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ストーリー動く?




 庭師は勘違いしているが、いやらしい感じもいやみな感じもしない。どうも、庭師は(くろ)のことを弟のように感じているらしく、度々旦那さまに好物つくってやってくれよおなどと頼んでくる。(くろ)を甘やかしているのだ。

 しかし、わたしも(くろ)は可愛いので、好物をつくるのはやぶさかではない。里芋をゆがいたのに、焼いた干物をほぐしてまぜたおかずが、このところの(くろ)のお気にいりだ。毎日出しても飽きずに毎回、綺麗に食べてくれる。

 煮干しのだしと砂糖と醤油で煮て、うすく味をつけた高野豆腐を、水気を軽く切って、片栗粉をまぶし、揚げる。飯はもう炊いたし、味噌汁はたっぷり用意できている。(くろ)はこのところ、朝寝坊をしなくなった。もうすぐ出てくるだろう。

「はやいな、()()

 走るようにやってきて、(くろ)は下駄を履いてわたしの隣に立つ。わたしはそれを、手でしっしっと追いやった。「なんだ?」

 (くろ)は数歩、離れて、ぱちぱちいっている鍋に気付いた。

「揚げものか。わかった。離れているよ」

 (くろ)はそういって、あがり框まで移動した。揚げものをする時は、危ないから鍋に近寄ってはいけないと、それだけは(くろ)がどれだけ権力を振りかざしてもゆるさない。

 からっとあがった高野豆腐を、葉蘭をしいた皿へのせた。こうしておけば、葉蘭を捨てればいいから、皿を洗うのが楽なのだ。

 皿と箸を渡すと、(くろ)は大喜びで高野豆腐を食べはじめた。味噌汁と飯をどんぶりによそい、(くろ)の傍に置く。

 薪を抱えた庭師が戻った。毎日薪を拾ってきても、毎日相当火をつかうから、いつ足りなくなるかわからない。(くろ)が庭師に対抗しようとやたらに薪を拾ってくるのだが、庭師はそれも楽しいみたいで、(くろ)の二倍三倍と薪を拾う。おかげで、外にも薪を奥スペースを設けたくらいに、最近は薪が沢山ある。

 お邸の周囲の森はおもに広葉樹で構成されていて、それが広葉樹の特徴なのかそうでないのかは知らないが、枝が落ちている。拾っても拾っても、森なので枝は幾らでもある。


 庭師はちゃっかり、(くろ)の隣に座り、手についた葉くずを払い落とした。わたしは彼にも、どんぶりで味噌汁と飯を出す。揚げたての高野豆腐もひとつ。不満そうな肩の(くろ)にはもうふたつ。

「旦那さま、昨日の続きをしますかい?」

「当然だ」(くろ)は高野豆腐をはふはふ食べている。「……僕はこれでも、剣術はそれなりだったんだ」

 庭師がにこにこしている。

 昨日の、というのは、一昨日庭師が見付けた、二本のくぬぎのことだ。

 それらはどちらも、根もとが腐れてもろくなっており、そのままだと倒木の危険があった。野草採りをする時や、魚釣りへ行く時に危険がある。なので、庭師と(くろ)とで、一昨日の午后いっぱいかけて切り倒した。

 勿論、それだけの労力をかけて倒したものを、そのまま放置する手はない。庭師と(くろ)でお邸近くまで運び、昨日は一日中、ふたりで小さな斧をふりまわし、木を解体して薪にしていた。


 (くろ)が剣術をやっていたというのは、原作でも二次創作でもかわらない。実際、(くろ)は庭師ほどのスピードではなかったものの、音を上げずに頑張ってくぬぎを解体していた。手にまめができて、痛そうだったが、それでも辞めなかったのだ。

 (くろ)の手には今、包帯をまいている。昨夜、風呂あがりの(くろ)に、まいてあげたのだ。(くろ)は要らないといったのだが、粘った。乾燥させたらよくない気がしたし、皮が剥がれそうなところでもくっつけておけばもとに戻るかもしれない。

 (くろ)は高野豆腐をぺろっと食べ、わたしはまた、揚げたての高野豆腐を(くろ)の皿へ盛る。(くろ)はその間に、味噌汁をすすり、飯を一杯かきこんだ。飯のおかわりをよそって、どんぶりを渡す。

「ありがとう。僕はお前よりもはやく、あれを全部薪にしてみせるぞ」

「そりゃあ、旦那さまの木のほうがもともとちっせえんだから、はやくできないと嘘ですよォ」

 (くろ)がむっとしたのが、頭巾をかぶっていてもよくわかる。わたしは声をたてずに笑う。

 熱々の油がはいった鍋をくどから外し、自分の為に、破れ茶碗に飯をよそった。別の茶碗に味噌汁をついでいると、外からひとの声がした。

 (くろ)がすっと姿勢を正す。庭師が味噌汁の茶碗を持ったまま、のっそり立ち上がって、勝手口を開いた。

 そこには、二軒隣のおかみさんと、皺の少ない洋装できめたひげの男のひと、それに警官の制服の若い男の子が居た。




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