもらおうか。」
「いや、そんな時間はッ!」
殺気を感じたウェールはとっさに腰の剣を抜いて、迫りくる巨大な斧を受け止めた。そこには、にやりと邪悪な笑みを浮かべた戦乙女の姿があった。
「ちょ、ちょっと待ってください。それ本当にあのエアルさんなんですか?今の姿と全然違うんですけど。」
「あの頃のあいつは擦れていたからな。それから僕は一晩戦い続けてようやくあいつは満足してくれたんだよ。その後もいろいろあって、僕たちの旅に同行してくれることになったんだ。」
「一体何があったんですか!?」
どう考えても仲間になる流れではなかっただろうに。あれだろうか?河原で殴り合っていると友情が芽生えるとかそういう感じの奴だろうか?
「あのころのエアルちゃんは~ウェールくんのことが好きだったんれふよ~。」
会話に割って入ってきたのはべろんべろんに酔ったプリマヴェーラさんだった。先ほどまで飲んでいたはずの場所を見ると、大量の酒瓶が並んだテーブルに突っ伏して寝ているエアルさんの姿が見えた。
呂律も回っていない人間の言うことを信じるべきではないのかもしれないが、衝撃の事実である。そこはかとなくウェールさんも気まずそうにしている。まさか、真実なのだろうか。
「れも~、ウェールくんはわたしのもの~。」
そういってウェールさんに抱き着くと、そのまますうすうと静かな寝息を立て始めた。するとウェールさんはどこから取り出したのか、タオルケットのようなものをプリマヴェールさんに掛けた。
「それからは本格的に魔王討伐に出たんだ。本当に魔王は強かった。僕たち全員の力を結集しても倒すことができなかったんだから。」
「え?魔王って討伐されたんじゃなかったんですか?」
確か、子供のころの絵本では魔王は討伐されてハッピーエンドだったはず。ウェールさんはしまったというような顔をして、人差し指を口に当てた。
「これは内緒にしておいてほしいんだけど、実は魔王はまだ生きてるんだ。いろいろ勘違いがあって、魔王は魔族の悪事に関与していなかったらしくてね。戦いはしたんだけど、まだぴんぴんしてるよ。」
これまた衝撃の事実。当人から聞かなかったら、きっと一生知らないままだっただろう。というか、勇者パーティの力を集結させて倒すことができなかったなんて、魔王はどれほど規格外の力を有していたのだろう。
僕のコップが空になっているのを見たウェールさんが酒を手に取った。
「まだ夜は長いんだ。飲みながらゆっくりと話してあげるよ。」
「ありがとうございます!」
僕の記憶が残っているのはこの辺りまでだった。
第4話いかがだったでしょうか。衝撃の事実盛りだくさんの勇者の過去でした。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。
次回更新は2/6(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。