そんなこんなで
結末はあっけない。
ひばりは全部喋った。精神疾患だと思われているようだ。
ひばりはわたしと同じ転生者だった。ただし、生まれた時から前世の記憶があった。
そこで、ひとつ下のわたしがしっかり声を出すことができず、凡庸な容姿をしていることから、「ネオ月下」の世界だと気付く。彼女は「ネオ月下」ファンだったので、玄が来てくれる日を心待ちにしていた。
その日は訪れ、わたしがストーリー通りに奉公に行った。ひばりはさすがに「ネオ月下」ファンで、わたしが殺されるまで十日だと記憶していた。ところが、その日になってもふうも庭師もぴんぴんしている。
なので、殺人が起こればなにか動きがあるだろうと踏み、友達の女の子を誘い出して殺した。
色々と準備はしていたみたい。家のなかに、大金が隠してあった。それがどんな手段で手にいれたものかどうかはわからない。村に来ていた行商人が失踪する事件は、だから、もしかしたらひばりの仕業かもしれない。
ひばりのお粗末な思考だと、警察が来たことで、わたしと庭師が玄を疑い、疑われた玄はわたしと庭師を殺し……と、そうなる筈だったのだそうだ。
ひばりは森のからすを手なずけようとしたり、していたみたいだ。でも、ふうに阻まれた。
それが関係あるとひばりは思っているみたいだが、数年前にふうが薪拾いの途中に森でからすにおどかされて怪我をし、罠を仕掛けたことがあった。やけに大きなからすがかかって、隣町に売られていったのだそう。
ふうは森で怪我をしたのがショックだったようで、からすが捕まり、売られたことは知らない。お母さんがこわがりのふうに報せなかったのだろう。でも、ひばりはそれが、美女に変身するからすだと信じている。
そうなると、あへんの売人が来ないのは、ひばりの所為、というか、ひばりのおかげかな。行商人が謎の失踪をする村である。行きたくないだろう。
ひばりは何度も殺人をしたが、玄が一向にひとを殺さないので、わたしに罪をなすりつけて後釜にはいる計画にかえた。計画をころころ変更するということは、そもそもだめな計画だったということだ。
そうそう、村の子達に食べものや些少なお金をあげて、ふうに石を投げてと頼んだこともあったらしい。あれでわたしが怪我をして、玄の所為で自分が怪我をしたと恨みに思って、それを察した玄がわたしを殺す……という、またしてもお粗末な筋書きを考えていたそうだ。
どうしてそこまで玄に執着したのだろう、と思ったが、ひばりは華族の奥さまになりたかったのだ。成程な、である。
ひばりのことは、新聞などで大きく報道されている。玄は父親から、手紙で叱られたそうだ。問題を起こすな、と。
でも玄は、その手紙をひらひらさせて、笑った。
「僕の親父殿は字が綺麗だろう? さく坊の字の手本にどうかな」
警部さんはあれから二度、やってきた。一度目は、お詫びと、ひばりのくわしい供述を報せに。二度目は、牛や豚の骨を沢山持ってきてくれて、だしのとりかたを伝授した。食事も筋トレの一部、ということで、わたしはきっちり自炊していたのだ。でないと筋肉しぼんじゃうもん。
警部さんは庭師となかよくなってしまい、今度はいい酒を持ってきますといって帰っていった。玄が、僕はさけのみはきらいだ、と、不機嫌なりすのような顔になってしまった。
玄のおばあさんからは、心配の手紙と、いわれない罪を着せられそうになったわたしへのお見舞が届いた。お見舞は、バターとはちみつだ。わたしは会ったことのない玄のおばあさんに、それにわたしが料理上手だとおばあさんに伝えたらしい玄に、心から感謝した。
そんなこんなで、わたしは今日も、お勝手に立っている。そろそろ玄が、作次達と一緒に、釣果をぶらさげて威張りながら帰ってくるだろう。今日は、川魚のムニエルにしようか。
「ふう」
玄が飛び込んできた。吃驚したような顔だ。こちらも、突然来たので吃驚した。
「見ろ、信じられんぞ、弟から手紙が来た。さっきしろ坊のおとうさんが持ってきてくれたんだ」
玄は封を切った手紙を振りまわしている。「僕を心配しているんだってさ。それで、おばあさまからふうのことを聴いて、許嫁と一緒に会いに来るって。あいつも気が狂れたかな」
そういいながら、玄は嬉しそうだ。弟さんと、仲が悪いという訳ではなかったのだろう。当人達の気持ちをよそに、まわりがあれやこれややろうとするのが、華族の跡取りに関する問題を大きくしているみたいだから。
玄ははっとして、魚籠を流しに置いた。きちんと処理した川魚がはいっている。
「ふう、折角バタがあるんだ。バタで魚を焼いた、うまい料理があるんだが」
こっくり頷いて、小麦粉をいれた鉢を示した。玄は相好を崩す。「ふう、お前が居てくれて、僕はなんてしあわせなんだろう」
相変わらず、食い気の強い子だ。
わたしは笑いながら、くどに薪をつっこんだ。




