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異端賢者と精霊の使徒たち  作者: 霰
学園の魔剣戦士
34/85

9話


 試合に敗れて後、三日ほどを置いてビルスは、どうしてかボリスに親し気に話しかけてくるようになっていた。

 あれだけ打ちのめされた後だ。ボリスは最初こそどういうつもりかと勘ぐったし、実際に「なんのつもりですか」とやんわり訊ねたりもしてみたが、何を聞いても他意はない、とのことだった。

 曰く「君が気に入った」らしい。

 不可解な先輩の行動に、ボリスは不信感を覚えてはいたが、彼の存在は状況によっては有難いものだった。

 今のように、厄介な許嫁が傍にいる時など、特に。


「……ビルス様、何の御用ですの? 私たち、楽しくお食事中なのですけど」


「おやリリア、ふった男が傍によるのは嫌かい? 心配せずとも、僕の目当てはボリス君だよ」


 なんでも、ビルスはリリアの前婿候補、ボリスの前に彼女と縁談があったのだという。

 片や教会中枢に縁ある従士、片や聖王国の騎士団長の令嬢である。

 家格だけ見るとボリスより遥かにつり合いがとれている筈なのだが、一目見ればわかる通り、リリアはビルスを嫌っているらしい。

 ビルスの方は乗り気だったようだが、リリアから猛烈な反発を受け、結局嫁候補が嫌がるままに縁談はお流れになったという。


「……あの時は失礼しましたが、夫婦の睦言を邪魔するのは無粋ですわよ? それとも、そちらの趣味でもおありですか?」


「強く人格ある男に惹かれるのはお互い様だろう? 有望株は一枚噛んでおくのが貴族の処世術……騎士とてそれは変わらないさ。彼の方が強いのだから、僕より彼に惹かれるのは当然のことだね」


 婚約者を探していたボリス――厳密にはアイビナ姫――に白羽の矢が立ったのは、ビルスとの話が破談になった直後。

 ビルスは今でこそ笑っているが、当時は随分と手酷く袖にされたようだ。女好きらしい割に、リリアへの対応は何となく棘を感じさせる。

 リリアもそれがわかっているのか、ビルスの顔を見る目は居心地悪そうだ。

 結局、気の重さに耐えかねたのか、


「そういうことなら、お邪魔はしませんわ。さぁユキ、あっちへいきましょう?」


「……何でユキまで」


「ごめんユキ、付き合ってやってくれ」


 何故かユキと一緒に、別の席へと引っ込んでいった。

 性格的な相性もあって、リリアの撃退はボリスには不可能だ。

 その点、ビルスはボリスにとって思いがけない味方だった。

 仮にも許嫁を邪険にするようで、多少は心苦しかったが、


「とりあえず、助かりました。ありがとうございます先輩……それで、御用件は?」


「まぁ、まずは食べようじゃないか。急ぐことではないよ」


 ボリスはひとまず落ち着いて食事をとれるようになった。

 ビルスの言葉通り、二人はひとまずは腹ごしらえを済ませ、本題は紅茶を啜りながらだ。

 とはいえ、直接『精霊』やグウィンについて訊ねるわけにもいかない。

 ボリスは質問の仕方に大いに悩んだものだが、


「で、君……他所の奴隷をいやに気にしているようだが、何か気になる事でもあるのかい? 愛でるにしても、君のところの彼女以上の上玉はそういないと思うが」


 先に切り出したのはビルスの方だった。

 グウィンは、冷遇されている奴隷に魔法を教え『有神人種』への反乱を促そうとしているという。

 そのため、ボリスとユキは協力して他生徒の奴隷や学園の下仕えの異人たちを探っているのだが、リリアの妨害もあって未だに何もつかめていない。

 ビルスの疑問はその通りで、正に気にしているのだが、あまりに質問が的確だ。

 警戒したボリスが眉を顰めたのに気付いて、ビルスはまた笑った。


「いや、何、愚弟が何やら君の事を探っているものでね。あの愚か者は君に散々やられたのをすっかり根に持っているようだからな……何か弱みを探したいんだろうが、君があいつ如きに足を引っ張られるのは嫌なのでね。言えるような事情なら聞いておきたいのさ」


「……言えない事情なら、どうするのです」


「別に、口裏を合わせるだけさ……弟は適当に誤魔化して、黙らせるとも」


「何故」


「おや、二度同じことを言わせるのかい? 私は男を二回も褒める趣味はないよ」


 詰まるところ、気に入っているから、ということらしい。

 信用するには材料が足りないが、少なくとも悪意はなさそうだ。

 そのためボリスは、最低限の言葉で質問を投げかけた。


「先輩には……奴隷を虐める知り合いは、いますか?」


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