プロローグ
「やっと終わりましたあ・・・」
私、秋山 美晴は、いつも他人の為に生きていた。
両親は私が小さな頃に事故で他界し、早々に独りとなった私は親戚の家をたらいまわしにされていた。
幼い頃から周囲に気を遣う生活をしていたからなのか、気が付けば敬語が抜けない話し方、他人とも一定の距離を保ちつつ愛想よく、外ではそんな事ばかりを気にする人間になっていた。
1人でも笑ってくれると嬉しいし、自分が誰かの役に立てたと思うと自分の存在は必要だったんだと思えるから都合のいい人間、迷惑を掛けない人間、それでも良かった。
ただそれを何年も続けていると流石に疲れも溜まる、現実から逃げたかったのかも知れない。
社会人になり自分で生きていけるようになってから、一人の時間が癒しとなった。
中でも一番何も気にせず居られる時間がアニメや漫画、小説にゲーム等オタ活をしている時。
この日も、帰宅後直ぐに今ハマっているゲームを家でしようと思いを馳せながら家路を急いでいた。
いつもと同じ帰り道、同じ時間、その中で一つだけいつもと違うものがあった。
私が住むマンションには屋上があり、私は屋上通路から一番近い部屋に住んでいる。
現在の時刻は夜の10時過ぎ、屋上を使う人はいない。それなのにこの日は屋上に続く扉が開いていた。
妙なな騒ぎを覚える。
直ぐにいかないと、
そんな気がした。
私にはもう一つ癒しがあった。
お隣に住む中学2年生の男の子と、朝「おはよう」と挨拶をすること。
いつも朗らかに笑いながら、声を掛けてくれる。面倒見もよくて、よく妹ちゃんと遊んでいる姿を目撃していた。あの子に会えた日は今日も一日頑張ろうと思えた。
焦っているからか屋上までの階段が酷く遠く感じる。
お願いします神様、杞憂で終わらせてください。
勘違いだったんだと安心させてください。
そんな私の願いをあざ笑うかのように、
現実は、一番最悪な現実を突きつけてきた。
優しい男の子が、屋上から飛び降りようとしていた。
「ちょ、っまま待ってください!!」
「!?」
くそおおおおお!!!!神様のくそったれえええええ!!!!
お願いします、お願いします、どうか、どうかどうかどうかっ、間に合って!!!
どんっ
「!・・・・・・あ、秋山さん?どうして・・・・っ秋山さん!!」
ああ、良かった・・・彼は無事みたいですね・・・
慣れない浮遊感を感じながら彼の無事を確認した私は、只々安堵していた。
人間死を感じるときはスローモーションになるって本当だったんですね。思考だけはいつも通りなのに、不思議な感覚・・・
彼に伝えられることはあるだろうか、優しい子だから責任を感じてしまうだろうか・・・
でも知ってほしい、全てのものに、必ず意味はあるのだと。人生において辛い事も、必ず未来で役に立つときが来るって事を。
死のうとする勇気は並大抵の精神でできる事じゃない。とても凄いことだと思う。
だから、だからこそ、その勇気をどうか
生きる為に使ってほしい。
自分自身が楽しむ為に、心から笑える為に
生きてて良かったと思えるその日の為に。
「無理しないで、」
沢山彼に伝えたい事はあった、いくらでも彼の話を聞きたかった。
届いたかな、最後の言葉。届いているといいな。
それが私の最後の記憶。