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異端賢者と精霊の使徒たち  作者: 霰
学園の魔剣戦士
31/85

6話


 軍学部に入った生徒が一番つらいのは、結局のところ最初の二日だという。

 まず最初の『回廊廻り』は、単純に新入生に肉体的な苦痛を与え、それに耐える精神力を測る。

 更に、その後の上級生との組み手。

 バルマナの軍学部で学ぶ生徒は、一年目でまず戦闘力を鍛え、二年目では戦術について学ぶ。つまり、二年生の時点で既に魔法戦の教導は終わっているのだ。

 そんな相手との組み手はまだ戦いを知らない一年生に実践の厳しさと、軍属としてどれだけの力が必要なのかを教え、同時に修練を終えた二年生に己の成長を確かめさせ、自信を付けさせる場でもあった。

 言ってしまえば、入学試験の延長だ。

 一年生には辛い所であり、そこで音を上げて退学する者も過去少なくはなかったというが、この厳格さは決して嗜虐のためではなく強い生徒を育てるためのものだ。

 よりによって新入生が、その目論見を真正面から、力づくで潰して見せるなど、誰も想像していなかった。

 ボリスがバルマナに入学して二日目。

 組み手の相手となったビルスは、間違いなく二年生でも一番の秀才だった。

 普通なら間違っても『生意気な一年坊』に負ける器ではなかったのだ。

 それが、


「……うそ、だ」


 斬られた杖を両手で半分ずつ持ちながら、正に悪夢を見ているような蒼白な顔で校庭に座り込み、あろうことか新入生に見下ろされる有様だった。

 風と光の剣はビルスの火球をあっさり吹き消し、的確な寸止めは杖だけを真っ二つに叩き斬って頭上で止まっている。

 威力もさることながら、長年単独で剣の研鑽を積んできたボリスならではの絶技だった。

 本人だけでなく他の生徒たちや、回廊を歩いていた通りすがり、果ては教官に至るまで、ビルスを下した脅威の一撃に立ち竦み、驚愕を露わにしていた。

 それに対して、やった本人はと言えば、


ー―しまった、やりすぎた。


 表情だけは真顔だったものの、内心ではかなり狼狽えていた。

 勝負の相手にビルスを指名したのは、仮にも彼との人脈を作るためだ。

 とはいえ他の意図もあるにはあったし、人格的にボリスは目の前の先輩と相容れない。人間関係の構築は、どちらにせよ困難だ。

 それにしても『衝天』の一撃は威力過剰だった。

 『大精霊』を宿すボリスにとって『大火球』を吹き消す程度の芸当なら、魔法の威力を数段落としても可能だった。

 しかし、ユキを貶められた怒りで制御が狂った。

 対人用の適当な手札を使うつもりが、天災砕きの秘術を振るってしまったのだ。


「……教官、これで決着で宜しいですね」


「あ、あぁ……次!」


 風の剣を解いて教官に進行を押し付け、その場を退きながらも、ボリスはこれからの身の振り方に今から頭を悩ませる羽目になった。


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