夏祭り(陸と海)
こちらの作品は香月よう子さま主催の「夏の夜の恋物語企画」参加作品です。
海からの風に
白波がたっている
遠くには 漁船がぼんやりとみえる
海から少女が
後ろを何度も振り返りながら
よろよろと
はじめて歩く赤子のように
陸に上がってくる
波打ち際
ひとりの少女が海を見つめたたずんでいる。
その後ろの防波堤の上を子供達が、神社に向かって走っていく。
今日は、龍神様のお祭りの日、ひとりの少年がふと立ち止まり海を見る。
少年の名は陸
陸は、少女に気がつき、砂浜を駆け降りていき、少女に声をかける
「お前、何してる?」
「祭り行かないのか?」
少女は、首を傾げながら
「・・・・・ 」
声を出そうとするが、うまく喋れないみたいだ
「足がいたい」
かぼそい声で一言
陸は、少女の足元を見ると、白く細い足首に血がにじんでいる。
草履も履いていない。裸足だ。
陸は、少女の前にしゃがみこみ
「おんぶしてやる。俺っちまで行けば、ねーちゃんの草履あるぞ」
少女は、恐る恐る少年の背中に、少女の濡れた髪の毛が陸の首すじにあたり、少しくすぐったかった。
陸は、今来た道を戻って行った。
その姿を見た子供達は、やんややんやとひやかしたが、陸は、頬を少し赤くしながら走って行った。
家に戻る頃には、あたりは夕焼け色に染まり、海からの風も少し強くなっていた。
陸は、
「おかあ、この子に何か履くもの貸してあげて」
「どこの子だい?」
「名前は?」
「海」
「陸と海、あと空があれば完璧だ。ワハハ」
「ほれ、草履」
「あ、確か雪が着ていた浴衣があったな、それも着てみるか?」
海は、コクンとうなずいた。
「歳はいくつだ?」
「10歳」
「陸と一緒だ」
「ハイ、出来た。行っといで」
陸は、海の姿を見て真っ赤になってしまった。
「ホレ、行くぞ」
ヨタヨタ歩く海を見て、ほれと背中を指さす。
「海、飛ばすぞ、祭りが終わってしまう」
神社に着くと、お囃子の音が聞こえてくる。
参道の左右には、屋台が所狭しと並んでいる。
綿菓子、りんご飴、金魚すくい、海が金魚の近くに行くと金魚が海の近くに寄ってくる。
口をパクパクしている
「海、金魚と話し出来るのか?」
「うん」
「なんて言ってる?」
「お誕生日おめでとう」
「海、今日誕生日か?」
「うん」
「ちょっと、待ってろ」
陸は、ポケットの小銭を確かめ、射的の屋台に走って行った。
さっき、前を通った時、海がお花の腕輪を見ていたのを思い出したのだ、
「おじさん、はい」
そう言い、小銭ををおじさんに、変わりに弾を3個もらい、陸は狙いを定める
パン!
あー、だめだ
こんどこそ、しっかり狙いを定めて
パン!
少しかすった。
最後の一発だ、絶対当てるぞ
パン!
あー、当たってユラユラしてる。落ちろ、落ちろ、と願う。あ、落ちた。
「はいよ」
「おじさん、ありがとう」
陸は、急いで海の元に走って行く。
「はい、これやる」
箱を開けると、お花の腕輪が入っていた。
海の顔が、くしゃくしゃになって、泣いているのか、笑っているのか分からない、
「陸、あ、あ、ありがとう。」
陸の身体全体が心臓みたいにドキドキとしている。
顔もみるみる真っ赤になっている。
「ほれ、腕出してみろ、つけてやる」
ふたりは、フワフワ綿菓子を食べた。
海は初めて食べる、綿菓子にビックリ!口にいれたら溶けてしまう。
口のまわりにいっぱい砂糖がくっついた。
ふたりでケラケラ笑いながら、歩いていると、陸の友達が、
「たこ焼き食うか?」
と言ってきたが、海は陸の後ろに隠れて、
「タコさんかわいそうだからいらない。」
「うまいのになあ」と陸
楽しい時間は過ぎてしまうのが早い、もうお祭りも終わりに近づいてきた。
人も少なくなってきた。
海は、陸の後をとぼとぼとついて行く。
「海、おまえの家はどこだ?」
防波堤の途中までくると、海と出会った場所に。
海はひとり砂浜に降りて行く。
「どこへ行く、危ないぞ。」
「陸、ありがとう。とっても楽しかった。
来年も同じ日にここで待ってる」
アレ、俺何してたんだ?
あー、祭り終わってる。
なんで、ねえちゃんの浴衣と草履持ってんだ?
潮の香りがする。海の香りが、、?
1年後・・・・・・・・・
浜辺にたたずむ少女
陸が少女に向かって駆け降りて行く。
「海、」
少女の腕には花の腕輪が、
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