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第13話 ドラゴンの季節

受付嬢リエータが宿屋の視察にやってきた。


 冒険者協会の掲示板の前、多くの冒険者が集まってがやがやと話しているのが見えた。ハルは気になって近づくが、屈強な冒険者たちの壁を前に掲示板に何が書かれているのか見ることはできなかった。

 近くに知り合いの先輩冒険者が見えたので、ハルはそちらから情報を集めることにする。

 

「おう、ハルか。どうした?」

「こんにちは。あそこの掲示板って何が書かれてるんですか?」

「今年もあの(・・)季節が来たってことらしいぜ。」

 

 あの(・・)季節と言われてもピンとこないハルは頭上に疑問符を浮かべる。ハルがこの町に来て日が浅いということを思い出した先輩冒険者は親切にも説明を始めてくれた。

 

「ドラゴンの季節だ。」

「ドラゴン……?」

「そう。大体年に一回くらいドラゴンの目撃情報が上がるんだ。北の山がドラゴンの生息地になっているから、そこから降りてきてるんじゃないかって言われてる。実際、北の方で目撃されることが多いからな。」

 

 ドラゴン。それは魔物界の頂点に君臨する生き物。強大な力を持ち、何より凶悪なブレスが特徴だ。鉄をも溶かす炎のブレスを吐く個体もいれば、すべてを凍てつかせる氷のブレスを吐く個体もいる。

 

 高ランクの冒険者であれば、討伐することも可能らしいが、普通の冒険者であれば出会えばひとたまりもないだろう。

 

「そんな危険な存在がいるのに、なんでこんなにのんきにしてるんですか?」

「毎年のことだしな。多少の影響はあるが、この町に被害が出たこともない。だから討伐依頼も出されないんだよ。」

 

 どうやら先輩たちはすでに慣れてしまっているらしい。協会側が討伐依頼を出さないのは妙に聞こえるかもしれないが、こういったことは意外に多い。

 今までに被害が出ていないというのであれば、依頼が無いのも実は納得できたりする。それに、"大体年に一回"という定期的にやってくるのであれば、目撃されるドラゴンは同一個体の可能性が高い。危険性が無いのであれば、討伐の必要はないという判断なのだろう。

 

「ではまだまだ新人のハルに問題だ。ドラゴンが山から降りてきた場合、森でどんな変化が起こると思う?」

「えっと、森の奥の生物がドラゴンを避けようと違う場所に避難する?」

「正解だ。森の浅いところにそこそこ強い魔物が現れるかもしれないから、依頼に行くときはいつも以上に警戒を怠らないように。ま、お前が行くとこくらい浅い場所だと大丈夫だろうがな。」

「分かりました!ありがとうございます。」

「それともう一つ、耳寄りな情報を教えてやる。」

 

 どうやらまだ"ドラゴンの季節"について教えてもらえることがあるらしい。

 

「この時期になると、宿屋の食堂に特別メニュー(・・・・・・)が現れるんだ。」

「特別メニューですか?」

「そう。ドラゴンを使った料理だ!」

 

 その言葉にハルは驚きで目を見開いた。ドラゴンが高級食材とされているのはハルも知っている。だが、討伐が困難であり、討伐数が少ないことからドラゴンの料理が店に並ぶことは少ない。

 それなのに、宿に特別メニューとしてドラゴン料理が出てくるという。

 

「もしかして、エアルさんがその降りてきたドラゴンを狩ってるとか?」

「さあな。だが、そのドラゴン料理を目当てにわざわざ宿を訪れる奴もいるくらいだ。まあ、変な客だったら姐さんがぶっ飛ばすから心配すんな。」

「すごいなあ。僕も食べてみたいです。」

「お前の稼ぎだと無理だろうな。俺でもさすがにしんどいくらいだ。ま、精進してドラゴン料理を食べれるくらい稼ぐんだな。」

「はい!」

 

 おばちゃんが経営するあの宿屋は基本的に新人冒険者も利用できるくらいには良心的な値段ではあるのだが、さすがに値崩れを起こさないようにドラゴン料理は高級価格に設定しているらしい。

 

 ハルはとりあえず、森の様子の変化に気を付けながら薬草を採取しようと決めたのだった。

 

 

 

 

 凶悪な魔物に出くわす、なんてこともなく。滞りなく薬草採取を完了し、ハルは帰途についていた。いつも通り夕食をとるため、宿の食堂を訪れるといつもと様子が違うテーブルがあった。

 

 そこには"予約席"の三文字。

 

 冒険者が利用する宿の食堂に予約席があるとは思えない。となると、先輩冒険者の話にあったようにドラゴン料理を食べに来た客がいるということなのだろうか。

 

 その席とは別のテーブルに座るといつの間にやら横におばちゃんがいた。

 

「ハル。今日の夕食は鹿肉のソテーに豆のスープとパンだよ。」

「エアルさん。あれは一体?」

「ああ。この時期になると来る客がいてね。特別メニューがあるんだよ。そっちを頼むかい?」

「けど高いって聞きましたよ?」

「それはそうだね、これくらいするよ。」

 

 そう言って指で値段を示す。今のハルには到底届かない値段にハルは苦笑いを返した。すると食堂に一人のダンディーなおじさんが入ってきた。どこからどう見ても冒険者に見えないそのおじさんはわき目を振らずおばちゃんに近づいていく。

 そのままどこから取り出したのだろうか。大きな花束を取り出しておばちゃんに差し出す。

 

「おお!Ms.エアルよ。今日も実に美しい!この花束をあなたに捧げよう!」

「ここをどこだと思ってんだい!そんな花束邪魔にしかならないんだよ!」

 

 口では文句を言いながらも、ここで花束を弾き飛ばそうものなら食堂が汚れてしまう。そう判断したのかおばちゃんは花束を受け取った。

 

「ドラゴン料理は用意してあるからさっさと席につきな。」

「それは楽しみだ!」

 

 そして予約席に着いたおじさんにおばちゃんは料理を差し出した。芳醇な"肉"の香りが食堂に充満する。そのおいしそうな香りをかいだ冒険者たちはみんな、思わずよだれがこぼれ出てしまう。それはハルも同様。生唾を飲み込んで、それを見た。

 

 おじさんはナイフとフォークを取り出して、行儀よくステーキを切り分けて口に運ぶ。そして、おじさんの目がきっと見開かれた。

 

「さすがである。この肉のうまみが口の中に広がる感覚。実に素晴らしい。」

 

 とてもおいしそうだ。自分も食べてみたい。ハルはそう思うが、値段を思い出して歯を食いしばる。きっとあのおじさんはものすごいお金持ちなのだろう。

 

「……やはり生で食うよりはるかにおいしいのである。」

 

 ぼそっとつぶやかれた言葉にハルはぎょっとする。小さい声だったので他の人には届いていないであろう言葉だが、肉を生で食べるなんてハルは信じられなかった。

 

「エアルよ!吾輩の伴侶になってはくれぬか?」

「冗談はほどほどにしとくんだね。また(・・)ぶん殴られたいのかい?」

「むむむ、さすがにそれは勘弁いただきたい。君のこぶしは吾輩の頑強な骨すら砕きかねないからな。」

 

 そのままドラゴン料理を堪能したおじさんは宿を出て行った。どうやら宿泊をするわけではないらしい。その後、貯金を崩してドラゴン料理を頼んだ冒険者がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

「ところで、あのおじさんって何者なんですか、エアルさん?」

「ああ、あいつはアエスタースって言うんだ。説明が難しいけど、食材提供者だよ。」

「食材ってもしかしてドラゴンの!?」

「そうさ。あいつは毎年この時期にドラゴンを持ってくるんだよ。山に住んでるからね。」

 

 その言葉にハルは違和感を覚えた。だってこの辺りで"山"と言えば、ドラゴンの住みかとされていて、冒険者すらできる限り近づかないようにしている危険な山しかない。そんなところに住んでいるはずがない。

 

 もしそんなことができるとしたら、そんなのはきっと人間ではない。

 

 ……ハルはふと思った。

 

 毎年山から降りてくるドラゴンの目撃情報。そして、毎年ドラゴンを持って宿までやってくるおじさん。

 

 この二つは無関係なのだろうか。

 

 そういえば、ドラゴンの中でも上位種であれば魔法を使うことができると聞いたことがある。その中には人に姿を変える魔法もあるとか。もしもアエスタースさんがドラゴンが人化した姿で、ドラゴンを狩って宿に持ってきているとしたら。

 

「もしかしてアエスタースさんってドラゴンだったりします?」

「ははは。」


 おばちゃんは肯定も否定もせず、ただ笑うだけだった。

 

 

第13話いかがだったでしょうか。また再びとんでもない客がやってきました。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は3/27(月)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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