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異端賢者と精霊の使徒たち  作者: 霰
学園の魔剣戦士
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24話


 『赤杖祭』最後の夜は『奉戦の儀』の勝者と、それに敗れた若き戦士たちの健闘を称えるための宴だった。

 かつての騎士団を悼む祭りの総仕上げであり、訓練と体作りに勤しんでいた軍学部の生徒も参加するということで、この日は三日の中で最も騒がしく、そして華やかな一夜だ。

 校庭には騎士たちの陣営を模した飾りと席が無数に設けられ、出店を出していた料理人たちが余った材料をありったけつぎ込んで腕を振るう。それを肴に生徒も教師たちも、来客と思うさまに盃を交わすのだ。

 特に、決勝で名勝負を見せた二人の元には軍部の関係者がひっきりなしに挨拶に訪れ、それぞれに労をねぎらったり、持ち寄った銘酒を分かっては去っていった。

 聖王国において成人は十八歳だが、武人の子は十四歳から酒を教えられる。

 『バルマナ騎士団』がこの地で決戦を行った時の最年少が十四歳であり、騎士階級やそれに準ずる家は彼らに従い、同年齢なった子には戦の倣いを教え始めるのだ。

 十五歳のボリスも一年前から少しずつ酒を慣らしていったのだが、何せ来客の数が多すぎた。

 祭りにはカーマル卿以外にも父親の知り合いが多く訪れており、火酒を五杯干す頃にはボリスはすっかり潰れていたのだ。

 結局、ボリスは酌をしてくれたリリアの膝に倒れ込み、その日はそのまま意識を失った。

 後の事を、信頼する家族に託して。


「……ふむ、フェイさんが、ねぇ」


「はい……確かに、魔法を使ってたと思います。戦ってるお二人は気付いていなかったみたいですけど、最後の一撃の時ご主人様の足元が盛り上がって、それで」


 一足先に寮に戻ったユキは、祭りから離れられないボリスに代わって、リゲルたちに今日の戦いで起こったことを伝えていた。

 祭りの期間が終わるということで、リゲルら一行は明日の朝、王都に帰る。

 本来はその前に相談することがあったのだが、ボリスが思いのほか忙しくなったことと、このフェイの一件があって予定変更となったのだ。

 フェイは、虐待こそ受けていないが『神なし』の奴隷だ。

 にも拘らず、彼女が地属性の魔法を使ったというのなら、それが意味することは一つだった。


「となると、フェイさんが『精霊の使徒』ということは間違いないね。それも、恐らくグウィンに直接通じている。まさか軍属の子に仕えているとは思わなかったけど」


 山を張っていた相手とは違ったものの、ここにきてグウィンの手掛かりらしい相手を見つけたことになる。

 ただ、リゲルら同様フェイもまた、明日の朝にはこのバルマナを発つのだ。

 彼女はアルフに仕えているが、父親の意向で在学中は主人への奉仕を禁じられている。

 その経緯からして、少なくとも何かの計画をもってここに訪れたわけではないのだろうが、それでも何かを探りたければ、今夜を置いては機会がない。

 ユキにもその事はわかっていたのだが、しかしリゲルは然程慌てた様子もなかった。


「……まぁ、フェイちゃんの事は探るけど、アルフ君に仕えているならまた機会があるかな。ちょっと予定とは違うけど、ボリス君には仕込んであるし。ただ一つ気になる事もあるけど」


「気になる事?」


 ユキが首を傾げると、リゲルの代わりにガルズが答えた。


「前に話しただろう。異人が人前で魔法を使うのが危険だってよ。俺みたいに身分を偽装してるなら別だがな……いくらこっそりったって、あんな大観衆の前でわざわざ魔法を使うのがどれだけ危ないかってんだ。大会の優勝ごときのために、博打にしても割に合わんぞ」


「そんなにアルフ君に優勝してほしかったのかしらね?」


 ルシアも父に同調し、一緒に首を傾げている。

 純粋な異人が魔法を使っている所が見つかれば、最悪命に関わるのだ。

 まして、周りには教会の関係者が大量にいる中で事を成すのは、相当の勇気がいる筈である。

 そこまでしてフェイが試合に横やりを入れ、主を優勝させた意味は、確かに余人には想像もつかないことだった。

 だが、


「ルシアさんの言う通り、優勝してほしかっただけだと思います。アルフ様、フェイちゃんにとても優しかったから。ユキのご主人様と、同じように」


 少しでもフェイと親交を持ち、彼女と主人の絆を見た者には、案外簡単に思い至ることだった。

 アルフは、学者を志す研究の条件に、大会での優勝、及びそれに準ずる成果を求められていたのだ。

 彼を愛するフェイは卑怯と、危険と知りつつ、人知れず援護の一撃を放った。

 詰まるところ、主人の夢を応援したかっただけで、やましい理由はないのだろう。

 それを聞いたリゲルらの反応は三者三様だったが、


「……最近の若者は、惚れたらとことん入れ込むんだねぇ」


「命がけの恋ってか? 俺だって昔はもうちょっと落ち着いてたぜ」


「あら、素敵じゃない。少なくともアルフ君は大丈夫そうよ」


 いずれも、アルフには好意を抱いたらしい。

 意見の一致を確認したリゲルは、ユキにそっと耳打ちをした。


「じゃあ、ボリス君に伝えておくれ……間もなくの休暇で、彼を私の所に連れてくるように……その時は必ずフェイさんも同伴させるように、と」


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