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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

医者の二人旅

作者: ウオゼウェ

「先生、次はどこを目指してるの?」


 横を歩いている少年が声をかけてくる。

 少年の右足は義足で右目を隠し、左腕は肩から先が無い。見えてはいないが、服の下の皮膚も所々自然な皮膚ではない物で継ぎ接ぎになっている。


「特に目的地は決めてないよ、目当ての相手がどこに居るのか分からんし。それに俺は先生じゃねえ」


 何度繰り返したか分からない会話をしつつ歩いていると先の方に小さな農村らしいものが見えてきた。


「丁度いい、今日はあそこで泊めてもらおうぜ」


 少年を連れて村まで歩く。

 村にはちらほら畑仕事をしている人がいる程度だった。

 近くの畑仕事をしている女性に声をかける。


「すいません、ちょっといいですか」


 女性は顔を上げてこちらを訝しんだように見る。


「旅の者なんですが、二人で今日泊まるような場所はありませんかね。明日の朝には出ていきますんで」


 女性はジロジロとこちらを見たあとゆっくりと口を開いた。


「あんた、薬は持ってるかい?」


「は?」


 突然のことで間の抜けた声が出る。


「薬だよ、痛み止めでもなんでもいい。分けてくれるならうちに泊めてやってもいい」


「薬なら多少はありますので分けることは問題ないですが…」


「決まりだね、来な」


 一方的に話をまとめると女性はついてくるように促す。


「やったな、珍しく早めに宿が決まったな」


「愛想はあまり良くないけどね」


 女性に付いていくと村の隅の方の家に案内された。


「2階に上がって手前の部屋だよ。奥の部屋には入るんじゃないよ」


 簡単に部屋を案内すると女性はこちらに向かって手を伸ばしてくる。


「……なんでしょう?」


「薬だよ、早く出しな」


「薬と言われましてもなんの薬なのか…」


「なんでもいい、早く出しな」


 女性は苛立ったようにせかしてくる。


「そういうわけにはいきません。症状に合わない薬は毒にもなりますので」


 女性は少し考えるような素振りをする。

 しばらくすると嫌々ながら了承した。


「チッ、ついてきな」


 女性は舌打ちと共に入るなといった奥の部屋に案内する。


「見たことは他で言うんじゃないよ」


 中には少女が1人ベッドで眠っていた。

 高熱のためか酷くうなされてており、とても苦しそうだ。

 少女の左腕の上部は黒く腫れ上がっており、皮膚が裂けているのか所々血が滲んでいた。


「この娘の症状を少しでも抑えるためだよ、早く薬を出しな」


「分かりました。この場合は痛み止めが…」


 手持ちの袋から簡単な痛み止めの薬を出そうとした所で、隣にいた少年から袖を引っ張られる。


「先生、この子すごくいいね」


 少年はキラキラした目で少女の左腕を見ていた。


「…はぁ、すみませんがこの子に合う薬は持っていません」


「は?何いってんだい。薬が出せないってなら宿も無しだよ。小さい村だ、他で泊まれるところがあると思うんじゃないよ」


 女性は急に話を変えたことで不機嫌になる。


「代わりと言ってはなんですが、この子を治すというのはどうでしょう。3日ほどいただければ落ち着くところまでできると思うのですが」


「あんた医者なのかい?」


「そんな大したものでは無いのですがね」


 女性はしばらくの間疑うような視線を向けていたが、納得したのか了承した。


「それなら文句はないよ。治らなかったら代わりの物置いていってもらうからね」


「ありがとうございます。早速明日から手当に移ろうと思いますが、その間は部屋には入らないようお願いしますね。感染症だとまずいので」






 次の日の朝、少年と共に少女の部屋に向かった。


「先生、これって感染症なの?」


 腫れた左腕をつつきながら少年が訊ねる。

 痛みがあるのか少女は触られるたびに呻いている。


「さあな、分からん。痛そうだからつつくのはやめてやれ」


 少年はつつくのをやめて戻ってくる。


「さて、いつも通りさっさと終わらせるか。

ひとまず痛みを止めるか、袋に蠍の針あったろ取ってくれ」


「あぁ、ここに来る途中先生が刺されて痺れてたやつね。先生は呼吸すら出来なくなってたけど大丈夫なの?」


「少しくらいなら大丈夫だろ」


 少年から蠍の針を受け取り、少女の患部に刺す。

 少女はしばらく呻いていたがそのうち静かになる。


「先生、これ反応ないけど死んでない?」


 少年が再び患部をつつきながら尋ねる。


「馬鹿いえ、呼吸はしてるだろうが。毒で気を失ってるだけだろ。さっさと終わらせるぞ」


 少年は袋から大きめなナイフを取り出して渡してくる。ナイフは刃がギザギザになっており小型のノコギリのようだった。


「んじゃやるか。縛る用の紐と布、針と糸は出しといてくれ」


 そう言うとナイフを少女の患部より上に当てる。

 そのままナイフに力を入れ、少女の腕を切り落とす。

 部屋にはグチャグチャという肉の音とゴリゴリという何かを削る音がしばらく響いた。


「よっと、取れたわ。じゃあ紐と布をくれ」


 少年から受け取ると布を傷口に当て、血が止まるようにきつく縛る。


「こんなもんだろう、それじゃあこっちに来て服を脱げ」


 少女に簡単な処置をすると少年を呼ぶ。

 少年が服を脱ぐと腕がない左肩にナイフを当て浅くない傷を作る。


「痛いなあ先生、もっと優しくしてよ」


「うるさいな、前に痛み止めしたら感覚がないって文句言ってただろうが」


 少年の傷口に少女の腕を当てて雑に縫い合わせておく。

 少年の肌とは明らかに色の違う黒く、そしてそれ以外は白い腕が少年の肩からダランと垂れている。


「あんまり動かすなよ、服の中に入れて隠しとけ」


「はーい。んふふキレイな腕だよね」


 床に散った血を拭って荷物を纏める。部屋の扉を開けたところで目の前には女性がいた。


「どうかしましたか?」


 体で部屋を隠しながらにこやかに問いかける。


「あの子の食事を持ってきたんだよ」


「そうでしたか、昨夜も言ったように感染症の恐れがあるので私の方から食事させておきましょう」


 女性から食事を受け取り部屋に向かって反転する。

 その時女性に肩を掴まれる。


「ちょっと待ちな」


 女性の声は震えていた。

 マズいと思ったのもつかの間、女性に突き飛ばされる。

 女性は少女に駆け寄るとこちらを睨みつける。


「お前!この子の腕をどうした!」


 女性の目は血走り、こちらを怒鳴りつけて来る。


「落ち着いてください。まだ治療の途中です」


「うるさい!確認も取らず腕を切り落としておいて治療だって?ふざけるな!」


 女性は怒りのままにこちらに飛びかかってくる。

 殴りかかる拳を受け止め落ち着かせるが女性の怒りは収まらない。


 しかたがなく、女性の腕をひねり上げる。男性の力にはかなわず暴れるが押さえつける。

 先程の縄の残りを取り出して縛り上げるとようやく少し大人しくなる。


「先程も言いましたが治療の途中です、落ち着いてください」


「勝手に腕を切り落としておいて治療とは随分なことで。さっき見たが傷口も布を当てて縛っただけの治療とは言えないものじゃないか!」


「それはまぁ、医者ではないので…」


 何も言い返せず思わず語尾が小さくなる。


「覚えてろ、お前は必ず殺してやる」


「せめて最初に言った3日は待ってほしいんですが…」


 その場にいても怒りを買うだけなので部屋を出る。食事などは自分で作り少年に少女と女性の世話を任せて、その日は部屋に引きこもることにした。






 翌日、少女の部屋を訊ねる。少女は寝息を立てており、女性は相変わらずこちらを睨みつけていた。


「来たかクソ野郎、さっさと縄を解いて死ね」


「せめて明日まで待ってくれませんかね。こっちにも都合がありまして」


「子供の腕を取ったり付けたり、弱みを握ってるのか知らないけど実験動物みたいに扱うやつの都合なんか知ったこっちゃないね」


 思わず隣りにいた少年を見る。少年は左腕を揺らしてこちらに笑いかけている。


「なんで言うかなぁ…」


「腕をどこにやったか教えてって言われたから」


「また無駄な怒りを買うようなことを…」


 少年はまるで悪いことはしていないようにニコニコとこちらと女性を交互に見ている。


「えーと、ご存知かとは思いますがあの子の腕はこの少年にくっつけてあります。これが医療行為といいますか、後で戻しますので…」


「ふざけたこと言ってんじゃないよ、人の腕を人形のように取ったりつけたり。第一、そんな方法で治るはずがない!」


「ですよねぇ、俺もそう思うんですけど…。

とにかく!明日には元に戻しますので、その後様子を見てあとは煮るなり焼くなりしてください」


 強引に話を終わらせて部屋を後にして、その日は部屋に戻ることにした。






 翌日、少年と共に少女の部屋に向かう。


「それじゃあ腕を見せてくれ」


 少年が服を脱いで左腕を見せる。

 腕は黒く腫れ上がっていた箇所はある程度腫れは収まり、黒というより紫色のあざのようになっていた。

 女性もあまりに急な変化に目を大きくする。


「これなら大丈夫そうだな、腕を戻すぞ」


「えー、せっかくくっついてきたのに」


 少年が腕を振る。完全ではないものの最初のように揺らすだけで無く、自らの力で動かしていた。


「いいから早くやるぞ、もう神経通ってんだろ。適当に布噛んどけ」


 少年は荷物から布と以前も使ったナイフを取り出すと床に横になる。


「先生、激しくしてね」


「うるさい」


 ナイフを手に取り少年の腕の継ぎ目に当てる。


「想像通りの酷い絵になるんで嫌なら目を反らしてくださいね。縛ってるんで耳は塞げないですけどこいつもそれなりに声はこらえると思うんで」


 女性は恐怖のあまり目もそらせず声も出せないようだが一応声をかけておく。


 ナイフに力を入れるとまだ薄い皮からブツブツと嫌な音が聞こえる。


「ん゛ーー!!」


 少年のくぐもった声が部屋に響く。

 構わず力を入れ、繋がりかけていた腕を切り落としていく。床には血が広がり傷口を抑えた布を赤黒く染める。


「取れたっと、傷口抑えとけよ」


 自らの左肩を抑える少年を横目に少女へと向かう。


「待って!」


 女性から悲鳴のような声が響く。


「言いたいことは分かりますがこのままだとこの子も死にますよ。見ての通り切り落とした所の処置も丁寧とは言えないですし。

それなら今だけ信じてくれませんかね。これで悪化するようなら好きにしてもらっていいんで」


 一方的に要求して少女の腕に縛った縄と布を取る。

 布にはかさぶたがくっつき、血を抑えていた縄も取ったため血が流れる。

 ナイフでかさぶた状になっている箇所を丁寧に剥ぎ取ってから切り落とした腕を当てる。


「うぅ…」


 少女は痛みで呻くが初日のような針はもう無いのでそのまま続ける。


 少年に腕を抑えてもらって腕を縫い付ける。少年のときとは違い丁寧に隙間がないように縫い付ける。

 縫い終わったあとは傷口に、布を巻き付けて終わる。


「これで大丈夫だと思うんだけどな」


 汗を拭って女性の縄を解く。

 その瞬間殴り倒されて、両腕を持っていた縄で縛り付けられる。


「痛ってぇ…」


「今はそれで我慢してやる。数日この子の様子を見て悪化するようならお前は私の手で殺してやる」


「分かったよ、世話はそいつにしてもらうからそいつの世話だけは頼むわ」


「当然さね、お前みたいなクソ野郎に子供の世話なんてさせるかい」


 その日は手を縛ったまま部屋に転がされた。

 食事はやけにニコニコした少年に押し付けるように食わされた。






 村に来て5日目、女性に引きずられて少女の部屋に行く。

 女性が少女の腕を確認し、それを覗き込むように見る。傷口は1日とは思えないほど塞がっていた。


「なんで…」


「思った以上に塞がってるな、想像以上にお前に馴染んだんだな」


「えへへ…」


 少年は照れたようにはにかむ。別に褒めてないんだがな。


 次の瞬間女性に胸ぐらを掴まれる。


「お前あの子に何をした」


「何をとは?」


「あんなに早く傷が塞がるなんてあり得ない。変な薬とか使ったんじゃないだろうね」


「やったのは俺じゃなくてそいつなんだけど」


 横目でニコニコしている少年を見る。

 女性も何を言ってるか分からないというように少年を見る。


「こいつは異常に治癒力が高いんだよ。だから腕をこいつにくっつけて先に治した。あの子の傷口が早く治ってるのは、こいつの治癒力が腕に残ってるから。別にあの子になにかしたわけじゃないよ」


「そんな話あるわけ無いだろう!」


 少年に目で合図を送る。少年はナイフを手に取ると自らの左足に突き立てた。


「ちょっと!何をしてるの!」


 女性は俺を放り出し少年の足からナイフを抜く。布で傷口の血を押さえるように拭き取ると傷口はほとんど塞がっていた。


「慌てなくてもこれくらいならすぐ治るよ、流石に腕が取れるとかだと数日かかるけどね」


 女性は腰を抜かしたようだった。

 這いずるように部屋から出ていきその日は会うことはなかった。






 翌日、二人とも家を追い出された。

 日が昇る前の薄暗い早朝に叩き起こされて荷物を纏めさせられた。


「あんたらみたいな得体の知れないのを家には置いておけないよ。村の奴らにバレたらあたし達まで変な目で見られちまう」


「それはそうだよな」


「自分で分かってるならさっさと出ていきな。あの子の様子が変だったら覚えておきな、探し出して酷い目に合わせてやる」


 このままここに居ても迷惑なだけだろうと村の外に向かって歩き出す。


「そのかわりあの子がもし良くなったら感謝してやる。困ったことがあったらここに来な。その時は助けになってやるさね」


「どっちにしろ会わないことを祈るよ」


「またねー」


 二人はまた別の村に向けて歩き出す。





「しかし何処でもお前はヤバいやつ扱いなんだな」


「作られたところでもそんな扱いだったしね。でも今回は先生も結構ひどい扱いだったね」


「やってることは酷いことだったしな」


 自分で思っても正直ドン引きする。普通はありえないことをしてる自覚はある。


「で、腕の調子はどうよ」


「肘くらいまでは再生したんだけどね、手までは戻らないみたい」


「そりゃ残念、まだ別の人探さないとな」


「肘まででもあれば便利だからいいよ、それより腕が黒くないのが残念かな。あの黒と白の対比が良かったのに」


「相変わらず良く分からん趣味してるな」


 空にかざした少年の左腕は、他の肌とは違う真っ白な腕が肘ほどまで伸びていた。

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