意外な展開
「あの!」
ぴょんと、人垣から女の子がまろびでた。二軒隣の子だ。綺麗に髪を結い上げて、しゃれた櫛を挿している。さっきはこんなふうじゃなかったのに、結い直したのか。
作次がなにかいいかけたが、彼女が遮った。「待ってください、警部さん。玄さまは悪いかたじゃありません。なにかの間違いです」
必死な調子だ。顔色が悪いのは、警部に直にはなすので、緊張しているんだろうか。
「そんな、ひとを殺すなんて、おそろしいことできるかたじゃありません。わたしは信じてます」
大人が彼女の腕を掴んだけれど、彼女はそれを振りほどいた。
「玄さまじゃない誰かの仕業ですわ。あのわたし」
「しかし、今度こそ、証拠があったんでね」
警部が顎をしゃくると、警官がさっと出てきた。手には、手拭いにくるまれたものを持っている。
中身が出てくると、大勢が呻き声をもらした。血にまみれた斧だ。それだけではない。
「ありゃあ」庭師が気のぬけた声を出す。「うちの斧だ」
庭師はひとをかきわけて外に出、すぐに戻った。「薪置き場に置いてあったのがなくなってる」
「ここにありますよ」
警部がいやに丁寧にいう。庭師が目を細くしてそれを睨んだ。
「誰か、とっていきやがったな。俺も旦那さまも、ふうも、そんなオソロシイコトをする程ひまな人間じゃねえ」
「ひま?」
「暇人だい。ひと殺してはらがふくれっか」
庭師がいつになく強い調子でいった。啖呵を切る、というやつだ。警部が鼻白む。
と思ったら、庭師は庭師らしく付け加えた。
「うちの旦那さまアなあ、飯をくうのとふうにかまうので手一杯なのよ。見もしらねえ娘っ子だあ男だあ殺しても、ふうは誉めちゃくれねえってことも、よっくごぞんじだい」
玄が顎の辺りを赤くした。村人が、思いがけない言葉に面喰らったふうにしている。なかには、忍び笑いをもらす者も居た。
「ちげえねえや」
いつも、通りかかると畑から手を振ってくれる男のひとだ。作次が農具の手入れを手伝っている。「ふうは、悪さに厳しいからな。さく坊も、よそのあけびを盗んだって、ケツがはれあがるくらいぶったたかれたっていってたな」
「そうだよ」作次はきょとんとしている。情況がわかっていないのだ。「さく、おなかすいてたんだよ。でも、ねえちゃん、かおまっかにして、ぼうでさくのおしりたたいた」
「ひとなんて殺したら、ふうに殺されちまうなア」
大人達が笑いをもらす。警部がそれを、迷惑そうに見ている。
玄が肩をすくめた。「今のところ、僕は無事だぞ」
「あんたは、犯行時間、どこに居たか、はっきりしない」
警部はそういって、また顎をしゃくる。警官がいう。「昨日の朝九時から、夕方までの間、どこに居ましたか」
「きのう、さくたちにいちゃんといっしょだったよ」
子ども達が一斉に喋りだし、庭師が両手をあげてそれを制した。「さく坊、お前が喋んな」
「うん。さくたち、きのうさかなとりにいって、にいちゃんとおにぎりたべた」
子どもらが追随した。また、庭師が手をあげて、制する。
「きのうはね、さかないっぱいとれたから、にいちゃんがやいてくれた。そのあと、おそらがあかくなるまでかにとりしてたよ」
「おいしかったねえ」
「ねえー」
またしても大合唱だ。今度は庭師も、停めない。警部を見る。
「だ、そうだよ、お偉い警部さん」
警部はむっつり、不満げだ。令状をひらひらさせていたが、懐へ戻す。「俺は違うって、何度もいってたんだ」
「警部さん!」
二軒隣の子が叫んだ。「わたし、真犯人を知っています! ふうです!」




