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第10話 謎の子供、襲来

エルフの魔導士フリュールから魔法を学んだ。


「おはようございます、エアルさん。」

「ああ、ハルかい。おはよう。随分と早いね。まだ朝食を出せる時間じゃないよ。」

「目が覚めちゃって、ちょっと体を動かそうかと。」

「なるほどね。今日も依頼を受けるんだろう?ほどほどにしておきな。」


 たまたまいつもより早く目が覚めてしまったハルは、宿の前で体を動かすことにした。


 走り込みに始まり、素振り。できる限り闇雲に振るうのではなく、一回一回集中して。


 ハルは本格的に剣を習ったことはない。今している素振りも先輩冒険者たちの見様見真似である。それでも、やらないよりはまし。もともと戦闘の経験も少なかったハルはそれなりに成長をしているのだった。

 

 汗が頬を伝う。そろそろ良い時間になっている。近くの川で軽く水浴びでもして汗を流し、宿に戻って朝食をとることにした。

 

「ただいま戻りました。」

「……。ハル、今日の朝食はセルフになってる。自分でとって食べて良いよ。」

「え?ああ、はい。分かりました。」

 

 受付で肘をついているエアルの姿にハルは困惑した。いつもなら朝食でも、エアルが配膳をしてくれるというのに、今日はどうしてセルフなのだろう。

 それに、どこか不機嫌なようにも見える。体を動かす前に話したときには感じられなかったので、その間に何かあったのかもしれない。体を動かしたといってもそんな長い時間ではない。一体何が起こったのか。

 

 疑問を抱きつつもハルは食堂に入る。入り口近くにパンやサラダ、おかずが並べられていてバイキングのような形式になっている。

 

 冒険者のような荒くれ者の多い宿でこんなことをすれば、誰か一人が大量にとったりして喧嘩になることは想像に難くない。しかし、この宿でそんなことをしたら、後でどんな目に合うか分からない。なので、食堂はハルが想像していたより静かだった。

 

 ……いや、静かすぎる。ハルはそう感じた。

 

 誰も口を開いていない。この宿に泊まり始めてもう随分とたったハルだが、こんなことは初めてだ。

 

 そして、食堂の中の様子もやはり異常だった。

 

 屈強な冒険者たちは端の方のテーブルにつき、中央の方がぽかんと空いている。その空いた空間に一人で座る子供(・・)の姿がよりその異常さを際立たせていた。

 

 ハルは自分の朝食用にとパンやサラダをとるが、席がその子供の近くしか空いていないということに気づいた。少し逡巡して、仕方なくその子供の近くに座ることにした。

 

「ふむ、この宿屋はこのような子供も利用するのだな。」

 

 その子供から発せられた言葉にハルは思わずむっとする。確かにハルは他の冒険者たちより華奢で顔立ちも子供っぽい。だが、ハルは新人といえど立派な冒険者だ。子ども扱いされるいわれはない。

 

 それに、言っているこの子供の方が見た目でいえばよっぽど子供だ。なぜそんな風に言われなくてはならないのか。そう思ったハルは思わず、その子供をにらみつけた。

 

「ほう、我に物おじしないとは。底抜けに鈍感なのか、それとも力を隠している強者なのか?」

 

 そんなことを言い出して、ハルはハッとする。この不遜な物言い、もしかしたらこの子供は有名な貴族なのかもしれない。だとしたら周囲の冒険者たちが妙に静かなのにも納得がいく。

 

「我は――。」

「何うちの客に絡んでるんだい?」

 

 その子供が何かを言おうとしたとき、受付にいたはずのエアルが現れた。その子供はエアルの方を嬉しそうな目で見た。

 

「仕方ないだろう、エアル?ここの冒険者たちはみな我に畏れを抱いているようでな。しかし、この子供だけは我に近づいてきたのだ。話しかけても悪くはないだろう。」

「子供って言うのはやめな。ここにいるのは全員立派な冒険者だ。」

「それは失敬。」

 

 どうやらこの子供はエアルと知り合いらしい。だが、間違いなくエアルの不機嫌の原因はこの子供だ、とハルは確信した。

 そして、エアルはハルの方に視線を向けた。

 

「こいつの相手はあたしがしておく。ハルはさっさと飯を食って準備しな。今日も依頼を受けるんだろう?」

「あ、はい。分かりました。」

 

 エアルの助けのおかげで特に何もなく終わることができたので、ハルはほっとする。もし貴族だとしたらあの場で罰を言い渡される可能性もあったのだから、エアルには感謝するばかりだ。

 

 ハルは早々に朝食を終わらせて食堂を出る。そこには先に朝食を食べ終わっていたはずの先輩冒険者がいた。

 

「おい、ハル。お前大丈夫なのか?」

「大丈夫って、あの子供のことですか?もしかしてすごく偉い人だったりするんですか?」

「いや、俺たちも知らない。だが、あの子供が発するオーラというか威圧感が異常だ。」

 

 言われてハルは驚いた。確かにあの子供は妙な気配を醸し出していたが、その冒険者が言うような感じは受けなかった。

 

 どうしてだろう?そう疑問に思ってようやく気付いた。

 

 ハルは最近、強者と一緒にいることが多かった。それは元勇者のウェールや元聖女プリマヴェーラに大盾使いのヤロにエルフの魔導士フリュール。そして、何より宿屋のおばちゃんのエアル。

 そういった圧倒的な強者と一緒にいすぎたせいでもしかしたら、そういった感覚に鈍くなってしまっていたのかもしれない。

 

 冒険者としてそれに気づけないのは致命的だ。少しエアル達に頼るのはやめた方が良いかもしれない。ハルはそう思った。

 

 

 

 

 依頼が張り出されたボードの前でハルは依頼を選ぶ。ハルのランクでは受けることのできる依頼の選択肢は少ない。一通り確認して、一つの依頼表を手に取った。

 

「畑に出没したイノシシの討伐。これなら僕でもできるかな。」

「そんな依頼を受けるのか?」

 

 不意に背後から声をかけられて、びくっと肩が跳ねた。恐る恐る振り向くと、先ほど食堂で会った子供が立っていた。

 

「ど、どうしてここに?」

「エアルと少し話していたのだがな。彼女も宿の仕事があると言っていたので、外に出てきたのだ。一か所にとどまっておくのは少し都合が悪いのでな。」

 

 先ほども思ったのだが、宿屋のおばちゃんで他の冒険者からも尊敬されているエアルに対して、呼び捨てできるなんてこの子供は本当に何者なのだろうか。

 いや、一か所にとどまっておくと都合が悪いなんて明らかに面倒ごとのにおいがプンプンする。

 

「まあ良い。暇つぶしに我も付いていくとしよう。」

「え!?」

 

 思わず大きな声を上げてしまった。そんなに難しいわけでもないどちらかと言えば簡単な依頼だが、冒険者でもない部外者を連れて行くわけにはいかない。周囲の冒険者に助けを求めようと周囲を見渡すが、宿の食堂の時と同じようにどういうわけか(・・・・・・・)人が離れてしまっている。

 

「何をしている?受けぬのなら無理矢理あちらの依頼表を引っぺがしてくるぞ。あっちの方が張り合いはあるからな。」

 

 そう言って子供が見た方向には高ランクの冒険者向けの依頼表が張り出されたボードがあった。

 これ以上この場にいたら何をしでかすか分からない。ハルはそう判断して、イノシシ討伐の依頼を受注した。


第10話いかがだったでしょうか。この子供の正体とは……?感想・評価・誤字訂正など全部お待ちしております。


次回更新は3/17(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。


お知らせ:これまでは毎週月曜に更新していましたが、これからは毎週月・金曜の週に2回投稿していこうと思います。更新間隔が変わりますので、お気を付けください。

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