二軒隣の
野生の勘で避ける。これでも前世はフィットネスクラブにはいっていたし、ジムにだって通っていたのだ。反射神経はきちんと測定してプロアスリート並みと誉められたことがある。このわたしに石をあてようなんて、百五十年くらいはやい。
石がとんできたほうを見ると、ふうと同年代の子が数人居た。女の子が三人、男の子がふたりだ。わたしが小さな動きで石を華麗に避けたからか、唖然としている。
ぺこっと会釈して、近付いていった。子ども達は後退る。「え、えーっと」
「なんだったっけ?」
「あ、ひ、ひとごろしの嫁が来たぞ」
「そうだそうだ」
どうやら、わたしに石があたらなかったので、予定が崩れ、いうべきことを忘れたみたいだ。なにか、台本のようなものがあるのだろう。いじめってこんな感じなのかな? 美人で腕っ節もなかなかだったので、いじめられたことはないから知らない。
すたすた近付いていくと、子ども達は唖然としたままかたまった。目の前で停まり、お辞儀をして、懐から握り飯の包みをとりだした。
男の子がうわあーっと歓声を上げる。「握り飯だ」
「ちょっと」
「あ、ふうはたまごと握り飯をとっかえてくれるって、母ちゃんがいってた」
「ねえどうすんのよオ」
男の子と女の子、多分顔が似ているからきょうだいだと思うのだが、ふたりが握り飯の包みを持って離脱した。「すぐにたまご持ってくる!」
残った三人が、それを見送り、それからわたしを見る。ぎこちない微笑みがある。
「ああ……あのさあ、ふう……」
「あっ」
女の子がいって、逃げ出した。残りのふたりもだ。
なんだったんだろう。
しばらくたたずんでいると、髪を綺麗なお団子にした女の子が、小走りにやってきた。にっこりしている。ええっと……二軒隣の子だ。「おふうちゃん」
おかみさんに似たいいかたをして、その子は懐からたまごをふたつ出した。さしだしてくる。
「源ちゃん、おとうさんのお手伝いがあるから、わたしがかわりに」
源ちゃん、というのは、お握りを持っていった子だろう。わたしは頷いて、たまごをうけとり、懐へいれる。
二軒隣の子は、にこっとした。顔貌が整っていて、可愛い。
「おふうちゃん、大変だろうけど、負けないでね。わたしもおかあさんも、おふうちゃんの旦那さんのこと信じてるからね」
思いがけない優しい言葉に、わたしはついうるっときてしまった。二軒隣の子は、微笑んでわたしの肩を軽く叩く。わたしは袖口で涙を拭った。こうやって、信じてくれるひと達が居るのだ。きっと大丈夫。玄はひとを殺したりしない。
二軒隣の子と別れ、森をぬけてお邸へ帰った。今朝は、人参とたまねぎのみじん切りをいれた、たまごやきにしよう。それにしても、いい子だったなあ。




