いろいろ、考える
玄は味噌汁と飯を、いじいじしながらも沢山食べた。この調子で食べていたらまずいと思いつつも、食べずにいられないという様子である。
「ふう、うまいか」
そんなふうに、気遣ってくれる。わたしは飯をもぐもぐしながら頷いた。
「なあ、僕の名を呼んでくれないか」
飯を飲み込む。口を開くが、言葉が出ない。玄はちょっと肩を落とし、いいわけみたいにいう。「ああ、いいんだ、気にするな」
どうしてうまく喋れないのだろう。なんだか、声がちゃんと出ない。
玄はちょっと淋しそうだった。
「いつでも僕の名を呼んでいいからな。困ったら頼るんだぞ」
本当は今だって呼んでみたいのだが、声が出てくれないのだ。まるで、咽に栓でもしているみたい。
考えていても仕方がないので、仕事をこなした。
玄はいい子だし、人殺しなんてしそうにない。一体これがどう、あんな殺人鬼になるんだろう。
掃除や食器洗いをしてから、小麦粉を鉢にいれた。塩水を加えて箸でまぜ、まとまったら手でこねる。ひとつにまとまってつやがでたら、ぶちぶちとちぎって、芋虫くらいに丸めた。それを鉢に並べて、濡れ布巾をかぶせて休ませる。
手をゆすぐ。からすの呪いだとか、あへんだとか、そういった要素がある筈だ。それは知っている。だが、からすの呪いがどうして玄に降りかかったか、あへんの売人がどうしてこんなへんぴなところまで通ってきていたのか、それは知らない。というか、「ネオ月下」内で書かれていない。
まさか、玄に対して「あへんをやってますか?」なんて訊くこともできない。
からすに関しては、そんな呪いをかけられるとしても、玄本人がそれを知っているとは限らない。それに、呪われてるんじゃないですか、なんて訊くのはやっぱり失礼だろう。訊くのははばかられる。呪いだとしたら、沢山食べる呪いでは……。
あほなことを考えていると、玄がのそのそやってきた。「ふう、なにかくえるものをさがしに行こう」
今が春の初めなのは、ふうは知っているが、きっちりした日時は知らない。だが、食べられるものは沢山見付けた。ゆきのした、ふきのとう、どくだみ、ふき、つわ、などなど。
そういった山菜は、森に沢山あった。玄は食べられるものがある程度、家の周囲にあるというので安心したらしく、うきうきしたあしどりで、山菜運びをしてくれた。
仕込んでいた小麦粉の生地をのばして平麺にし、醤油仕立ての汁で食べる。山菜はてんぷらにした。ふきとつわは煮ものにしておいて、明日の朝のおかずだ。
玄は夕飯も沢山食べた。
片付けをしていると、お風呂でさっぱりした様子の玄が、寝間着姿でやってきた。「ふう、これをつかいなさい」
木綿の寝間着をさしだされる。見ると、玄は肩をすくめるみたいにした。
「お前、寝間着がないのだろう。僕のお古で悪いけれど、着心地は保証する」
おしつけられた。うけとる。玄はじゃあといって、さっとひっこんでしまった。
玄のいうとおり、木綿の寝間着は着心地がいい。わたしはその晩、深い眠りに落ちた。




