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第16話 "不死身"のエーセン

プリマヴェーラとヤロが婚約した。


 冒険者協会受付前、なぜかいつもより賑やかなそこにハルは依頼達成の報告のために向かう。人垣をかき分けて、何とか受付嬢の前までたどり着いた。

 

「これ、討伐証明です。」

「あら、ハル君。お帰りなさい。すぐに確認するわね。」

 

 受付嬢のリエータは素早く袋の中身を確認する。今日ハルが受注していたのは、ゴブリンの討伐依頼だ。すでに何度か受けている依頼であるため、ハルにとっても慣れたものである。

 

「……うん、確認しました。こちらが報酬になります。」

 

 差し出されたお金をハルは数えて間違いがないことを確認し、報酬を受け取った。

 

「ありがとうございます。それにしても、今日は何だか騒がしいですね。」

「そうなの。実は街道沿いにワイバーンが出たらしいの。」


 雑談に入り、仕事モードを説いたリエータは敬語をなくしてハルに答える。そして、その内容を聞いたハルは慌ててしどろもどろになってしまった。

 ワイバーンはドラゴンほどではないが、非常に危険な魔物だ。そんな魔物が街道沿いに現れるなんて緊急事態だ。すぐに討伐しなくてはならない。

 

 だというのに、冒険者協会はいつもより賑やかではあるが、決して慌てている様子は感じられない。

 

「それって大丈夫なんですか?すでに討伐隊が送られたとか?」

「ううん、たまたまその場にいた冒険者が討伐したの。被害がなくって本当に良かったわ。」

 

 その言葉にハルは再び驚いた顔をする。先述した通り、ワイバーンは危険な魔物だ。相応の実力がなくては手も足も出ない。

 ハルが知る限り、ワイバーンを討伐できるような冒険者は多くない。それこそ、元勇者パーティの彼らなら問題なく単独でも討伐できるだろうが、それ以外となるとハルは知らない。

 

 リエータはくいくいっと指を曲げてハルに顔を近づけるようにとジェスチャーする。ハルが顔を近づけると、リエータはそっとハルに耳打ちした。

 

「実はね、ワイバーンを討伐したのはあの"不死身"なの。」

「"不死身"ですか?」

 

 聞きなれぬ言葉にハルは首を傾げた。しかし、それが誰かの二つ名(・・・)であることだけは理解できた。

 

 二つ名(・・・)。それは何か偉業をなしていたり、多くの人に実力を認められた高ランク冒険者の証。

 

 むしろハルが"不死身"に対してピンと来ていないことに対して、リエータは驚いたような顔をする。

 

「ハル君知らないの?新進気鋭のAランク冒険者。今若手の冒険者では一番注目されてるのよ。」

「へー。そうだったんですね。」

「それに、彼が注目されてるのにはもう一つ理由があるわ。」

 

 もったいぶるように、リエータは溜める。ハルはごくりと唾をのむ。

 

「"不死身"のエーセン。彼はかの勇者ウェールの息子なのよ。」

「ウェールさんの!?」

 

 さすがにハルも驚きで大きな声を出してしまった。しかし、周囲もざわざわと賑わっていたので、特にハルの大声を気にする人物はいなかった。

 

 それよりも内容だ。元勇者ウェールの息子ということは、元聖女プリマヴェーラの息子でもある。二人が結婚しているのは知っていたが、子供がいるとは。しかも、その子供がすでに冒険者になるくらいに成長しているとは。

 

 その後は雑談もそこそこにハルは宿屋に帰っていった。

 

 

 

 

 宿屋の前にて一人の男が倒れている。土にまみれたその男の傍では宿屋のおばちゃんが汗を垂らしながら仁王立ちしていた。

 

 その光景を見たハルは回れ右して宿屋から離れようとする。

 

 しかし、おばちゃんはそれを許さなかった。

 

「お帰り、ハル。けど、どうしてどっか行こうとするんだい?」

「いや、何となく。」

「理解できないことが起こっていたら、まずは何が起こってるのか冷静に分析してみるのが生きるコツさ。」

「何が起こっているか分析する……。」

 

 ハルは目の前の状況をもう一度整理しようとする。宿屋の前で大の字になってピクリとも動かず倒れている男。そして、珍しく汗をかいているおばちゃん。

 

 それでも理解できなかったハルは、分析することを放棄した。

 

「じゃあ僕は部屋に戻ります。」

「諦めるんじゃないよ!」

 

 おばちゃんは一回ため息を吐いて説明を始めた。

 

「多分もう話は聞いているだろう?こいつはエーセンだよ。」

「それってウェールさんの息子の……。確か"不死身"でしたっけ?」

「その名で僕を呼ぶんじゃない!」

 

 倒れていた男が急に起き上がって叫んだ。その声にびっくりしてハルの肩が跳ねる。

 

「ふん。誰が"不死身"だ。」

「何度もあたしに挑んでくる姿は"不死身"そのものだよ。」

「おばさんまでそんなことを言うんですか……。」

「おばさんは止めな。」

 

 おばちゃんのげんこつが振るわれる、と思ったのだが、エーセンはそのげんこつをギリギリのところでかわした。今までおばちゃんの拳が避けられるのを見たことがなかったので、ハルは再び驚いた表情をする。

 

「くそ、前より強くなったというのに、まだあなたに勝てないのか。また鍛えなおしだ。」

「あたしはあんたがこんなに(・・・・)小さかった時から面倒見てたんだ。そう簡単に負けてやるわけにはいかないね。」

 

 おばちゃんは親指と人差し指を少しだけ空けて小ささを表現する。もちろん誇張表現であるが、そういった冗談を言うくらいには二人は仲が良いらしい。

 確かに戦友であるウェールの息子ということであればおばちゃんとエーセンにも交流があってもおかしくない。

 

 話を聞いてみると、エーセンは勇者ウェール譲りの剣術と聖女プリマヴェーラ譲りの聖魔法を駆使して戦うそうだ。つまるところ、ダメージを受けても自らの魔法で回復し、立ち上がって戦い続ける。

 

 その戦う様子からつけられた二つ名が"不死身"。本人にとっては不満なようだが、ぴったしの二つ名だとハルは感じた。

 

「あたしに勝てないようじゃまだまだS級には程遠いだろうね。」

「くそ。次は絶対に勝ってやる。」

「はいはい。じゃ、あたしは飯の準備があるから。」

 

 そう言っておばちゃんは宿屋に帰って行ってしまった。残されたハルとエーセンの間に気まずい空気が流れる。

 

「それで君は?」

「あ、僕の名前はハルって言います。最近冒険者になりました。」

「そうか。僕はエーセン。しばらくこの宿屋に泊まるから、見かけたら声をかけてくれても構わない。」

 

 どうやらエーセンもしばらく宿屋に泊まるらしい。また一つ、宿屋が騒がしくなったとハルは思ったのだった。


第16話いかがだったでしょうか。4月になってめちゃくちゃ忙しくなってしまい、更新が遅くなってしまい申し訳ありません。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は4/17(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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