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第12話 受付嬢リエータの仕事

魔王と出会った。


 私の名前はリエータ。今年、この町の冒険者協会に受付嬢として就職した。冒険者協会の受付嬢というのは意外とエリートな職業というのはあまり知られていない。

 

 まずは読み書きと計算ができること。そして、各地方の植生や魔物の分布など多くの知識が要求される。それだけではない。実は魔法が使えたり、腕っぷしが強かったりと最低限の戦闘能力も求められる。

 

 もちろん、受付嬢が魔物を倒したりしに行くわけはない。これらの戦闘能力は基本的に自衛(・・)のためである。冒険者の中には粗暴な人間も多く、無理矢理受付嬢に手を出そうとする輩もいなくはない。そういったときに最低限の身を守る手段を持っておくのが必要なのだ。

 

 私はもともと王都の冒険者協会を希望していた。当然ながら、そこは非常に人気で倍率も高い。学院でもそこそこ優秀な成績をとっていたが、残念ながらその採用試験は受からなかった。そして、第二志望のこの町の冒険者協会に無事通ったのである。

 

 第二志望にしていた理由は、この町は特に治安が良い(・・・・・)という話を聞いたからである。というより、冒険者の素行が良い、と言った方が良いだろう。この町だけ冒険者が問題行動をほとんど起こしていないのである。

 

 私は魔法が使えて、戦闘訓練も一応受けているので大丈夫だとは思うが、そういう事件が起きないに越したことはないのだから。

 

 

 

 

「うん。依頼完了です。お疲れ様、ハル君。」

「ありがとうございます!」

 

 この子はハル君。私の初めて担当になった子。正直、冒険者とは思えない顔つきと細い体。私からしたら弟みたいなもので、間違いなくこの子の担当になれたことは幸運だった。

 もちろん他にも担当している冒険者もいるが、この子を見れば仕事で疲れた心が癒される感じがする。

 

「本当に素直でかわいいわよね、ハル君。担当代わってくれない?」

「駄目です。あの子は私の担当なんですから。」

 

 ハル君が建物から出れば毎度のようにこのようなやり取りが行われる。それくらいハル君の"倍率"は高いのである。

 

「でも残念だったわね。ハル君がもう魔法を覚えちゃってたなんて。」

「そうなんですよ!本来だったら私が教える予定だったのに!」

「いや、それは別にあなたの仕事じゃないでしょ。そうだったかもしれないけど。」

 

 基本的に冒険者たちは別に学院に通ったりしているわけではない。人によっては読み書きすら怪しいくらいだ。そんな人たちが魔法を使えるわけもなく、協会側が魔法を教えることになっている。

 魔法が得意な私がハル君に教えるつもりだったのに、どこかの誰かにすでに魔法を習っていたという。ぐぬぬ。

 

 

 

 

「宿屋の視察ですか?」

「そ。もう大分仕事も慣れたでしょう?別の仕事もしてもらおうと思ってね。大丈夫、宿屋に言って冒険者の様子を聞き込みしてまとめるだけだから。」

 

 冒険者協会では定期的に町の様々な施設の視察を行うことになっている。冒険者が問題行動を起こしたりしていないかをチェックし、もし何かあった場合は対処を即座に行うためだ。

 この町では冒険者の問題行動が他の町に比べてはるかに少ないのだが、そういった視察をきちんと行っていることもその要因の一つなのかもしれない。

 

「あれ、確かここの宿屋って。」

「冒険者協会が基本的に勧める宿ね。ハル君もここに泊まっているわよ。」

「急にやる気がみなぎってきました。」

 

 もしかしたらハル君に会えるかもしれない。それだけで多少面倒な仕事でもやろうという気持ちになる。

 

 ということで、宿屋の視察に向かうことにした。

 

 

 

 

「見ない顔だね。新しい受付嬢かい?」

「はい、今年から受付嬢になりました。リエータと言います。」

「リエータね。私はエアル。なんでも聞いておくれ。」

 

 宿屋の主はエアルという名前のおばちゃんだった。聞いてみたところ、この人一人でこの宿屋を経営しているらしい。

 

 私にはそれが信じられなかった。だって、この宿屋は多くの冒険者が泊っており、そこそこ大きい。それを一人で管理するなんて不可能だ。

 

 掃除がいい加減だったり、料理が適当だったりするのかもしれない。もしそうだとしたら私はしっかりとそれを報告しなくてはならない。今まで問題がなかったからと言って、今回も問題が起こらないとは限らない。私は改めて気を引き締めた。

 

 ……だというのに、それに関しては文句のつけようが一切なかった。

 

 きちんと部屋は掃除されていたし、料理も冒険者たちがおいしそうに食べているのが確認できた。そして、食堂で事件が起きる。

 

「あ、喧嘩売ってんのかてめえ!」

「さっさとかかってこいってんだ、この腰抜けめ!」

 

 食堂で冒険者が喧嘩を始めてしまった。やはり冒険者というのは粗暴らしい。私は喧嘩の仲裁に入ろうと身構えるが、おばちゃんがそれを制止した。

 

「この程度の喧嘩放っておきな。宿の備品が壊れない限りは自由にさせておくのがうちのやり方なんだよ。」

「そ、そうなんですか……?」

 

 さすがに冒険者御用達の宿。これくらいの喧嘩では動じないらしい。言い合いはヒートアップしていき、ついには取っ組み合いにまで発展する。

 周りの冒険者もそれを止める様子は見られない。止めなくて良いのだろうか、私は不安を覚えた。しかし、隣ではことの成り行きを見守るように、おばちゃんがどしっと構えている。

 

 そして、ついにそれ(・・)は起こる。

 

 取っ組み合いの衝撃で、机の上にあった料理ののった皿が吹き飛ばされたのだ。料理がこぼれながら皿が宙を舞う。

 

 周囲の冒険者たちもその皿の行方を追う。このままではきっと料理は床に落ちて、皿は割れてしまう。しかし、もうどうしようもない。

 

 隣にいたおばちゃんが姿を消した。いや、そういう風に見えた。

 

 次の瞬間、おばちゃんは料理を少しもこぼさずに皿を掌の上にのせてキャッチしていた。ほとんど目で追うことができなかった。だが、とてつもない速さでおばちゃんが動いたのだろうということだけ分かった。

 

 おばちゃんの雰囲気が変わる。食堂の空気が凍り付いたのが分かった。

 

「料理を粗末にするなんて、良い度胸だね。」

「「す、すみませんでしたー!」」

 

 喧嘩をしていた冒険者たちが即座に頭を下げる。その光景が全然信じられなかった。冒険者というのはプライドの高い野郎ばっかりで、謝れる奴なんて一握りだと思っていたのだ。もちろん、ハル君はその一握りだが。

 

「あれ、リエータさんじゃないですか?」

「ハ、ハル君!?」

 

 どうやらハル君も食事のためにこの食堂にやって来たらしい。しかし、ハル君に会えた嬉しさよりも、先ほどの衝撃が上回っていた。

 

 私は思わず、ハル君に尋ねる。

 

「ハル君……、あのエアルさんって……。」

「ああ、エアルさんのことですか?エアルさんって昔勇者パーティに所属していたらしいですよ。」

「本人なの!?」

 

 私だってエアルという名前は聞いたことがある。だが、別に珍しい名前でもないのでただの同名の人物だと思っていたのだ。

 それに、どこからどう見てもおばちゃんだ。伝説の勇者パーティにいたとは全然想像できない。

 

「分かります。僕も同じように驚きましたから。」

 

 この町で冒険者が問題行動を起こさないのは、エアルさんがこうやって冒険者を締めているかららしい。

 私がこの宿を訪れるとんでもない人たちと関わることになるのは、もう少し先の話。


第12話いかがだったでしょうか。ハル以外の視点は初めてでしたが、書いてて楽しかったので今後も別視点を書くかもしれません。感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は3/24(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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