走れセツナ
「でさぁ〜バアル様がまた勝手にゲーム入れててもう容量パンパンなんすよね〜ムカつく〜」
「そう」
どうやらまた新たなスマホを買うときが来たらしい。
バアル様は怠惰の悪魔、生粋の引き籠もりだ。今までも何度か同じ愚痴を聞いたしお金有り余ってんだから別にいいじゃん? って思う。
ぶっちゃけ同レベルに怠惰なうえにボクの生活にまで侵食している分、ベル様のほうが質が悪いと思う。
因みにボクの知り合いの神々曰く、権能と性格はあんま関係ないらしい。
確かに知り合いで1番まともなのはアスモデウス様か月読様だ。
コミュ障と口に保存された食べ物許さん系の方々だが、まぁ少し癖があるのは仕方ないだろう。神々は大体どっか尖ってる。
「ムキー」
「まぁまぁ落ち着きなさい」
「そういえばあんまり先輩の怒ってるとこって見たことないっすね。ベル様とイチャついてるのはよく見るっすけど。最近ムカついたことってなんかあります?」
イチャついてなどいない。ただただ爛れてるだけだ。
「思い浮かばないですね」
「なんかしょうもないことでいいんで」
「ギターを買ったんで弾こうとしたら指が柔かすぎてビビリまくってしまって。指の運動は毎日してたから指は届いたのは幸いでしたけど、少しイラッとしました」
ビビるとはしっかり弦を抑えられずペビィーンって音になることだ。
「しょぼ……。もしかして指先だけに結界張るっていう変態じみた練習してたのってこのためですか?でも確かに先輩趣味関係のことしてると少し気が荒くなりますよね」
そうかもしれん、薬指ガンマンが出来なかったり技術や頭に身体が追いつかんのはムカつく。コインのパームなんかも出来なかったし、でもフィッシュテールは行けたっけな。今じゃ成長しきったからフィンガークロスパスとかワンハンドファローシャッフルとか余裕だけど。そういえばワンハンドリフルシャッフルってなんなんだろ?どう観てもファローシャッフルなん――
「おーい、聞いてます?」
「あ、ごめんなさい」
おっと、思考の沼にはまってた。ジャグリング関連はどうも熱くなってしまう。
例えばボールは3歳の頃にバッククロスできたなーなんて沼に再入浴を試みていると後から気配がした。
「おはよう、瑠流、セツ」
こいつは幼馴染の安倍塁、主人公みたいなやつだ。それも最近のモブ系や実は〇〇系でもない正統派。
瑠流の遠い親戚らしく習慣として名前はベルが入ってるがこいつは一般人だったりする。
ただ、ボク達はベル様やバアル様に身も心も捧げているのでヒロインになりえないしそれをこいつは知らない。残念だったな。
ボクは悪魔に魂を捧げたというより売った気がするが。あと神に身を捧げた巫女が本当に身を喰われるってのも聞いたことない気がする。
後回しにしたがセツとはボクのことで刹那って名前だ。男でも女でもとおるので気に入っていて先々代─初代─からずっと使わせてもらっている。名字は今は大罪、イントネーションは大罪ではなく仙台と同じで漢字以外は違和感がない。
魔法少女名はあるが恥ずか死ぬので言わない。名乗りもしたことが無いので知ってるやつはいない。ベル様くらいか。あと覚のクソ野郎がいたか。
なんて説明しながら意識をしないようにしていたが、やはり視線が鬱陶しい。
別にボクが見られるのはそんなに問題じゃない。金髪碧目美少女なので嫌な視線もあるけどチヤホヤされたり嫉妬の目を向けられるのはスッキリするからだ。
ただハーレムメンバーの一員を見るような目は辞めていただきたいが仕方ないのであきらめざるを得ない。
次善策として居心地悪そうにしている塁を見て溜飲を下げることにする。
感じる視線は大体ボクの頭に向かう。これは仕方ないだろう。ボクは女の子を満喫するためにほぼ毎日違う髪型をしている。最近はどんな髪型か楽しみにしてくれている子もいるので期待に答えねばとモチベも高い。
この視線は全然いやじゃないので問題ない。
今日は右と左でくるりんぱしてそれを真ん中でもっかいくるりんぱして、寂しかったのでデカいリボンをつけている。何か不自然になったので微調整に時間がかかった。
ふと気付くと校門まで来ていて「おはようございます」と先生に挨拶している周りを見て慌てて挨拶をする。
「おい大罪、あとでちょっと着いてこい」
生徒指導の先生に声をかけられたがボクは気付かない、気づいてはいけない。
「おい、聞こえてるだろ」
チクショー
「なんですか?」
「お前の髪なんだが」
「地毛なんです、許して下さい、カラコン入れてないんです」
小学校の担任みたいに黒に染めろってスプレーぶっかけてくる気だな。生徒を指導する教師に碌な奴はいない。そう決まっている。別に生徒指導が悪いわけじゃない。悪い奴が生徒指導になるんだ。
セツナはこんらんしている
「それは知ってるんだg……」
生徒指導、カマガイはしゃくめいしようとしたがまわりこまれてしまった
「地毛証明書です、これで勘弁してください」
セツナはにげだした。
セツナは地毛証明書証明書を押し付けて教室へと日の沈む十倍の速さで走った。路行く人を押しのけ、跳ねとばし、セツナは黒い風のように走った。セツナは疾風の如く刑場に突入した(誇張表現)
走れセツナ。
「リボンは華美でないものとする、校則なんだけどな」
今の会話を聞いていた生徒からの責めるような視線が痛い邪智暴虐(笑)な化学の生徒指導、熊谷は激怒した。
逃がした小鳥は帰ってこない。




