警部再び
桐の箪笥は、わたしの部屋に似つかわしくなかったけれど、見ていると嬉しい。
そのなかに、もらった着ものをしまっていく。玄が手伝ってくれた。
箪笥の上に、文庫を置く。「櫛、つかわないのか」
玄がそういうので、一枚とりだした。漆塗りの上等なものだ。まとめている髪に挿しこむ。玄は満足そうにした。
「ふうは可愛いな」
唐突に、そうやって誉めてくる。
ふうは美人ではない……と思う。でも、可愛いのは、そうかもしれない。まるまっちい鼻も、ぱらぱら散らばったそばかすも、秀でた額も。
玄がわたしの頭を軽く撫でた。
「本当に、ふうが僕の妻になってくれたらいいのに」
そういってから、ぱっと目を逸らす。「そうしたら、毎日うまい飯をくえる」
ごまかそうとするのが可愛い。わたしは声をたてずに笑い、玄の袖をちょっとひっぱる。
「旦那さま」
庭師の緊張したみたいな声がした。わたしと玄は、そちらを見る。あおくなった庭師がやってきた。背後に、いつぞやのひげの警部と、制服警官が居る。いや、制服警官はこの間よりも多い。三人も居た。
警部は、頭巾をしていない玄の顔を見て、ちょっと驚いたらしかった。だが、すぐにとりつくろう。
「また、村人が殺されました。調べさせてもらいますよ」
調べる、というようなものではない。家捜しだ。
警部と警官は、ついさっきわたしと玄で整理した、桐箪笥のなかまで、ひっくり返した。ひきだしを全部出して、文字通りにひっくり返したのだ。
不快だったが、玄が顔をしかめて相当怒った様子だったので、わたしは落ち着いているふうを装った。そうしないと、玄が余計に腹をたてる。
玄、わたし、庭師は、四人が家捜しするのについていった。質問されれば庭師か玄が答える。わたしはずっと、四人が不審な動きをしないか、目を光らせていた。このひと達は、やろうと思えば、偽の証拠をでっちあげることだってできるのだ。
さいわい……というか、当然の話なのだが、怪しい動きをした人間は居なかった。四人はなにも出てこないのに釈然としない様子だったが、警部が合図し、もごもごと挨拶をしてから帰っていった。
「ああ、やっとまともに息できる」
四人が居なくなると、庭師がそういって、溜め息を吐いた。「こりゃあ、片付けが大変だぞ」




