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第3話 勇者と聖女、登場

宿屋のおばちゃんは元勇者パーティのメンバー"戦乙女"のエアルだったらしい。宿屋を訪れる新たな一組の夫婦。彼らの正体は……?


 ハルは薬草採取の依頼を終了し、宿屋に帰る前に新しい武器を買いに行っていた。というのも、冒険者の先輩に「その短剣だけだといざという時自分の身を守れないぞ。」と言われたからだ。

 

(でも、剣の良し悪しなんて見ても分からないんだよね。)

 

 一つ剣をとって見てみる。質素な見た目をしていて、値段も予算の範囲内。これならありかな、と思っていたらお店の人が声をかけてきた。

 

「お客さん、お目が高い。その剣は値段の割には切れ味も良いんですよ。」

「そうなんですか?」

「ええ!ですが、もう少し予算が余ってるのならもっとおすすめがあります。あっちの剣なんですが。」

 

 そういってお店の人は一本の剣を指さした。先ほどの剣より凝った装飾がされている。値段を見てみると確かにさっき見ていた剣より高い。ほんのちょっとだけ予算オーバーで少し無理をすれば出せなくもない値段だ。壁に掛けられている目が飛び出そうな値段の剣に比べればはるかに安い。

 

 実際に手に持って感触を確かめてみる。少し重たいけれど、これくらいなら使っていれば慣れるかもしれない。

 

 せっかく初めて買う剣だし、奮発するのも良いかもしれない。


「じゃあ、これを……。」

「ちょっと待った。」

 

 突然現れた男がハルの持っていた剣をひょいと取り上げた。そして、まじまじとその剣を見る。店の人の顔がだんだんとひきつってきた。

 

「その剣より先ほどの剣の方が良いね。こっちは不要な装飾がついているから重いし、強度も落ちてしまっている。切れ味もさして変わらない。さて、無垢な若者を騙そうとしたんだ。少しの値段交渉くらい、応じてくれるよな?」

「か、かしこまりました……。」

 

 結局、最初の値段よりかなり値引きしてもらうことができて、むしろ予算が余ることになった。ヒカルは助けてくれた男の人と一緒に店の外に出る。

 

「助けていただき、ありがとうございました。」

「気にしなくて良い。本当は見てるだけにしようかと思ったんだが、さすがに良心が痛んでね。あの商人はとても見る目があるよ。」

 

 急に先ほどの店の人をほめ始めたので、ハルはきょとんとした。

 

「だってそうだろう?君の予算を正確に見抜き、ぎりぎり払えるような額の剣を売りつけようとしていたからね。もしあれが手の届かないような額の剣だったら、君は買おうとすら思わなかったはずだ。」

「た、確かに、そうですね。」

「これも勉強だよ。君はまだまだ若い冒険者のようだし。……そうだ、忘れてた!ねえ、君。ある宿屋(・・・・)を探してるんだけど、知らないかな?」

 

 話を聞くに、ハルが泊っている宿屋を探しているようだ。だったら、お礼にと案内をすることにした。

 

「そうだそうだ。ありがとう、ハル君。以前に来たこともあったんだけど、久しぶりで場所を忘れてしまってたんだよね。連れともはぐれてしまっていたから、迷ってどうしようと思っていたんだ。」

 

 道中で自己紹介を済ませていた。彼の名前はウェールと言うらしい。ウェールと言えば、絵本に出てくる勇者パーティのリーダーと同じ名前だ。宿屋のおばちゃんのエアルさんといい、最近はそういう名前の人に縁があるようだ。

 

 宿屋のおばちゃんはまさかの本物だったが、まさかウェールさんが本物の勇者(・・・・・)なわけがない。そんなにポンポンと伝説の勇者パーティに出くわすはずがないのだ。

 

 宿屋の扉を開ける。食堂の方に向かうと宿屋のおばちゃんともう一人女性がお茶をしているようだった。


「遅かったじゃないか。また道に迷っていたのかい?」

「ははは、僕の方向音痴ぶりは知っているくせに。」

「それなのにどうして私から離れたのかしら……?」

 

 三人はまるで知己のように笑いあう。一人取り残されたハルは唖然とする。だって、宿屋のおばちゃんは"伝説の勇者パーティ"のメンバーのエアルさん。そして、その知己である"ウェール"という名前。それの指すところは、つまり。

 

「実は彼に案内してもらったんだ。まだ冒険者になりたてのハルって言うんだって。」

「あら、そうなの。この人がごめんなさいね。私はプリマヴェーラ。この人の妻よ。」


 ウェールさんは結婚していたらしい。いや、それよりはるかに重要な情報がある。

 

 プリマヴェーラ。かつての勇者パーティの聖女(・・)の名前。

 

「も、もしかして。あの、勇者パーティの……?」

「おや、気づいてなかったのかい?自分で言うのは恥ずかしいんだけど、昔"勇者パーティ"のリーダーを僕はしていたんだ。」

 

 ウェールさんの言葉に俺はふらりと立ち眩みをするような感覚を覚えた。

 

 

 

 

「改めて。元勇者パーティのリーダーをしていたウェールだ。よろしく。」

「私はプリマヴェーラ。同じく元勇者パーティで聖女をしていたわ。」

「ゆ、勇者様に聖女様。」

「僕たちはもう引退しているから、"元"でしかないよ。大分年も取って顔も変わったからか、声をかけられることも減ったな。」

「そう?私は町を歩いてるといつも『聖女様!』て声をかけられるわよ。」

 

 確かにウェールさんは絵本に書いてある容姿より、顔に少ししわがあり、いくらか白髪も見える。けれど、プリマヴェーラさんは二十代と言っても信じてしまいそうになるくらいの姿をしている。とても数十年前に活躍した人間だとは思えない。

 

「いいじゃないか。あたしなんか言っても信じてもらえないんだよ、なあハル君?」

「その節はすみませんでした……。」

 

 ハルと宿屋のおばちゃんのやり取りにウェールさんとプリマヴェーラさんは笑顔を見せた。

 

「確かに、容姿からは昔の面影は感じられないな。」

「いつの話をしてるのさ。大体数十年前からそんなに変わってないプリマヴェーラがおかしいんだよ。エルフじゃあるまいし。」

「ふふふ、誉め言葉と受け取っておくわ。」

 

 伝説の勇者パーティのメンバーは5人。勇者ウェール、聖女プリマヴェーラ、戦乙女エアル、エルフの魔導士フリュールに大盾使いヤロ。いわば生ける伝説のうち三人がこの宿屋にいるという異常事態にハルは混乱していた。

 

「それで勇者様と聖女様がどうしてここに?」

「う、さっきみたいにもっとフランクにいてほしいな。どうしてって……かつての友に会いに来ただけだよ。」

「別に重大な使命とかがあって来たわけじゃないから安心して。」

 

 すでに引退しているとはいえ、宿屋のおばちゃんでさえあの強さなのだ。きっとウェールさんもプリマヴェーラさんもいまだにとんでもない強さを有しているはず。

 それゆえに何かあるのではないかと疑ったのだが、どうやらそれは杞憂であったようだ。

 

「今晩は酒でも飲みながら昔のことを思い出そうじゃないか。そうだ、ハル君も一緒にどうだい?」

「え?」

「僕たちの昔話に付き合わせるわけだから、無理にとは言わないけど。」

 

 ハルは慌てて顔を縦に振った。だって、勇者パーティの話を生で聞くことができるなんて、子供のころから憧れていたハルにとってはご褒美以外の何物でもないのだから。

 

第3話いかがだったでしょうか。前話では人間は年には勝てないと言いましたが、なんでかいつまでも若々しい人っていますよね。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は1/30(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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